第20筆 ルゥの進化
翌朝。
何事もなく朝を迎えたかというと違う。
トレントの薪を燃やして焚き火していたら匂いで気付いたのか般若の形相でブチキレたトレントがやって来た。
だけど、フレシュの友人だと伝えると哀れな顔をされて帰っていった。
あいつ哀れ過ぎない?俺らも哀れな顔をされるとかなんなの?
まぁ、普通の薪と違って二年くらい干さなくても良いし、油分も多くて燃焼時間も長い。
しかもすぐに使えるときた。キープしておこう。
早速洞窟に入る。黒い岩壁にちらほらと宝石がむき出しになっている。
ディルク爺が引き続き案内してくれた。
「ここはクリストラ洞窟。水晶や、宝石類が良く取れる。これを使った宝飾品もドワーフの国の名産だ。他の鉱山、洞窟と違ってここは魔力溜まりの一つ。大量の魔力が宿った宝石類が多いぞ。
魔物も宝石を食べる食性を持った奴らがおる。
たまに魔力を狙って強力な魔物が来訪するときがあって大層強いから、出くわしたら要注意せよ。
今は不幸にも其奴らが多くてな。道中討伐隊とすれ違うこともあろう」
「
ルゥはスライムよろしく食欲旺盛だが、君の食性は一体どうなっているのかね?
「ルゥは何でも食べるか。どれ、俺様も質の良い宝石を探そうじゃないか。ルゥ、どっちが良い宝石を見つけれるか、そして討伐数を競おう! 」
「
っておい!?
あー、もう。颯爽と行ってしまった。オロチさん、俺たちの保護者代わり且つリーダーと宣言しておきながらこのような行動……仕方ないので俺も追いかける。
「心配なので行ってきます!」
「ちょいと! そこは出口に繋がるルートじゃないぞ! 戻ってくるんじゃ!」
「もう、オミくんったら。ディルクさん、追いかけましょう」
「はぁ、そうじゃな。オロチ殿は勝手な行動をするから困るわい」
俺はルゥの方を追いかけていった。だってオロチさんは〘神器解放〙すれば天衣になって強制で戻ってくるからね。多分文句言われるけど。
ぽむんっぽむっと跳ねながら移動していたが面倒臭いと思ったのか六対の翼でパタパタ飛び出した。
だが、飛び出した先にルゥがゴツンと何かにぶつかって跳ね返った。
良く見れば宝石の身体を持った巨大なゴーレムでこのあたりだけ祠のようになっており、祀られているような感じだ。
ルゥはキラキラした目で眺めていた。
「
『解析中。お兄さま、それは
振動か。重力操作できるルゥなら楽勝だろうな。さぁ、どうする?
「
悪意を感じる? どういうことだろうか?
ルゥは口を開き、あのちんまい両手を前にかなりの振動を出した。
下手したら洞窟が壊れるかもしれない。耳鳴りにも似た高音域の音が
急いで耳栓を召喚して塞ぐ。
ボロボロと崩れていくゴーレムの身体。
欠けていく度に宝石部分をルゥは片手をびよーんと伸ばしてキャッチして身体の中に入れている。
体内で宝石を味わっているようだ。
段々と崩れて行って出てきたものは……真っ黒な筋繊維のみのマネキンみたいな奴だった。顔にはマスクが取り付けられており、黒煙と白煙が漏れ出ている。
「……ガイテキヲ、カクニン。キ、キドウセヨ。コフォーー、シュウゥゥゥ……」
『あれは……“終わりのゴーレム”フェリオス!?なぜ邪神の眷属がここに?しかもあのタイプは神器しか効きません!!』
ウィズムっちが震え声で動揺していることを鑑みて、邪神が感づいて狙ってきたのかもれない。
だが、神器が効くなら俺の出番かな。
「ルゥ、下がってくれ。あいつのコアは食べて良いから。」
「
一人っ子だったからお兄ちゃんって呼ばれるのはやはり嬉しい。お兄ちゃん頑張るよ。
「〘神器解放〙──!」
「おいおい、なんだ? いきなり呼び出して。ちょうど俺様は馬鹿デカイ水晶塊を見つけたばかりだってんのに。って、なんだあの禍々しい雰囲気を持った人形は?」
「邪神の眷属、フェリオスです。手伝って下さい」
「ちっ。仕方ねぇ。手伝ってやるわ」
日本神話で最も激しい炎とはなんだろうか?
それをイメージしながら刀身に炎を纏わせる。
いざ、開幕。
「⟬
八相の構えを取り、頭を水平に切り落とし、胸を突き、腹を切り、股間から切り上げ、左腕、左手、右腕、右手、左足、右足を切り落とした。
再生する可能性があると推測し、切り口は炭化させたので再生しないはず。
バラバラになった肉体を焼き払って鞘を閉じて爆破。
──終幕だ。
「フォーーーォォォ──!?」
多数の部位を切った感覚は食肉に包丁を通す感覚とは全く別物だった。
ブチブチと筋繊維が切れて行くあの感覚は気持ち悪さしかない。
「コフォーーォォ。……マダダ……ユダンシタナ?」
っ! まだ生きているのか!?
こいつ、エンシェントカースドラゴンより強い!
フェリオスは炭化した我が身をもろともせず、腕を再生し、
「……クラエ。〘
途端、大気中の気温が急激に上昇して大汗が出る程に暑くなった。俺の額に浮かぶ汗を蒸散させて爆発させる!
だが、瞬時に
「……ヌッ!? ナゼ、ソンナコトガデキル?」
フェリオスには動揺の声が漏れている。
さて、お披露目の時間といこう。
魔法が使えないから駄目だって?
違う、必要ないほどもっと高位の能力を習得した。
それが三年間の修行で得た能力の一つ、〘
魔法が使えない代わりに日本の神々から力を借り受けることによって、魔法以上の効果を発揮するものである。
「コシャクナ……」
分化した腕を再び纏め上げて二つの腕へと戻したフェリオスは強大な技を放とうとしているのか、構えを変えた。その変化を見逃さずに背後へと迫る。
「ごめんね、フェリオス。俺にはさ、まだ先があるんだ」
「……!? イツノマニ!!?」
彼には数秒も経たない内に背後に移動したと思っているだろう。俺はフェリオスの両腕の原子構造を崩壊させる手刀打ちを放ち、だらりと垂れたそれを左手で握って縛り、空いた右手は……
「悪役みたいなことしてごめんね。〘
蒼白い炎で包まれた右腕を太陽の中心温度と同じ約1500万度の熱で纏い、腰から
相反する二つの極地的な温度差を保つのは中々難しいものだが、修行のおかげで難なくできた。
念の為、体内にある星核の力を使って核分裂を起こすことも考慮したが、フェリオスにはそこまでの耐久性はなかったようだ。
十秒経つ頃にはフェリオスは塵すらも残さず消え果てた。
腹から出した
これを逃してなるものかと目をキラキラさせながらぱくんっと一口で噛まずに飲み込む。
するとルゥの身体に変化が起こった。
光を放ちながらぷるぷるの身体は光り出し、全身を包み込む。
ルゥは今から起こることを理解しているかのように光のシルエットのままジャンプした。
頭のようなものが出来、胴体っぽい長いものが出来始め、細い腕、長い脚が伸びていく。
光がキラキラと粒になり始めた時、類い稀なる美貌と背中に六対の翼が生えた。
髪のベース色は水色。根元は青く、毛先のみ橙色のボブカットヘアの美少女が全裸で女の子座りしていた。
つい、小さな膨らみで二つの桜色に染まったそれと割れ目を見てしまった。
「むぅーー! 雅臣お兄ちゃんのヘンタイ! 」
パチンッ!
「イッタっ! ごっ、ごめん!」
視線に気付いたルゥが唸る。恥ずかしさを感じて頬を赤らめ、さっと胸と股間を隠した。
えーっと誰?ルゥだよね?
~世界の声です~
ルゥさまがスライムから魔人族(有翼)へと進化しました。
彼女は特異点として特別な成長を許可されています。
能力の再編成を行いました。
能力について
・捕食
・能力吸収(
・一般的なヒトと変わらない本能と知能
・神に次ぐ圧倒的な身体能力
・飛行
・重力操作・振動操作
・土魔法神級
となりました。
マサオミさま、私としても彼女の裸姿はちょっと……なので服を着せてください。
以上世界の声でした。
『世界の声さまが言っているように服を着せましょう』
「あぁ、ちょっとな。早く服をルゥに着せてやってくれ」
そう言って彼は顔を反らした。
神話通りにオロチさんの強い
地球にいた頃のJCが来ていたようなガーリーで可愛い服(丸襟にリボンを結んだワンピース、フリルつき)、下着を召喚した。
美大在学時にファッションの授業習っといて正解だった。すぐに描けるのが救いだ。
「ルゥ、立てるか?」
「大丈夫、立てるよ雅臣お兄ちゃん」
「おぉ、喋れるようになったのか!」
「うん♪」
慣れない手つきながらもルゥに下着と服を着せる。
「ルゥ、ばんざいして~」
「こう? 」
「あぁ、そうだ」
下着を着せた後、オロチさんも手伝ってくれた。
20代半ばくらいの見た目に反して女の子を育て上げたシングルファーザーなのを聞いて、見た目で判断すべきではないと改めて痛感した。
「チクチクしないか? 」
「うん、大丈夫だよ。こういうの初めて」
服を着るのは初めてらしく、小さい子どもに服を着せる要領でやっていく。背中に翼があるので着脱しやすいスナップファスナーを採用したおかげで難なく終えることができた。
この子、仕草がいちいち非常に可愛い。
「わーい!」
「あっ、ちょっと! はしゃがないで! 服が痛むから!」
「まぁまぁ。子どもらしくて良いじゃねぇか。また召喚すれば良いだろう」
ルゥが嬉しさのあまりはしゃいだせいで服は砂埃だらけ……。砂埃を払って、乱れた髪を梳かしていると、後ろから聞き馴れた声が聞こえてきた。
「あっ、オミくーん! 勝手な行動しないでって言ってるでしょう!? 」
「全く困るのぉ。三人とも勘弁してくれ。ん? 三人? 誰じゃ、その水色髪の少女は?」
「
「……ん? いや、それはあり得ん。100年前に確かに儂らで封印したのだぞ。だが、あれは完璧ではしな。とうとう綻び始めたか? いや、半年以上は保つはず……召喚絡みか……」
「え、封印済みなの!? 」
ミューリエはびっくりしていた。封印済みとは全く知らなかったようだ。
「実はね、私が復活したのは数年前なの。8500年位ずーっと眠っていたんだ。だからもう封印済みとは知らなくて……。」
「それは仕方ないね。コスモちゃんは何で言わなかったんだ?」
「コスモ様知ってるんだと勘違いしていると思うよ」
あの天然鬼畜教官型の宇宙の創造主め〜。もうちょっとどうにかならんのか? 長生きし過ぎで報連相がおざなりだわ。
「その感じだとコスモ殿から聞いておらんようだな」
そこから俺とミューリエ、ルゥ、オロチさんは100年前のことを聞いた。
邪神討伐のメンバーがシノ、ディルク、ダルカス、モモミ、ステルヴィオ様の5名で向かったこと、シノさんとダルカスさんが結婚したこと、最終決戦で倒せず、剣神聖モモミさんが亡くなり封印せざるを得なかったことを聞いた。
「儂らは一時の安寧より、永遠の平和が欲しかったのじゃ。それが叶わぬ夢となれば悔しさしかないわ」
どうやら聖剣使いがいないと邪神討伐がスムーズに行かないらしい。必ず見つけて交渉せねば。
六聖神の封印にあれを追加したのが気になった。
「あれとはなんですか? 風聖神ステルヴィオ様は今どちらにいますか?」
「そうだな、ほとんどのヒトには訪れるもの、じゃ。行ったらわかるぞ。ステルヴィオ様については東方の大陸にいる」
「それとその少女は誰じゃ?」
「え、みんな忘れたの? ルゥだよ?」
「ほう、ルゥが喋るようになったか! 確かに翼も六対あるな」
「ルゥちゃん、可愛いね! 進化おめでとう! その服はどこから?」
「ありがとう、ディルクおじちゃん、ミューリエお姉ちゃん。この服、雅臣お兄ちゃんが召喚してくれたの」
嬉しそうに彼女はくるくると回っている。
ちなみにワンピースは首の後ろにボタンを着脱し、背中は丸い穴を開けており、翼が動かしやすいようにしている。
画家になる前はファッションデザイナーになろうとしていたのを思い出した。数々の大手ブランドから引き抜きオファーが来たことが懐かしい。
板金の鎧を着けなくて良いよう、鎧の形の防壁魔法と軽くて丈夫な革鎧が有事の際に出現する仕組みを作った。
「話が長引いた。時間としてはもう昼過ぎ。軽い食事をしてから出発しよう。」
軽食で食べやすいものの一例と言えばハンバーガーだろう。では召喚だ。
「これはハンバーガーじゃねえか。日本にいたとき、よく食べたなぁ。皆、とりあえず食ってみろ」
「どれどれ……うむ、案外うまいな」
ディルク爺も喜んでくれたようで……うん、安定の美味しさだ。
ファストフードは万国共通の味。皆口に合ったようで何よりである。
オロチさんは日本にいたとき何をしていたのだろう
「俺様か?〘神器解放〙で呼ばれるまで個人的な贖罪で各地を仕事して働いてた。
だから現代日本には詳しい方だ。ある時は俺の体の一部とか魂石を祀ってる神社の神主だな。
社長業を中心に色々やってたが、常に今が最も楽しいぜ」
オロチさんは人殺しの罪と禁酒の贖罪してたのか。真面目にやってるのが凄いなぁ。
やらなかったらめっちゃしばかれたのかな。
「あと、出るまで3日かかるが、お主ら火聖神アウロギ様に会うのじゃろう? ドワーフの国、ミゼフ王国前まで行ける転送を使うが良いか?」
ディルクさんが魔方陣を書き始めた。最後の所に良くわからない文字を書いて出来上がったの見て、ふと思い出す。
ここは転送禁止エリアだったような……?
俺の疑問をよそに同じ魔方陣を4つ書き上げそれを一番最初に書いた。
「魔方陣の上に乗ってくれ。詠唱は破棄する。〘
魔方陣の上に乗ると意識が飛んだ。
体が軽くなり、〘
眩しさを感じて再び目を覚ます。
あれ? 王国じゃない?
そこには幼き赤子の男の子が一人いた。
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