ミゼフ王国編

第19筆 幻惑の森

 シャルトュワ村から北上した所にある森に入ってすぐ、シノさんに渡したネックレスからメッセージが届いたが、先代イカイビトのメッセージだ。大切なことを吹き込んでいるはず。必要になったときに聞こう。


「今進んでいるヤルロの森、別名:幻惑げんわくの森を抜けてくると、水晶や宝石類が大量に採掘されるクリストラ洞窟に進むルートにしますが、宜しいでしょうか?」


「うむ、別に皆空を飛べるからそれも良いが、世界を知り、地理を知っておけば道にも迷わずエリュトリオンを進めるじゃろう。この森、幻惑の森と言われるほどに常に濃霧のうむが上空まで立ち込めていてな、正しいルートを通らねばどっちみち迷うのじゃ」


 ディルクさんの意見にミューリエは頷いた。


「おっしゃる通りですね。空路でオミくんに会いに行きましたが、ヤルロの森周辺だけは上空高く霧が立ち込めていました為、避けて行きました。陸路をあらかじめ把握しておいておけば楽でしょう」


 確かに。最初から空路は迷ってしまいそうだ。

マッピング出来るものを召喚しても良いだろうと

『エリュトリオン全集』を開く。


一番最後の数ページに「地図を追加せよ」と唱えると全大陸が描かれた世界地図、大陸ごとの地図、地名ごとの地図、現在地がわかる地図が生成された。


 もう少し詳しく見ようとしたが……うん?少し霧が濃くなってきたせいで見えなくなった。これは迷子になりそうだ。


「霧が濃くなってきたな。霧の妖精フレシュが発生させているのだろう。奴はいたずら好きで有名じゃ。これを利用して惑わしたりするモンスターたちがいるからな。それと樹人がこの霧を利用して不意打ちをかけてくるときがあり、奴等は人間嫌いじゃ。余所者を異様に嫌うところがある。絶対に儂からはぐれるなよ」


なるほど、霧の妖精の影響だったわけね。

となると気を付けないといけないな…痛っ。


 つっうぅぅぅ──!


 額ぶつけちゃったよ。

 さっきまで無かったぞ、この木。足元から根っこが飛び出し始めてる…… まさかトレント?

悪いが邪魔をしないでくれよっ!


「フン……」


 斬撃が避けられた!? 早いなあいつ。っていない。どこに行ったんだ?


「おう、どうした雅臣?」


心配そうにオロチさんが声をかけてくれた。


「オロチさん! 良かったー、はぐれたかと思いましたよ。トレントにぶつかって逃げられました」


「俺も同じだ。でもあそこにトレント…… 違う、俺様がいる!? 」

「いや、俺もいるんですけど!?」


 鏡もないのに同じ姿をした俺とオロチさんがもう二人いる。気づけばディルクさんもミューリエもルゥもいない。

霧の奥からまた俺とオロチさんもどきが出て来た。霧の妖精フレシュだろうか? こいつは何をしたいんだ?


──あれ? 俺の幻は消えてオロチさんの幻が出て来て10人程に囲まれ、襲ってきた。

 俺はするりと避け〘神器解放〙する。こうすれば俺が羽織を着るから戻ってくるはず……。


『ひぇー。びっくりしだぜ。俺様としたことがこんな霧に騙されるとは思わなかったぜ。雅臣、天叢雲剣を使って叢雲と相殺してみろ』


『ボクもそれが良いと思います』


 俺は天叢雲剣の力を継いだ刀(仮)改め、⟬霹臨天胤麿へきりんてんいんまる⟭と名付けた愛刀を天に掲げる。

前回と同じく叢雲積乱雲が発生し始め、霧が晴れた。霧の水分をまとめて雲に転換、吸収するというわけか。

いや、広義には同じ存在だったな。


 流石は神剣。天候を操るくらい普通か。

 紫雷が落ちる設定をオフにして叢雲が去るようにしてもらう。

 叢雲も消えて晴れ渡り、木漏れ日が射す。


 少し離れた所にぶるぶる震えるモコモコした体を持ち、くりくりな目で泣いている奴がいた。

 うぅ、やめてくれ。俺は弱者をいじめたつもりはない。


「君が霧の妖精、フレシュか?イタズラはいけないよ」

「ごめんなさいでしゅ。まさかキリをジンギでケスとはオモッテなかったでしゅ。だからイジメナイデ……」

「いや、悪さしたのは君だからね?そのうるうるした目を向けないでくれ。俺が悪いみたいじゃないか」

「ふふふ、ダマサレタ騙されたやーい。くらえっ」


 フレシュが全力で飛び込んで来たが今の速さは見える。もふもふした身体をキャッチして俺は妙案を思い付いた。オロチさん的にはとてもワルい顔をしていただろう。


「君、罰ゲームな。覚悟はいいか?まぁ、楽しみにしとけ」

「え、コワイ怖いでしゅ。ハナしてしいでしゅ」


フレシュは更に震え上がり涙目になった。


「ウィズム、魔力の流れは人それぞれだったよね? それを利用して二人と一匹をサーチしてくれないかな?」

『わかりました。彼らをサーチします。 ……いました。北西から2セルダ離れています』


 少し、急ぐか。天衣の力を使い、全速力で飛ぶ。樹木が生い茂って入るため、避けるのも注意しなければならない。


「狭いところを潜り抜けるのも良い訓練だ。雅臣、楽しめ」

「勿論、そのつもりです」

「しゅえええぇーー!!?」


 あ、そうだった。フレシュを抱っこしたままだったけどもっと速度上げちゃおう。そろそろつくから我慢してね。


『お兄さま、そろそろ見えてくるかと』


 良かったー、無事だった。目の前で颯爽と彼らの前に登場しよう。


「わぁっ!? オミくん! 心配したんですよ。

後ろに付いてきたのかと思ったらいなくて、一緒に付いてきていたのはトレントだったんですから。

むかっと来たので薪にしてあげました」


「ほんと、その通りじゃ。あのときのミューリエ嬢と来たら……」

「私のオミくんを何処にやったの!? 散りなさい!

とか言ってトレントに極大魔法ぶっぱなすところじゃった。儂が押さえてトレントを切ったからよかったものの、神の怒りによる極大魔法なんぞ森が消し飛ぶ。ミューリエ嬢も心配なのはわかるが、その癖も治して欲しいし、マサオミも気を付けろ」


「皆さんすみませんでした」

「それとな、雅臣、ちょいと耳を貸せ。ゴニョゴニョ」


 本当に好きな奴にしかあんな行動はしない、か。そうかもしれない。もしかして両想い? まさかね。ずっと俺の片思いでしょう。

 あ、フレシュが極大魔法の話を聞いて更に震えてる。


「ミューリエ、お詫びでプレゼントを用意してる。霧の妖精フレシュだ」


ミューリエはフレシュを見るやいなや飛び付いた。


「わぁー!! 可愛い、もふもふしてますねっ!! 」

「きゅう、きゅうう~~!(宜しくね、フレシュくん!)」

「くすぐったいぃぃっ!アッ、そこヨワいから、ヤメテくれ~~! 」


 暫くこのまま歩いていると、時々トレントに襲われそうになったが、フレシュがもふもふされている所をみてなんか哀れな顔をした。


『|オマエ、ニンゲンニ人間にツカマッタノカ捕まったのかアワレダ憐れだ


 そう言って去ってしまった。フレシュとトレントは仲が良いのかもしれない。

 結局、洞窟の入り口までずっともふもふされていた。ウィズムっち曰く普通の人ならこの森を出るまで3日かかるらしい。


俺たちの魔力強化した脚と『エリュトリオン全集』に記載した地図を見ながらだと一日で踏破してしまった。洞窟まではフレシュは入れないらしい。


「しばらくもふもふされたくないでしゅ。ぼくはノロいのエイキョウ影響モリマモシゴト仕事があるから、ココからサキにいけないでしゅ。

(でも、ミューリエちゃんのおっぱいをタンノウ堪能できたのはギョウコウ僥倖だったしゅー。←(小声で言った)」



 あぁん? あいつ、⟬天胤麿てんいんまる⟭で叢雲の一部にしてやっても良いんだぞ? なんてセクハラ野郎だ。

 ミューリエも苦笑いしているじゃないか。

 って、俺も寝込みを狙って葛藤していたから人のことは言えないか。


「じゃあな、フレシュ」

「俺様を霧で騙してくるとは流石だ。また遊ぼうやフレシュ」

「イタズラは程ほどにな」

「そうですよー、フレシュちゃん」

きゅう、きゅうーー! またね、フレシュちゃんー! 」

『また会いましょう、フレシュさま。あぁ、もふもふしたかったなぁ。早く身体が欲しいのです!』


「ミンナ、またおうでしゅ〜」


 俺たちはフレシュの姿が見えなくなるまで見守った。だが、もう夜だ。

この辺りで一泊して洞窟に行くことにした。

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