第26筆 煌炎神

 翌朝、窓を覗くと虹が出ていた。

 朝虹は大雨の前兆と聞く。そして良からぬことが起こる前兆とも──。

 呪い避けの御守り魔導具と折り畳み傘を〘画竜点睛アーツクリエイト〙で人数分召喚。

 慎重に出来ることは慎重にする。画家として学んだ経験からだ。


 昨日と同じように30分かけて城門の前に向かう。

 礼装を身に纏ったドワーフの男性が待っていた。

 ディルクさんである。


「おはよう」

「おはようございます。今日もお願い致します」


 ディルクさんが城よりも大きい隣接した塔を指差した。


「気付いているだろうが、あれがアウロギ様が住まう塔じゃ。六聖塔が一つ、煌煉こうれんの塔。庭園から入れるから案内しよう」


 それは燃え盛る炎を具現化させたかのような猛々しくも美しい意匠の塔。

 所々に散りばめられた不規則な三角形のステンドグラスは採光による黄金比を計算し尽くしており、陽光を受けて赤、赤紫、黄色、橙赤、黄緑、青緑、青色へと輝いている。

 上空には魔法で形作られたであろう不死鳥型の炎が警備のためか、周囲を巡回している。

 

 六聖塔……圧巻の一言に尽きる──!


 画家として否、芸術家として一度はこれに並ぶ立体作品を作りたいね! 思わず筆を取って描いたほどであった。今のうちにフラグを立てておく。

 いつか世界を創造したら美しいもので溢れた世界にしよう。


「オミくーん、行くよ~?」

「ごめん、見とれちゃったよ」


 勘違いしたのかミューリエきゅんは紅潮して顔を隠していた。


「いや、その……塔が綺麗だったからさ」

「あ、そっち!? 勘違いしちゃった……うぅ、恥ずかしい。(私のバカ……)」


 勘違いさせてしまったことを申し訳ないと思いつつ、ミューリエきゅんに手を引っ張られる。

 広大な庭園を右手に進み10分程。

 真下から見ると、煉獄の炎で浄化されそうな程の威圧感を覚えた。


「では入るぞ。」


 ディルク爺が塔の入り口に近づくと自動で開いた。自動ドアはこの世界で初めてだ!

 美しさのみに終わらず、内部の技術面でも唸らせてくるとは……神々の塔恐るべし。


 入り口から入るとエレベーターのゴンドラのようなものがある。それに乗って昇っていく。エレベーターもあるのもびっくりだ。電気ではなく蒸気機関だろうか? だが、もくもくしているところを全く見ない。


「アウロギ様は新しいもの好きでな。高さ20階まであるこの塔に自動で上がる機能をつけろと言われて苦労したわい。

それがこの昇降機じゃ。

元々はシノから聞いた蒸気機関車や昇降機を元に開発したもの。

モデルにした蒸気機関車自体も開発に向けて進めているが中々進まん。

ウィズム嬢ならそのデータベースとやらで今度教えて欲しいの。」


「わかりました。今度お教え致します」


 話を聞いただけでここまで開発出来るとは、流石ドワーフの職人。ウィズム、後で教えてあげようよ。アウロギ様もどんな神だろうか。


「着いたぞ。最上階だ。」


 目の前の扉には焦がす炎や火山が噴火する猛々しい彫刻と左右にドワルディア家の紋章(紹介状の蝋はんこになってたマーク)と火属性のエレメントマーク──(冒険者ギルドにも同じデザイン)の彫金があった。

 隣同士にあるということは加護下にあるということだろう。

 ディルク爺がノックをした。


「入れ」


 若々しく張りのある声が響いた。

 扉が自動で開かれ、十代前半の赤とオレンジのメッシュヘアの少年がいた。


「ようこそ。僕の名前はアウロギ。火属性とそれに関わる魔法、ものを司る神だ。僕と同じ赤髪の青年よ、君が芸術と召喚術の神マサオミか?」

「はい。はじめまして、東郷雅臣と申します。108代目イカイビトで召喚師です。この塔、技術だけでなく、意匠まで美しく思わず筆を取ってしまいました。」


 これを聞いてアウロギ様は喜色に溢れた表情になった。


「それは嬉しいね! 頂こうか」


 炎を模した赤い額縁を召喚してキャンバスに取り付けて渡すと彼は部屋の壁へと飾った。


「うん、良いね! あっ、そうだ。ディルクから聞いていると思うが、僕は新しいものが好きだ。この塔の昇降機もそうだし、何よりも自分自身にも新しさを求めた。禁忌の魔法だが、転生の魔法を使って、何度も生まれ変わっているんだ。不死鳥が自身の身を焼いて生まれ変わるようにね。」


 己の身を焼く……。幾度も自殺して転生するようなものか……中々のストイックようだ。

 自分だったら身を焼くなんて怖くて、それが出来るアウロギ様には敬意を払える。


「敬意を払ってくれるか、ありがたいな。肉体年齢が20を越えると己の身を焼いて再構築するんだ。

皆無茶しすぎだと言うのだが、君のことを気に入ったよ。

お求めのエレメントストーン六聖紋章石を渡したいのだが、試練を与えないと渡せない決まりでね。古臭くて嫌なんだけど、仕方ないし試練を与える」


 心を読まれたか。ウィズムっちやコスモちゃんと一緒だ。


「長生きな神なら心が読める。ミューリエ姫のような若い神はまだ出来ないけどね。

 それでは試練だけど、戦闘の試練は飽きた。

 実力十分な君には必要ない試練だ。そういうのは邪神にぶつけてくれ。うーん、そうだなぁ……」

「ドゴォォォォォンンン!!」


 突如、俺が描いた絵を飾った壁が轟音と共に崩れ去る──!!


「キュミュフフフフ!! みーっつけた! 快楽に溺れるが良いわ! アウロギ、マサオミぃぃぃ!!」


 徐々に白煙が消えて見えてきたのは胸と股間のみを包帯で巻き、ほぼ布のボンデージを着た変態女だった。

 女は恍惚の表情で涎を垂らしながら、アウロギ様に狙いを定めて手に装着した四本の鉤爪でアウロギ様に切りかかった。


が、流石は神といったところか。


 背後の太刀掛台に置いてあった刀で受け止め余裕綽々の表情で弾き飛ばしている!

聖鎧顕現せいがいけんげん〙と呟き、顕現した甲冑を身に付け、刀を再び構える様はまるで武士もののふのよう。


「うん、決めたよ。これより、試練を開始する。横にいる邪神教のアバズレ魔神、ロミュカミュシアを討伐せよ!」

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