第22筆 真意

 なんとか滂沱の涙を塞き止めて、心を落ち着かせて悠弓翔ユミトに質問した。


「あの時、何で戻るって言ったんだ?」


 この質問をすると弟は沈んだ表情になりうつむいた。余程の事情があったことが窺える。


「……あれは酷かったよ。数多の世界の呪いが集約して魂を握り潰そうとしたからね。母さん共々殺すつもりだったらしい。僕の命を以てして抑えようとしたけど、無理だった。

だけど、日本の神々の皆さんの協力で難局を乗り越えた。それから降りかかる兄ちゃんの災難を退けて前世と〘画竜点睛アーツクリエイト〙の因果関係の研究を続けた。

実体は持てなかったけど、今、兄から貰った体がここにはある」


 ははーん、格好つけちゃって。君のうつむいた顔から光る雫がこぼれているじゃないか。


「あぁ、本当に俺は駄目な兄だなぁ。弟にこんなに重荷背負わせる奴なんているかなぁ」

「だ、だって兄ちゃん優し過ぎるよ。守護霊として見守ってきたけど自己犠牲が過ぎるし……」


 すまない、思い当たる節が多すぎるんだが……。

 頼まれたら断りきれないし、他人だけが苦労する案件は自分で全て背負って代わりにこなしてた。


「まぁ、兄ちゃんらしいよね」


 ユミトは涙を拭いてニカッと笑う。


「できの悪い兄ですまん」

「独りよがりな弟でごめん」

「ぷっ、フ……ハハハハハ!」

「くふっ、アハハハハハ!」


 25年ぶりに再会した双子の兄弟は苦笑いをした。


「なんだよ、このしんみりした感じは! 」

「似合わないね……!」

「あ、そうそう。画竜点睛アーツクリエイトについて情報交換しよう」


 研究をしていたと聞いたので情報交換したが、三年間の修行時にでた結論と合致した。


 非常に力の大きな神の影響と干渉があると。


 そうでなければ初めて使ったあの日、望むものと違うものを召喚するという意思のようなものの説明ができないからだ。


 しかし、弟は〘画竜点睛アーツクリエイト〙よりも気になることを言った。


「でもね、一番の収穫があったのは僕とお兄ちゃんが天照大御神の孫だってこと。母さんは天宇受売命の娘で、父さんは天照の息子ってね。

 だから神力も使えるし、神器もノーリスクで使えるわけだよ。」


 ………はぁ?

 あのー、それ初耳なんですけどっ!?!


「あの微笑みの悪神夫妻めぇぇぇ……! いつも薄気味悪くヘラヘラと子どもに隠し事とか親がすることじゃねぇよ!」

「プッ、アッハハハ! 兄ちゃんおもしろーい」


 悠弓翔ユミトがけらけらと笑っている。

 悪神夫妻とは両親のことである。いつも笑顔でスルーされる、あのやるせない感情は表現し難いものがある。

 一時期血が繋がってないと思って、DNA検査したくらいだ。……血は繋がってたけど。


「はぁあ……仕方ない、前向きに考えるか! イカイビトが太陽神の孫とか助っ人として強すぎない?」


 道理で火属性と光属性の相性が抜群なわけだ。


「うん、そうだね! あと、兄ちゃん、マイハ──コスモちゃんからお呼びがかかってるから僕はここでお別れだね」


 お別れか……。25年ぶりの再会なのに寂しいよ。

 ん? 今コスモちゃんのことをマイハニーと言いかけたような……?


多分気のせいだ。気のせいだと思いたい。宇宙の創造主が弟と恋仲などとは……許さんぞ!兄よりも先に結婚なんて!

 父さんよりも俺が先に断る!


「兄ちゃん、どうしてそんな般若の形相をしているんだい?」


 はっ! いつの間にか怖い顔に! むにゅむにゅと顔を動かして元に戻した。スマイル、スマイルは大事ね。


「また会えるかな?」

「だったら大丈夫!」


 悠弓翔ユミトがボトムスのポケットから長方形のものをおもむろに取り出した。それは一枚の黒地に赤い矢絣やがすり模様が部分的に入ったプレートだった。


「これ、兄ちゃんの分。全ての宇宙の神々が集う世界、神悠淵界しんゆうえんかいへの通行証だよ。邪神討伐が終わったら報告しに行ってね。僕は基本ここに住んでいるから」


 そう言って悠弓翔ユミトも自身のものらしきプレートを取り出した。くどさを感じない落ち着いた金色に白いラインが二本入ったデザインだった。


「アカシックレコードで見たけど、本当に行けるようになるとは……」


 プレートを受けとると名前とどんな神なのか簡単に彫られている。俺の場合、『芸術と召喚術の神』と書かれている。もう一つ???の神とあるが文字が掠れていて読めない。


「この部分は?」


 弟に掠れた部分を示して見て貰う。


「っ!? これって……兄ちゃんまさか原初の魂の生まれ変わりなのかも!? 七源神という神々のトップがいて、現在四名が空席なんだよ。行方不明だったり、転生してたりしてて今捜索命令が出されてるんだ」

「まっさかー! 俺がそんなデカイ神なわけないない!」

「もしもそうだったら自慢の兄だね!」


 そんなに持ち上げても出てくるのは描いた絵くらいだよ……。

 こんな与太話をしているとユミトが転移門を出して踵を返した。


「お別れの時間だ。そろそろ朝がくるね」

「ん? そうなのか?」

「皆心配してるよ! ここって次元の狭間だからエリュトリオンより時間が経つのが早いんだ。何かあったら来てね! 兄ちゃんの願いなら飛んででもいくよ!」


 そう言ってくれると兄ちゃん嬉しいわ。

 あっ、いけね。出会った人には通信用アクセサリーとイヤリングを渡すように決めたんだった。


悠弓翔ゆみと、通行証のお返し」


 優秀な弟はこれを見ただけでどう使うのか理解したようだ。

 装飾の後ろにある宝石製ボタンを押して伝えたい相手のことをイメージすれば連絡出来る優れものだ。イヤリングは骨伝導で音声を受け取るようになっている。


「便利だね! 兄ちゃんこっちの転移門出しておくからくぐると元に戻れるよ」

「悪いな、ありがとう!」


 ユミトの転移門は純白の和風の城門でコスモちゃんのお茶友に作ってもらったらしい。


 ユミトは唯一世界ユニバースワールドへ。

 俺はエリュトリオンへ。



 また、会えるさ。自慢の弟だからな。

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