第23筆 ディルクの正体

「……オ…ミ…くん……オミ……くん!……雅臣くん!」


 まどろみの中、聞こえてくるミューリエの声に目が覚めた。俺は宿屋のような施設でベッドに横たわっていた。


「やっと目が覚めた……!  心配だったよ。あれから7日間寝てたんだから──!」


 ミューリエが安堵の表情を浮かべ、ぎゅっときつめに抱き締めた。背骨が少し痛いくらいだが、それほど心配してくれたことを物語っている。

 あの時に何が起こったのかを説明してくれた。


「クリストラ洞窟で〘転送〙失敗してオミくんだけ倒れたんだよ! ディルクさん、クリストラ洞窟は〘転送〙禁止区域なのを忘れてたみたい。

 転送禁止区域は邪神の呪いがかかっていて、異世界出身者は意識が飛んでしまうの。

 それからお詫びでディルクさんの奢りで宿屋にタダで泊めてもらって医師さんからも診てもらってね、別の世界に意識が行ってるって聞いたからコスモ様の所かなって」


「いや、夢を見たんだ。母胎にいた頃の記憶が蘇ったんだ。俺には弟がいて、彼が身代わりになってくれて無事生まれることができた。それから──」


 ミューリエに事情を説明していく。


「そっかぁ、弟さんいるんだね! 神々の世界……どんな所だろう? 私も行ったことないね。……あっ!」

「どうした?」


 彼女は何かを思い出したようで、赤い蝋はんこが押された封筒をカバンからいそいそと取り出した。


「これこれ。ディルクさんからオミくんの目が覚めたら王宮に来て欲しいって、紹介状預かってるよ」


 王宮? ディルク翁は王室の関係者ってことか?国王に会えるとしたら火聖神に会えるよう取り次いでもらいたいところ。

 とりあえず行ってみるか。


「わかった。行こう」

「ごめんね、病み上がりで……」

「気にしなくて良いさ」

「そう?」

「うん」


 背中をさすられて、「無理しないでね」と心配の一言を頂き、着替えの準備に入る。

 〘画竜点睛アーツクリエイト〙を展開、画集アートブックに描いて保存しておいた衣服を指パッチンで召喚。これでカーテンで囲まずとも一瞬でタキシードに早変わり。

 ユミトからこういう使い方もあると教えて貰った。


 一階の部屋から出てルゥとオロチさんと合流する。


 ミューリエに話したことをそのまま伝えると、二人にはかなり心配された。二人の優しさに有り難さを感じた俺だった。

 宿屋から出て名前を確認する。〈不死鳥の煌めき亭〉と書いてあった。


 宿屋の後ろには、背の高い石垣の上に高くそそりたつ王城。その隣に城よりも高さがある塔があった。

森に囲まれ、段々畑のように街が作られており、流石ドワーフの国とあって、ジュエリーショップや武具工房、防具工房、魔導具の店、蒸気機関設備、酒屋が多い。


 王城が丘の頂上にあり、城門まで敷設された石畳の表通りを真っ直ぐ下まで歩けば港まで繋がっていて、導線もよし。

 石畳を見ていると時々ハートマークがあったり、花の形や歯車のデザインなどの物があり、意匠に職人の遊び心を覚える。

 表通りを通って30分程、門の前に辿り着いた。


 門の前には厳つい屈強なドワーフの若者二人がハルバードを持っていた。当然俺らは通せんぼされる。


「王城に何か用か?」

「紹介状があるのなら確認しよう」


 俺はディルクからもらった紹介状を見せた。

 ハンマーと斧がクロスしその後ろに不死鳥のデザインがされた赤い蝋はんこがくっついている。


「そっ、それは陛下が直々に書かれた紹介状!」

「大変失礼致しました! 直ぐにお目通し致しますので、少々お待ちくださいませ」


 陛下? ディルクさんって重臣なんだね。

 数分位待っていると城門が開いた。

 開いた城門から出てきたのは甲冑を着た童顔なドワーフの女性だった。


「トウゴウ・マサオミ様とミューリエ・エーデルヴァイデ様、ルゥ様、オロチ様、ウィズム様。大変お待ちしておりました。

 マサオミ様につきましては、病み上がりと伺っております。ご無理を成されないようにお手伝い致します。

 不肖ながら王国親衛隊隊長、メイフォリア・ブルターニが案内させていただきます」


「よろしくお願い致します」


 律儀で

 分厚い門を抜けると噴水のある広場があり、そこからさらに巨大な観音開きのドアを開ける。

 巨大な螺旋階段があり、メイフォリアさんの案内に続く。十階まで上がった所でこれまた巨大な廊下がある。

 どうやら最上階のようだ。

 その奥に今までのドアとは違う豪華絢爛な装飾が施された扉がある。

 その右側の部屋で10分程待って欲しいと言われた。


「……はぁ、やっぱり俺様は待つのが嫌だ。どうにかならんのか?」

『オロチさま、通常なら三時間は平気で待たされます。だから超VIP待遇です』

「そういうもんなのか?」

「そういうものです」


 オロチさんが愚痴るのをなだめているとノックが入った。


「失礼致します。陛下との謁見の準備が完了しました。お入り下さい。」


 再び案内され、豪華絢爛な扉の前に立つ。

 男二人がその巨大な扉を開く。開いた先に見える玉座に座っていたのは正装に身を包むディルクさんだった。



◆◇◆◇◆◇◆



 ディルクさんって王様だったのか!?

初対面の時に見た酒瓶を床に撒き散らし“酔いどれ帝”と呼ばれ呑んだくれている姿じゃなくて、綺麗に三つ編みした髭、いつもの甲冑姿ではない礼服のような装いをしたディルクさんが王だとは思わなかった。


 全員あんぐりしているのにウィズムだけがクスクス笑っていやがる。君、知っていたな。


『だって、この驚くところが面白そうだと思ったので放置しました』


 いつから人に隠し事する悪い子になったんだ。

 俺はそんな相棒だとは思わなかったぞ。

 真面目にならないとコスモちゃんに怒られるぜ。あの手この手の罰ゲームしたって良いんだね?


『ひ、ひぃぃぃ! せ、性的なのはないですよよよね?すみません、次からは言いますぅぅ!』


 性的なことなんぞやるか!俺はそんな変態じゃない! 真面目にやってくれ。本題に戻すよ。


「ファーハッーハー! 騙してしまったようですまんな。ウィズム嬢が黙ってくれたお陰で話しやすい部分もある。改めて自己紹介しよう。儂は第178代ミゼフ王国が国王、ディルク・ミゼフ・ドワルディアじゃ」

「改めて、宜しくお願い致します。どうしてシャルトュワ村にいたんですか?」


 ここが疑問だった。王ともあろう者がなぜ辺境の村にいたのか?


「火の神からの伝言、イカイビトが来ることをシノ、ダルカスに伝えるのが一つ目、ナゴルア山脈に不穏な気配を儂の愛鳥、不死鳥フェニックスのハウザーが感じ取った。

 行ってみたらエンシェントカースドラゴンのご登場というわけじゃ。三つ目に家出したい欲求が抑えきれなくてな、丁度三つとも重なった」


 隣には火花を散らすだいだい色に煌めく鳥。止まり木に佇んでいて、尾羽は床に付くほど長い。

 特殊な能力を持っているのかも。

 若いときも家出していたようだし、俺と同じく自由を縛られるのが嫌なんだろうな。



「ハウザーについては守護精霊じゃ。それぞれの国家元首に守護精霊、または霊獣がいる。まれに個人で霊獣と共に生きる者がいる。あと、マサオミ。

何か要望があると聞いたがなんじゃ?」


 ウィズムの身体……素体についてである。


「ウィズムの身体を作っていただきたいのと、火聖神アウロギ様に会いたいです」

「そうか。ウィズム嬢の身体を作るのは面白そうじゃ。私と妻と一緒に作ろう。マサオミは勿論パーツを召喚するのだろ?」


「勿論そのつもりです」

「陛下、良いのですか?」


 メイフォリアさんが制止する。

 ディルク王は当代の筆頭神級鍛治師と⟬エリュトリオン全集⟭には書いていた。

周りの者が黙ってはいないだろうが、だからこそお願いしたいのだ。


「可愛い後輩の願いを断りたくないしな。儂が鍛治するだけ皆騒ぎすぎじゃ。世知辛いわ」

「すみません、陛下」


 ディルク王に言われるとメイフォリアさんは引き下がった。


「煌炎神アウロギ様には儂から話しておく。“封印のエレメントストーン六聖紋章石”がいるしな。封印をかけ、解くことも出来るものじゃ。一度解いて倒すのだろう?」


 こればっかりは三年間の修行でも詳細が掴めなかった。渦巻山に封印されているのはわかったが、それ以上調べようとすると邪神によるジャミングがかかっていて打つ手なしだったのだ。


「うーん、行ってみないとわかりません。一応ご助力願う感じです。」

「そうじゃな。行ってみないとわからん。

 明日、ウィズム嬢の身体をつくり、明後日アウロギ様に会うスケジュールにするが良いか?」

「わかりました。お願い致します」


 純真な笑顔でルゥが手を振った。


「じゃあねー、ディルクお爺ちゃん~」

「陛下に失礼な! 」


 憤激に漲った面持ちのメイフォリアさんの表情にルゥはきょとんとしている。


「良いんだ、メイフォリア。ルゥは特異点だ。元々はスライムだった。彼女に粗相があってはならんぞ」


 まさかあの子がそんなわけないと驚嘆する彼女の表情に俺は思わずクスッとしてしまった。


「とと特異点なのですか!? ほほほ星神の化身……!? に二度もすみません、陛下っ!」

「わかれば良い」


「では、また明日お願い致します」


 思い付く限りの最高位の敬意を払い、深々と礼をする。


「あぁ、また明日じゃ。明日は朝、城門の前で待っといてくれ」


 こうして謁見は終了した。堅苦しくないって最高だ。やり易い。


「あぁ~、疲れたぜ。明日はどうする?」


 オロチさんが気だるそうに腕を伸ばした。俺と同じく堅苦しい場は苦手らしい。これで元経営者なのだから驚きだ。


「俺とオロチさん、ウィズムはディルクさんの所へ。ルゥとミューリエはお買い物で良いかなって。」


「別々は寂しいな……」


 まるで世界が終わるかのような寂しくて憂鬱な顔をされた。


「いや、あのね、たまには女子会楽しんで欲しいんだ! 旅は長いし息抜きも大事じゃない?」

「ふーん、そう? そう言うんなら楽しんじゃおっかな♪ 」

「だね!」


 ルゥも同意している。


「ルゥちゃんあれ買っておこうよ」

「何なに~?」


 早速何を買うか盛り上がっているようだ。

 俺らも頑張って最高のボディをウィズムにプレゼントしよう。

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