第12筆 不良冒険者との決闘

 ◆◇◆◇◆◇◆


ワリィな、オレの視点からちょっと付き合ってくれ。

 オレはヴィセンテ。シャルトュワ周辺じゃオレの名前を知らぬ奴はいねぇ。ちょっとヤンチャしたくらいで皆は不良と呼び、“狂狼”と呼ばれている。

 悪くねぇことだ。何せ影狼シャドウウルフの頭つきの毛皮を羽織っているからな。


 だが、オレの前に気に入らねぇヤツがいる。

 名をマサオミと言ったか、高瑞津クソたかみづの国と同じ名の文法の異界から来たヤツがいる。

 魔力もないくせにシノのババアに一発で高ランク推薦だとっ!? 初っぱなからこんなに肩を持つのは可笑しいだろうよ。


 ──ハッ。こんなにもオレの琴線様に触れたヤツは久しぶりだ。イライラしてたまらねぇぜ。

 B級冒険者のとしてちょっと教育オイタしてやらねぇとな。


「おい、赤髪。どうせ魔法しか使えねぇんだろ? あ、ごっめーん! オマエ魔法使えないんだっけ?仕方無ねぇなあ、ホラよ」


 オレは木剣をマサオミとかいう赤髪野郎に渡す。

 マサオミは受け取るやいなや、肩慣らしだと言わんばかりに木剣を軽々と振って納刀する動作をした。

 ふん、抜刀術の真似事をするとは益々オレを舐めてやがる。


「お手柔らかにお願いします」


 ちっ。そのシケた面、本当にイライラさせてくれるなぁ!


「ウオォォォアアァァ! 魔剣流:異端派〘|劫魔唐竹割り〙──!」


 曲がりなりにも世界三大流派の一つ、魔剣流序列二位、獄魔級クラス=ジェオルと認められたオレに敵なし。

 最も自信ある最速の唐竹割りを披露しようと振り下ろしたが……ぐふっ!?


「胴体ががら空きですよ?」


 赤髪マサオミは初撃で左側へと半身になり、オレの攻撃をかわし、脇腹を叩き通し、その勢いを殺すことなく活かしながらも手を狙って木剣を離させた。

 あまりの痛みに我慢しながら下顎を狙って拳を握り直して振り上げたのも空しく、ヤツは一歩下がって


「またがら空きですよ?」


 と余裕綽々の表情で鳩尾を木剣で突かれた。


「カッハッ──!!?」


 一瞬の出来事に何が起こったのかわからなかった。急所である鳩尾を突かれて、息がしづらくなる。


 段々と意識は薄れていく。

 揺らぐ視界の中、オレはマサオミに完敗し、舐めていたのは自分だったのだと今さらながら悟ったのだった。



◆◇◆◇◆◇◆



「──そこまで。おや、雅臣の勝ちかい。すまんねぇ、うちの力量がわかってない若造がしゃしゃってしもうて」


 シノさんは治癒魔法をかけ、見た目年齢60代とは思えない身のこなしで軽々と肩に抱えて医務室があるという奥の部屋へと運んでいった。


 正直な所、あれはお手柔らか且つ、手抜きでいつもコスモちゃんから受けていた訓練で同じようなパターンがあったので応用をきかせただけなんだけど。

 あの人、そこまで強い人じゃなかったかもしれない。俺なんかまだまだだろうし。


 俺の闘いを見てもう反論する者はいなくなった。



 冒険者登録の途中だったので再開。

 最後の手続きで石板と似たデザインで六角星にその端々に六属性をイメージしたデザインが描かれた冒険者カードを発行してもらった。


 略歴が自動で刻まれる魔法紙マジックペーパーで出来ており、冊子のような構造になっている。

 ん? エリュトリオン最高品質の紙は竜皮紙じゃなかったのか?


 気になったことは『エリュトリオン全集』で復習だ。

 ほう。製作に4ヶ月かかる代物ね……。羊皮紙の方がまだマシか。


 因みに冒険者カードの1ページ目に石板に表示されたプロフィールが書いており、二ページ目から称号が掲載されるとのこと。

 リコさんとシノさんからは


「Sランクでも可笑しくない実力ですが、直ぐに制定すると本部から文句を言われるのでBランク冒険者にしますね。シンさんとミューリエさんに相応するランクでしょう」

「あんたらの活躍、期待しとるよ」


 と言われた。早速Bランクなのは有り難いし、組織だから色々事情があるんだろうな。お疲れ様です、お二方。


「それと、ランクについての説明を聞きますか?」

「「はい」」


『エリュトリオン全集』に書かれていることも完璧とは言えない。確認の為にもう一度聞くことにした。


 Sランクを最高位とし、EからAの順でランクが上がっていく。先程受けた試験の結果によって最初のランクが決まる。

 但し、最初からAランク以上ということは出来ない。勿論昇格もあるが、降格もある。


 降格条件は複数回におよぶクエスト失敗・放棄、他冒険者への妨害行為や犯罪。依頼主に対する意図的な無視・暴行・粗相。 


故意な自然環境の破壊行動、他人への配慮のない戦闘を繰り返すことによって対象となり、最悪ブラックリストに掲載される。


 ブラックリストに載った者は一度目に厳重注意、二度目に謹慎処分、三度目になると10年強制労働又は奉仕活動となる。

 それでも改善しようと動かない場合、除名処分並びに各国への移動が制限されて特殊地下牢で終身刑。

 信用ありきの仕事というわけだ。


 ふと気になったのでシノさんにイカイビトについて聞いてみた。


「シノさんに質問です」

「なんじゃね?」


「同じ故郷なのになぜ長生きなのか、前世について可能であれば教えてくれますか?あと、宇宙そのものと語る者に会ったことはありますか?」


 もし地球と同じ時の流れをしていると仮定した場合、彼女はかなりの高齢。なのに半分の若さだ。


「アタシは今年で118歳になる。私が転移したのは第二次世界大戦が終わった18歳の時じゃの」


 ひゃ、118歳っ!? 見た目60代ぐらいで止まっているじゃないか! なんて若々しい人なんだ。

 しかも1945年頃に転移したのか。


「あの時は何もかも失った。本名は鷹山シノじゃ。ここに来るときに名前が変換されて宇宙そのものの配下から人の寿命の2倍生きる呪いを与えられ、邪神討伐に向かったが失敗した。実際に会ったことはないよ。

 名字のイメージから風魔法を中心に授けられた。

 魔法で空を飛んで奇襲するのが得意だったから覇天と呼ばれるようになったわけじゃの」


 名前の変換……。そういえば起こってないな。

 コスモちゃんが『歴代一強いイカイビトよぉー!』とか唸ってたけど無意識に拒否したとか……まさかね。


「俺も邪神討伐の命を受けて旅しています。お話ありがとうございました!」


 俺はシノさんに別れを告げ、外に出ようとドアを開けたら……… 外から男も同じく開けてきて思わず引っ張られた。


「大変だ!“スタンピード大襲撃”が発生した!」

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