第15筆 ドラゴンレイド後編
こちら、現場の始まりの平原南側にいる雅臣です。現場には山のように大きな黒いドラゴンがいます。
自分たちに背後を向けているので早速、奇襲取材を仕掛けてみようと思います。
って、ふざけてる場合じゃなかった。
あいつの周りに報告にあったドラゴンたちが肉片と化している。さっきからムシャムシャと食べているのだ。
討伐対象が喰われているのは最悪でも最良でもある。
今しかない。奇襲をかけよう。
さっきよりも大きめの
ギロッ!!
周囲には奴が振り向いた顔には食い散らかしたドラゴンの肉片がつき、血まみれだ。狂気を感じる赤い眼には
「キィシャアーアァーー!!」
「ッ! おいおい、あれって
「焦るな、お前らしくない。北の大陸にしかいない奴だ。数は少ないが、太古の戦争の産物で少々厄介じゃ。
まず、魔法が効かぬ。普通の武器も効かぬ。だからあいつには魔剣か、神剣、神器などの特別なものしか効かん」
「ちっ、魔剣は持っちゃいるが、ナゴルア山脈のドラゴンだからナメて持ってこなかった。私の能力も効かないし、まさかこうなるとは……」
「あの短剣か。ありゃ本物かわからなねぇじゃないか、ダルカス?」
「黙れぇ、酔いどれジジィが! 俺の神器返せ! プレゼントじゃなかったのかよ! 」
「今度返すから壊すんじゃないぞ」
「世界一の鍛冶師のくせに壊れすもん作ったり、くれるんじゃねぇぇぇ! バカタレがっ!! 」
喧嘩になりそうな隙を狙ってカースドラゴンは紫色のブレスを放ってきたが二人は余裕でかわした。強力な異臭を放ち、周りの草が一気に枯れていったことに少しばかり身震いした。
もし、毒のブレスは当たればひとたまりもなかっただろう。
(なぁ、ウィズム。どうにかならねえか?)
『マサオミさま、少々お待ちください。………近くにありますね、それ』
(え? )
『その召喚した刀です。自動で鞘に装飾が出来たり柄に紐が結われたじゃないですか?』
(確かに、あれば奇妙な現象だったな。)
『解析をしておりましたが、判明しました』
『その刀はシンさまの故郷、地球での神剣が一つ。』
勿体ぶるかのように一拍おいた。
『
こてっ。思わず転倒したわ。勿体ぶった割には凄い刀だと思うよ!
だけど名前ないんかいっ!?
しかも
『シンさま、しかもその刀剣の因子人格によれば、天叢雲剣自体は既に消失しており、承継されたそうです。』
本物の天叢雲剣は壇之浦の戦いにて第81代天皇、安徳天皇が入水により関門海峡に沈み、失われたと伝わる。一説には現在皇室が所有している三種の神器は偽物とされる。
完全に喪失したが、剣の魂的な部分はこの刀に受け継がれているという解釈をして構わないだろう。
それで因子人格? って一体なんなのさ。
『因子人格とは全ての武具に存在する因子が人格化したものです。』
そんなものがあったとは……。
だが、今は目の前の
俺は刀を左手に掲げ、ウィズムの言葉に倣う。
「〘神器解放〙──! 異界を越え甦り、今こそ顕現せよ。
日本刀の形から一転、
流石、日本刀の源流。太古の剣にしかない形状、大陸式の直刀(矛)にはないこの美しさだ。
そして同時にセットで顕現した
この羽織、不思議と力が湧いてくる。
「はじめに“いかずち”あり──!」
やっぱり
「うし、いける! 」
不安な一撃は確信出来る一手となり、更なる連撃を後押しした。
かの竜を〘紫雷〙で縛り付け、左足を踏み込み、霞の構えを取る。
羽織をはためかせ、俺はもう一歩踏み出し地面を強く蹴りウィズムのガイドの下、奴の心臓めがけて飛ぶ。
それは悪夢を裂く一条の光の如く。
それは天を駆ける彗星の如く。
かの者を射て。
「〘
まず天叢雲(仮)を左手に持ち替え、〘紫雷〙で麻痺しているのにも関わらず放ってきたブレスを一回転してかわして推進力へ変換。近付きながらそのまま奴の体を半分ほど刺す。
重厚な甲殻とは裏腹にトマトを刺した程度の柔らかさで愛剣の切れ味の凄まじさにに恐れ入った。
最後に刃を180度捻り込み右手の指先で柄頭をトンっと押す。
天叢雲剣(仮)は呼応し一瞬で刺し進む。これで見事に心臓を貫通完了だ。
「グルゥアァーーーー!?!」
あまりの激痛に悲鳴を上げる
心臓の跡に真円の風穴が空き、叢雲は飛んでいく。羽織の力でふわりと着地し、再び掲げた左手に戻ってくる。これが〘天穿ち〙。
「──ふっ、終幕」
天叢雲(仮)に鞘に収める。ドラゴンが黒い強烈な光を放ち、消えた。
しかし、こんなにも早く変換されるのは不自然だ。
アカシックレコードに蔵書されている他の世界について纏めた本を読んでいた所、ゲームのように死後、直ぐに光の粒となるのは
⟬エリュトリオン全集⟭を参照すると、生命の神が邪神になり、不在らしいので死の力=浄化が強すぎて有機物の活動停止が確認された場合、魔力変換が直ぐにされるということか。
生きる力と死す力のバランスが違いすぎる。これは危ないわけだ。
この仮説が正しいとして、見たところ、身体の硬い部分は残りやすいのかもしれない。
そうなると、無機物判定の基準がわからない。
「お疲れさま~、格好良かったよオミくん!血まみれだから綺麗にしておくね。〘
生活魔法の一つ、〘
「いやぁ~、圧巻じゃねえか。私は人をあんまり誉めないが、よくやった!その剣、
──
600年前のイカイビトであるイサク氏が建国した島国だ。地球では400年ほど前の人物で農民でありながら無類の剣技の才能を有した英雄。
シノさんと並ぶ程の実力を有していたという。
「マサオミよ、見事じゃ!!(ふむ、この実力ならば………)」
「ありがとうございます。皆さんのお陰ですよ。
ダルカスさん、これは俺の故郷の神器です。
召喚で呼び出しました。古文書には紛失したとありましたがなぜか自分の元にあります。
あとディルクさん、小声で何か言いませんでした?」
「何も言っとらんぞ。」
「えっ? そうですか。失礼しました。」
この実力ならば………みたいなことを言っていた。このドワーフおじさんは何者なんだ?
「しかし、神器を失くすとはひでぇ先祖だ。それとお前さん、何かと喋っていたようだが一体なんだ?」
ウィズムの声、聞こえていたのかな? 折角だから御披露目と行こう。
「紹介します。俺の参謀のウィズムです。彼女が神器解放の手助けをしてくれました。」
黒革製のウィズム専用ポーチ(デフォルメしたウィズムの刺繍つき)から本体を取り出して見せた。
『宜しくです。』
「魔道具か。 うおっ、頭に響かせるタイプの伝達法かよ。」
「儂も少し苦手じゃ。」
『すみません。参考にさせて頂きます』
かく言う割に改善していないのが、駄妹という生き物である。
「うむ?ルゥというスライムがいないの」
周囲を見渡してみると………いた。
エンシェントカースドラゴンが食い散らかしたナゴルアドラゴンの
大口開けて吸い込み始めた。
そして、ごろごろあったコアを全部食いやがった。
「
ルゥはコアを食べるのを好むのだろうか。
残った赤黒い
うん?ルゥの身体に変化が起こっているな。
にょきにょきぴょこっ!
ドラゴンの翼が六つ生えた!プチ進化したっ!?
おぉぉ、可愛い!
「きゃううううん!! 」
水色の竜のような翼を巨大化してはためかせ、俺らの元に戻ってきた。
正直ここまでの顛末、開いた口が塞がらない。
ポカーン。
そして、一番悔しがる男がいた。
「私のコアが………。ドラゴン専門
ダルカスが"竜殺し"なのはコアのコレクターだったからなのか。納得。
あとルゥを馬鹿にしないでほしいな。
可愛い我が子、いや妹のような存在だからな。
『親バカ、いえ兄バカですね』
ウィズムにだけは言われたくはない。
「北の大陸に行けばカースドラゴンなんぞ腐るほどおるわ」
「うるせぇジジィ、お前さんにはわからんだろぉぉぉぉ! 総数が少ない発言と矛盾してるッ!」
「いる事実は変わらん。用件は終わったんじゃ。さっさと帰るぞ。」
「私のぉ、私の
ドンマイ、ダルカス。
こうしてドラゴンレイドは無事に終了した。
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