第16筆 小さな祝杯

 シャルトュワ村に帰って来た俺たちは昨日会った門番に大歓迎された。


「よくやってくれたよ。君は村の英雄だ」


 笑顔で迎えられ、門を開けてもらうと……


「小さな英雄たちののお帰りだー!!」

「家畜がダメになっちゃったけどありがとう!」

「お疲れさま~!!」

「無傷で帰ってきたな。素晴らしいぞ!!」

「お兄ちゃん、悪いドラゴンを全部倒してくれたんだね!!」


 村人たちが大勢で迎えてくれた。

 おうおう、誉められるのは慣れていないんだ。

 めっちゃ嬉しいな。家畜については探し回ってもいなかった。残念だが、召喚しておくか。

 ナゴルアドラゴンについても後で説明しよう。



 俺たち4人は村人たちに胴上げされて、冒険者ギルド、シャルトュワ支部に戻ってきた。

 胴上げされるのは初めてで、学生時代は持ち上げる側だったから新鮮味を覚える。


 この時間帯ならば開いている扉に「準備中」の看板がかけられており、貸し切り状態なのが窺える。

 中から騒がしくも賑やかな声と演奏が聞こえていた。


 早速開けてみるとこちらでも称賛の嵐。


 こういう時こそ謙遜すべきだと思い、おかげ様精神で対応して報告する。


 肉が焼ける香ばしい匂いや、香辛料の香りが食欲を唆り、忘れていた空腹感を思い出させた。


 酒場スペースで料理がどんどん運ばれていっている。シノが沸き立つ人々を片手を上げて抑え、報告を求める。


「良くやった四人と一匹よ! 早速じゃが、聞かせてくれんかえ? 」

「はい、実は──」


 小鬼族たちが突然変異して小鬼狂戦士ゴブリンバーサーカーになっていたこと、報告にあった場所に行ったら北の大陸にいるエンシェントカースドラゴン禁魔合成混沌竜がナゴルアドラゴンを全て食い荒らしたこと、天叢雲剣あめのむらくものつるぎで一撃で倒したことを報告した。


「雅臣は日本の神さんに祝福されているのかもねぇ。しかし、あの禁魔合成混沌竜エンシェントカースドラゴンが出てくるとは……。

 アタシとして考えられるのはまず、邪神はあり得ない。転送させたかシンと同じように召喚させたかだねぇ。

 断言が出来ないよ。

 とにかく本部に伝達魔法で速達だね。リコ、書いておいておくれ。」


「あっ、はい。わかりました。皆さんごゆっくりどうぞ」


 もう一つ聞きたいことがあったんだ。


高瑞津国たかみづのくにってどのあたりですか?」


「あそこは江戸時代の日本のような場所じゃよ。どうやら600年前の人が建てた国らしくてのアタシとマサオミと同じ日本の生まれだったみたいだね。

日本刀も和食もあって友好的な鬼もいるよ。是非とも行ってみると良いの」


 鬼までいらっしゃる……イカイビトって日本の採用率が高いがランダムなのか。

 いや、コスモちゃんが100年を一区切りにしてその中から最強の人財が自動的に選出される為、ランダムだと言っていた。


 しかし、俺の場合は天命まで生きていないから、日本の神々の配慮によってここまで来たらしいが、誰がやったのかは黙っていて欲しいとお願いされているとのこと。


 異世界転移や転生は実在している認識を持つ地球人が選ばれる可能性も挙げられるということか。


「後、注意が一つあるねぇ。神器には強大な力の分、代償があったりする。もしかしたら八岐之大蛇ヤマタノオロチさんが宿っとるかもしれんね」

「わかりました。気を付けます。」


 天衣に八岐大蛇が宿ってても可笑しくない気がしてきた。

 ウィズムっち、天叢雲剣に何か宿っていないかリサーチを頼みたい。


『了解です』


 酒場スペースでおっさんたちが豪華な料理と酒を準備していた。女性冒険者はあまり多くはない。

 おっさんばっかりで目が疲れる。ディルク爺はいるかな………いた。


「ディルクさんにお願いしたいことがあるのですが。」

「なんじゃ、マサオミ? とりあえず飲め」

「あっ、どうも。」


 林檎酒シードルを注いでもらい、俺もお酌で返す。おぉ、基本的に甘いが時折くる酸味と辛さが癖になって美味い。


「俺たちドワーフの国に行きたいんです。道案内してくれませんか?」


「よかろう。儂もそろそろ国へ帰ろうと思っておった所じゃ。悪いが、明日出発でも良いか?」


「ミューリエ、明日どうする~? 」


 俺のお姫様ミューリエは千鳥足で蜂蜜酒ミードを溢しながら俺の隣に座った。

 しかも左腕を胸に寄せて絡ませてきた。


「明日出発にしまふ~。ドワーフの国には六聖神が住まう塔があってぇ~邪神を倒すには六聖神の力添えが必要ですよ~。

 オミくん、まだやるべふぃことは多いんですふぇ~」


 腕をそっと引き剥がして、髪が乱れていたのでかして髪を結い直しておいた。


「了解、ミューリエ。では明日出発でお願いします。」

「髪整えてくれてありがおふぅ~」


 あれは完全に出来上がってしまっているな。出るときが面倒だ。


「うむ、宜しく頼む。明日の朝、ここで集合じゃ。(あの方へ会わせてみよう。)」


「ディルクさん、また小声で言いませんでした? 」


 あの方って一体誰なんだろうか?


「何も言っとらんぞ? 」

「そうですか。また疑ってしまってすみません」


 会ってみたらわかるみたいだし、今は気にしないで良いか。

 そう言えば豚の一頭焼きとか鶏の丸焼きとかあったな。かなり美味しそうで、香りによる誘惑が凄まじい。

 あぁ、我慢出来ない。

 俺はオヤジ等と一緒に乾杯した。


乾杯ア・チュール〜!! 」


 この世界にはかつて悪魔がいた頃、この乾杯の音頭と共に祓う役割が名残になっているとか。

 地球にも似たような話が残っているしね。


 そこからわちゃわちゃと騒ぎ、酔いすぎた俺は酒の勢いに負けて禁魔合成混沌竜エンシェントカースドラゴンを倒したことや、天叢雲剣のことを話して武勇伝みたいになってしまった。


 ミューリエも甘い香りがする果実酒苺ウイスキーをがぶ飲みして更に泥酔していく。

 その辺にしとけって。

 そして俺はまたも驚くものを見てしまった。


 


 しかもあの小さい両手でジョッキをつかんでぐびぐびと飲んでいやがる。

 驚きのあまり、半分ほど酔いが覚めた。

 しかも俺が一杯呑んでへろへろになった火酒も、余裕で飲んでるし。


「おー呑め呑め、ルゥちゃんや」

「そうそう、ぐびっとね!」


 ってこらこら、オヤジ等、面白がって酒を更に飲ませるな。

 ぷはぁー、と言いながらルゥの身体がピンクに変わっていってる。

 毎回ルゥには驚かされることばかりである。胃袋とか一体どうなってんだ。

 下手したら人間になるんじゃないのか、あれ。

 あ、フラグ立てちゃった?


きゅうう、きゅっううぅ もっと下さい、もっと欲しいな!」

「ルゥちゃん、もう良いだろう。そんな催促しないでくれ、お開きだ」

「きゅうぅ……。(えー、コアの味と違って面白いのに……。)」


 憂鬱な瞳になるルゥを退場させる。時刻はもう深夜2時なのだ。


『とか言ってますよ、ルゥちゃん。』


 マジかよ。酒豪で重力操作出来るスライムってどんなスライムだよ。


 コアに味があるのかよ。キャラが迷走してるわ。


 ウィズムが翻訳してくれたけど、逆に聞かなかった方が良かったかもしれない。

 青葉のそよ風亭に再び予約を入れるとしよう。


「すみません、ディルクさん。俺たちはこれでお暇します。ミューリエ、帰るよ。」


「うーん? まだいるよぉ~! ぎゅぅ~!」


 抱き付かれたのを利用して体勢を変更。

 ミューリエをお姫様抱っこする。これにはディルクさんも苦笑い。


「ひゃんっ!? えちえちなことはだめでふからね……」

「酔いすぎてそんな気にもなれないよ」


 ヒューヒュー、と悪酔いしたおっさんどもから冷やかしが聞こえるが、無視します。


「にゅふふ、もう飲めないでふ……」


 天使みたいな寝顔と夢でも飲んでいる寝言を拝みながら青葉のそよ風亭に向かった。


 あ、ちなみにおっぱいをこっそり触ったりなんかしてないよ?

 紳士だからね、手をグーにして、胸に当たってしまいそうで危ない時は脇腹を抱えて触れないようにしたよ。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 俺も少々千鳥足ながら、宿屋から帰ると亭主から祝福の言葉を頂いた。


「おぉ、大丈夫か!? フラフラじゃないか! しかし、給仕の手伝いに行った時に聞いたが、禁魔合成混沌竜エンシェントカースドラゴンを倒すとはびっくりしたわい。奴には討伐が手こずったもんだ。

 それと、義手がワシの思考に合わせて進化してくれたから今まで満足に出来なかった料理がはかどったぞ。

 最初はこの機能にびっくりして気絶してしまった。

 ありがとな、小さな英雄さん。感謝の意を込めて今晩は無料にしてあげよう! 」


 な、なんて破格の報酬!?


「え、いいんですか! ありがとうございま……あっ」

「おぉっと、危ねぇ。酔い醒ましの薬だ。飲んどけ」


 おっと。フラついてしまったところをご亭主が支えてくれた。


 まさかのサプライズに少し酔いが覚めて、疲れきった俺は部屋に駆けこんで丁寧にミューリエをベッドに降ろす。

 毛布をかけて、俺も隣で寝る。


『解析完了。え、嘘でしょ…… 』


 まどろみの中、ウィズムがそう呟いたが興味より眠気の方が勝ってしまい落ちた。



 ~翌朝~



 小鳥がさえずる平和な朝と共に俺は起きて……知らない男の声?


「やぁ、おはよう雅臣くん。俺様は八岐大蛇だぜ」

「雅臣くん、おはよう」


 この部屋にいないはずの男性的でイケボと呼ばれそうな明瞭な声によって、俺の意識を覚醒させる。

 数秒、俺より背が高い男と目があった。


「うわぁぁぁーー!! 誰だよ!? 不審者、不審者がいるっ! 衛兵さん、この人です〜!」

「いやいやいや、待ってくれ! 違うから呼ぶなよ」


 目を覚ますと、窓際に20代ぐらいの知らない青年がミューリエと一緒に椅子へ腰かけていた。優雅に紅茶を飲みながら……。


 ───────────────────────


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