第13筆 レイドパーティー結成


 大襲撃スタンピード。異世界的にあれか、モンスターが大量発生する襲撃イベントだっけな? いやレイドの方がいい気がする。

 男が青ざめた顔で言葉を続けた。


「しかも、ナゴルア山脈のドラゴンたちなんだ!何百匹も襲ってきて、家畜たちもほとんど殺されて、食われちまった………」


男を良く見ると麦わら帽子を被った農民の人のようで、所々返り血と生傷が目立つ。

 更にウィズムの解説によると始まりの平原の南側にある山脈だと言う。

此処はドラゴンたちの棲みかで基本的には同族又は格下の魔物を食らうか、火山エネルギーを吸収して暮らしており、滅多なことがない限り、山から出て来ないらしいが何があったのだろうか?


 ──推測としてドラゴンよりも強い存在が現れた?俺と同じ召喚師が召喚したとか?

 だが、現状俺以外にはいないらしいから、とりあえず行ってみるしかない。


「その話、詳しくお聞きしたいのですが」

「あんたのようなわけぇ冒険者にかなう相手じゃない。引っ込んでろ」


 男性は全くもって聞く耳を持たず、片手で振り払う動作をした。

 だが、それは違うとシノさんが割って入る。


「この子は雅臣。アタシと同じイカイビトでBランク冒険者だ。しかも失われた技術、召喚術が使えるぞ」


 これを聞いた男性は先程までの冷徹な対応はなく、一人のつわものを見る真面目な表情になった。


「"覇天のシノ"さんのお墨付きとは申し分ないな。召喚術が使えるなんて信じがたいが、今はそんな事言ってる余裕がない。非礼を詫びる。すまなかった。だから手を貸して欲しい」


 シノさんのネームバリューはとてつもなく強い。この村では知らない人がいない勢いだ。


「…………私も行こう」


 そう言って立ち上がったのはオールバックの白髪、碧眼が特徴的なダルカスだった。彼はいつの間にかあらゆる武器を背負っており、剣や斧、ハンマーに弓矢、短剣など様々だ。


「ほう、 "万武ばんぶの竜殺し" ダルカス様も行くのかい。ウーィヒック。ゴクゴク。ゴクゴク……プハァーー」

「うるせぇ、酔っぱらいジジイが!」


 あのオヤジは………さっきまで周りに酒瓶を散らかし呑んだくれていた髭むくじゃらのオヤジじゃねえか!

 この人もいつの間にか背中に大斧を背負い、両手にはメリケンサックを着けている。髭も三つ編みで整えられていて、その髭整える必要あるのかと疑問に感じた。


「儂は"酔いどれ帝"ディルク、見ての通りドワーフじゃ。よろしくなマサオミ、ミューリエ」


「ダルカスさん、ディルクさん宜しくお願いします」


ここで受付嬢リコさんが紙束を持って登場した。

『ナゴルアドラゴン討伐依頼』と書かれている。


「はーい、ここからはリコにお任せくださ~い」

「こういう事態はリコに任せた方が良い。」


 ダルカスさんがそう言ったということは、クエストになるのか?


「では説明しますね。始まりの平原にナゴルア山脈に住むドラゴンが多数出現。報告者曰く数百頭は確認したとのこと。その他魔物の暴走も確認され原因は不明。家畜、人民の被害は甚大だと予測されます」


 リコさんは大きな声魔法紙マジックペーパーにサラサラとドラゴンの挿絵を描いて、赤いハンコを押した。


「これを緊急クエスト、レイドイベントとして登録しますッ!報酬は一人2000万リベラ!! この価格は私とシノさんの独断ですが、命に代えがたいものはありません。だからこの価格です」


「一人2000万リベラって破格だろ!」

「いや、村を襲われたらひとたまりもない。はぐれ竜一匹辺り二百万リブラなのだから妥当だろ」

「二人の独断ってこんな田舎ギルドがそんな事したら潰れるんじゃ………」

「そんな事言ったらこっちが二人に潰される!」


 ざわつく周囲。

 酒場スペースからそんな声が聞こえてくる。確かに破格で2000万リブラは数ヶ月は遊んで暮らせる額だ。


リコさんが怒りの炎を背後に燃やして周囲を黙らせる一言を放った。


「リコとシノさんの文句言ってきた人たち。後でたっぷりお説教ですからね!」

「「「………………はぃぃ」」」

『オミさま、リコさまの説教は精神魔法を使っており、数ヶ月間拷問を受けるのと同じ効果があるらしいです』


な、なんて威力なんだ……。敵に回したらいけない人が一人増えた。


「こほん、話を戻します。事態は火急。メンバーを確認します」

「トウゴウ・マサオミさん、ミューリエ・エーデルヴァイデさん、ダルカス・シュナイデさん、ディルク・ミゼフ・ドワルディアさん、あと………スライム?」


「きゅうぅぅ?」

「ルゥって言います。俺とミューリエの召喚獣です」


 リコさんはルゥを見るや、後ろの棚から一冊の本を取り出して数分くらい読んだ後、とある項目と挿し絵を見て目が飛び出した。ルゥと本に描かれたスライムの絵を見て目をぱちくりさせて震える手を押さえて本をしまった。


「ととと伝説の特異点!? 凄い子が現れたよぉ……。えぇと、ルゥさん。以上の5名で異議ないですか?」

「異議あり。そのスライムは強いのか?」


 ダルカスが異議を申し立てた。こいつ理屈家っぽいし。そりゃあスライムは最弱と言われがちだが、うちのルゥは大丈夫だろう。


「ユニークモンスターです。そこらのスライムとは違うことを俺が保証します」

「ダルカスさん、この子、星神の因子を継いだ特異点ですよ……! 369年周期で現れるあの──!」


 “星神”、“特異点”という言葉を耳にしたダルカスさんは見下した目をしなくなった。『エリュトリオン全集』にも星の力を持つって書いてたなぁ。やっぱり本当なのかな?


「召喚術を使うお前さんの言葉、信じてみよう。そして星神か……なら心配ないか」

「他に異議ありますか?」


 リコさんが皆に問う。


「ないです」

「ありません」

「なし」

「なしじゃ」

「きゅうう!」


 4人と1匹とも意見が揃った。パーティー結成の瞬間である。


「パーティー名はシンプルにいきましょう。【竜に反するもの】」


 こうしてパーティー名もメンバーも決まり討伐に向かうこととなった。

 なるべく急ぐとしよう。

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