第24筆 新生、ウィズム 前編

~翌朝~


 一言で表そう。不死鳥の煌めき亭、最高に尽きる! 何と言ったって、ここにはお風呂があるんだから!


 ディルク爺が建てた王立孤児院の子どもが成長してここを建てたそうだ。お風呂が大好きで宿にも浴室を設けたとのこと。

 亭主はほんわかとした若い青年だ。極楽とか言って湯船に浸かる姿が想像出来る。


 昨日の寝る前に入ったが、今朝、朝風呂もしてしまった。風呂に入れない日々があった為、水を大量に使う風呂の有り難みを痛感するなぁ。


 時刻は9時か。城門の前で待ってるって言ってたっけ? そろそろ行こう。

 郊外にある宿屋を出て、彩り豊かな石畳を登っていく。


 今日もまた新しいデザインの石を発見した。

 葉っぱのデザインだ。

 やはり遊び心があって面白い。悠々と眺めながら移動も良いが、距離が長くて億劫に感じてしまう。


 これでも神力による脚力強化で速度上げて歩いているんだけど。



 ~30分後~


 ……うん、やっぱりこのくらいはかかる。そろそろ見えてきた。髭を三つ編みにしたオヤジ、ディルクさんとメイフォリアさんではないドワーフの女性がいる。


 胸元が見えるライダースーツみたいな革製の作業着、レモンイエローの髪に乗った保護ゴーグルが特徴的だ。


「おはようございます」

「おはようじゃ、マサオミ」

「はじめましてだね、マサオミくん。伝説の召喚師だと聞いてるよ。ウチはディルクの妻、シアナ・ミゼフ・ドワルディア。ゴーレムの製造が得意なんだ。身体は大丈夫かな?」


 ディルクさんの奥さんだったのか。ドワーフの寿命は600年ほどで、ドワーフの女性は500歳を過ぎるまで童顔で若々しいそうだ。

 その為、シアナさんも年齢不詳である。


「おかげさまで。もしかして専用の開発場所があるんですか?」

「そうだね。ちょっと待ってね……手を繋いでくれない?  直ぐに移動するから。行き先指定・工房、

 詠唱破棄。〘秘密転送シークレットワープ〙」


 シアナさんの手を繋ぐ。場面が変わり、蒸気機関で様々な設備が動く場所についた。金床があり、使い込んで錆びたペンチ、皮手袋などが壁際のフックにかけられている。


 一見、凡庸な工房に見えるが、微かに聞こえる空洞音から様々な機能を有した部屋に繋がっているのだろう。


「ここは王宮地下にある秘密工房さ。早速構築していこう」

「ウィズム、準備は良いか?」

『楽しみなのです♪ 』


 ポーチからウィズムの本体を取り出す。立方体が交わっているデザインで、中心に丸い珠が旋回し始め、ホログラムを投射開始。

 ウィズムがペコリと頭を下げた。


「初めまして、お兄さまの義妹いもうとのウィズムです。宜しくお願いします」

「きゃわーッ! これは凄い! ディルク、これ凄くない!?」

「お、おう。わかっとるから揺さぶるな、頭が回る」


 シアナさんは興奮を抑えられず、ディルクさんをワルツのように振り回してるところが可愛らしい。


「特筆すべきところは魔力式モニターとも違うし、この丸い珠……機人族オピキュー機心核キューレとは一線を画している。全くもって見たことない技術だわ! 更にエネルギー源は不明。魔力の痕跡はなし。本体は軽くてどんな技術で姿を映し出しているの!!?」

「うぷ……儂も気になるところじゃ。これが宇宙最高峰の技術、恐れ入った」

「俺の師匠、コスモちゃんが作ったウィズムのコアです。ホログラム機能で姿を写しているんですよ」



 眉が動き、興味深そうに眺めるシアナさん。



「コスモちゃん……彼女についてはディルクからイカイビトの先導者だと聞いてるよ。神々より上の存在ってね。流石、イカイビトを送り出したお方だけある。よーし、ウィズムちゃんの要望通りに作っていこうかな!」

『わぁぁぁ! 嬉しいです!』


 シアナさんは肩を軽く回して身体をほぐしていた。前向きな返答に、ウィズムはホログラム越しに嬉しそうに目を輝かせている。


「うむ、まずは設計図を書くぞ。気付いたことは儂に言ってくれ」



 俺も参加してウィズムの要望を聞きながら、羽ペンでスケッチを描く。ホログラム通りの黒髪に赤い瞳、成長出来るように大人の姿も描いていく。


『えっ、大人の姿にもなれるんですか!?』

「人間と同じスピード設定にしておく」

『きょにゅーになりたいのです。もっとこう、ばいーんと』

「はいはい、胸の大きさだけで全て判断する人間はろくな奴じゃないから気にするな」

「同じくじゃ。たまたま好きになった女性が胸が大きかっただけ。それで良いと思うぞ?」

『えーっ、みんな酷いのです。ほら、ばいーんと。魅力的でしょう?』

「フフフ、胸が大きいのも苦労するのよ」


 ホログラム上で胸元に大きな輪っかを描いて表現するウィズム。非常に滑稽こっけいだが、本当に巨乳になれるかは彼女の頑張り次第だろう。


「シアナさん、ディルクさん、設計図通りに召喚しますので、パーツごとの調整お願い致します」

「任せな」

「了解!」


 注釈欄を編集していると召喚用画面をつつきながらシアナさんが疑問を呈した。


「この自動成長機能つきって、一つ一つの細胞をいじるようなもんだよ? 本当に大丈夫?」

「自分が〘召喚サモン〙したものは勝手にこの機能がつくのでご心配なく」


 仕上げの塗りと色味の調整をして召喚。


「──動け」


 ひとりでに組み立てられていく部品に唖然とするシアナさん。鑑定魔法を使用して息を呑む様は〘画竜点睛アーツクリエイト〙の真髄しんずいに触れたと言えよう。


「えぇーー、き、規格外だわ。こんなに難しいのはワクワクするね」

わしとて今代の筆頭神器鍛治師。職人冥利しょくにんみょうりに尽きるわい」


 ディルクさん神器が作れる方だったのか! それなら自信を持って任せられる。


 素体はアンドロイドロボットみたいにして、立体的に描きたい。SNSでVR上で立体的に描く機能見たことあったけどあれ欲しいなぁ。ウィズム頼む。


『やったー! 了解でしゅ。私の身体が出来るとあらば追加しましょう』


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 ~世界の声です~

 空中描写が可能になりました。

 これにより立体的に描くことができます。360度召喚用画面を使わずにどこからでも描くことが可能で、細かいディテールも表現出来ます。


 ベタ塗り、ぼかし、グラデーションも表現できます。特にロボットやゴーレム、彫刻など立体物の生成に役に立つと思われます。以上世界の声でした。

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 オオー! 凄いぜこれ。リアルタイムかつ、画面無しで描いたものが直接召喚されていってるし!! 

 召喚というより、地球じゃ一台10億円だった全物質3Dプリンター(生命含む)を使って目の前で生成してる感じだ。

 かなり楽になったし、他の骨組みを描いて──


「マサオミくん、ちょっと待った! その機能凄いけど、関節部分はこうした方が動きやすいじゃない?」


 シアナさんがどこからか人間の骨格標本を取り出して腕の関節部分を指差した。


「なるほど、失念しておりました。理想としてはアンドロイドロボットのようにしたいですね。滑らかな動き、対衝撃性、剛性、普段は柔肌やわはだですが、敵の攻撃時に硬質化出来る皮膚はどうでしょうか?」

「ダイラタンシー流体寄りの皮膚か……良かろう」

「良いと思うよ。召喚お願いね」



 時折アドバイスを聞きながら俺とウィズムの要望を出していく。


「そう言えばアン、ド、ロイド? ロボット? ってなんじゃ?」

「聞いたことがないわ」


「自分の故郷でのゴーレムみたいなものです。人工の人肌を持ち、人間並みに高い知能を搭載した魔力回路を有し、身体能力も非常に高いです」


 ディルクさんが難しい顔をして質問した。


「……んん? ホムンクルスとは違うのか?」


「違いますね。ゴーレムの部分が強いです。あと骨部分つくり直そうと思います。ウィズム、俺の肋骨もあげるから、宇宙で最も硬い物質を君の骨として構築しよう」

「はいなのです。少々お待ち下さい」


 俺の身体はドナー適性が高いので、転生してから融通が利きやすい。

 骨は一時間ほどすれば生えてくるから問題なし。変わりに空腹感が激しくなるけどね。


「検索中……ありました。 が最適でしょう。」

「あ、やっぱり? それ使っちゃう?」


 コスモちゃんから再構築された俺の身体にもこの核パスタが含まれている。含有量が高いから、コスモちゃんがつけた異名は“歩く惑星”らしい。



「改めて解説致します。長文説明ご注意くださいませ。核パスタとは実在する物質名で、中性子星の地殻深部にのみ存在する物質です。お兄さまがお住まいになっていた地球太陽系にある太陽の、約8倍の以上の質量の星が崩壊しないと形成されない激レアなものです。

 核パスタは、質量が8倍の太陽が大きさ20kmほどの核にギュウギュウに詰め込まれたような超過密状態でしか生まれないといものなのですよ!

 粉砕するには鉄粉を粉砕するのに必要な力の約100億倍の力が必要となります。この世界では壊せるヒトなんていないでしょう。神でさえもです。

 作り方としては、


 1. 死にかけの大型の星を超新星爆発で崩壊するまで約10億年煮込みます。


 2. 崩壊した星の核に残った電子と陽子を、良く合わさるまで激しく撹拌して超高密度の中性子スープをにします。此処では必要に応じて重力をかけてください。


 3.カナダ、トロント(630.2k㎡)くらいの大きさの気密球に中性子シチューを詰め込み、結晶質の地殻で覆い、摂氏60万度でグラグラ煮立たせると、完成します。

 要約するとこの世で最も硬い物質です」



 あぁ、とんでもないカオスな調理表現をして出来上がる最高硬質の物質だと改めてわかった。

 付け加えるなら、意志に呼応してどこまでも硬くなる為、途轍もない鍛錬が必要なんだ。


 あ、ぽかーんとしてる二人(ディルクさん・シアナさん)がいる。


「お二方、説明すると全世界で最も硬い物質を骨部分として活用しようか、と話したところです」


「ん? ん? 一応理解したつもりだけど難しいよ。世界は広いんだね」

「いやはや、凄いなそれは。次の工程に移るとしよう」


 

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