第11筆 初めての冒険者ギルド

 あんな義妹は放っておいて、冒険者ギルドに行ってみよう。


 昼間のシャルトュワ村は露店商の呼び込みの声、見せ物をする魔法を使った芸人、それに集まる人だかり。

 子どもたちが走り回っており、賑やかだ。


 露店商のおっちゃんに聞いたら話した代わりに商品を買え、とうるさそう。

 俺は物品を見たら絵を描いて召喚できるので買うことの価値が薄い。

 とりあえず商品をスケッチしておく。何時でも召喚出来るように。おっちゃんに睨まれてしまったが、多めに見て欲しいところだ。


 子ども絵画教室をやっていた経験からか、心が純粋な子どもたちの方が安心出来る。余計なことを言われずに済むだろう。


「こんにちは〜」

「こんにちは!」


元気な挨拶、にこやかな笑顔。

やはり子どもたちの無垢さには心が洗われるね。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ。」

「なーにー? 」

「あっ、スライムだよね?」

「ほんとだ!」

「スライムだ! かわいい、抱っこしたい! 」


 気付いた長髪とボブカットの女の子にねだられ、ルゥは楽しそうに遊び始めた。

 背後からおんぶを要求されたので応えて上げつつ、質問する。


「俺たち旅の途中で、ここの冒険者ギルドに寄りたいんだけど、どこにあるか知ってる?」


一番年上にみえる男の子がある一点を指差した。


「お兄ちゃんたち、青葉のそよ風亭から出ていたよね?あそこからまっすぐ行って左向かいにあるよー」


短髪の彼が小さな指を指した先に、案内の看板があることに気付いた。

意外と見落としてしまうものだな。


「なんだ、結構近くだったのか。ありがとう。お礼にどうぞ」


 俺はお礼にクッキーやおもちゃを描いて召喚した。


「わーい、クッキーだ!ボクの大好物なんだ。お兄ちゃん、今使ったのなに~?」


「みたことないねっ」

「はじめて見るおもちゃがあるー」

「お絵かきしてキラキラ~ってなってクッキー出てきたよ!? 」


子どもたちのこういう純粋な反応が好きだ。


「ん、これかな? これは召喚術の一種なんだけど……」


思い出したかのようにある子がぴょんぴょんと跳ね始めた。


「召喚術?思い出した!それ、絵本で読んだことあるよー! 昔の勇者さまがね、召喚術でつよーいドラゴンを召喚して、悪い王さまを倒したおはなしだった」

「ぼくも小さい頃、読みきかせしてもらったなぁ」


 ほう、よくあるおとぎ話だが、召喚術が登場するか。ますますこの技術は謎が深い。


 子どもたちに別れを告げ、冒険者ギルドに向かう。この旅が終わったらエリュトリオンでも子ども絵画教室を開こうかな。

故郷でもやってたし、もっと大きくしたいね。



◆◇◆◇◆◇◆



 冒険者ギルドに到着した。少しヒビが入った石造りの建物に、ニス塗りの木の梁で補強してあるのが特徴的である。


淡く光るルーン文字のようなものが刻まれており、どうやらかなりの歴史があるようだ。

看板には、不明な文字で何か書いていた。


 _______________

〔冒険者ギルド シャルトュワ支部〕


 段々と書かれていることがだんだんわかってきたな。

 これはラダクァ語か。皆の話し方の訛りからして、ここは南方大陸だと理解する。

 エリューバ語しか知らないので、読むのに苦心したのである。


『(私が翻訳しておきました。特殊技能〘翻訳〙を贈与ギフトしておきますね)』

(おぉ、助かる。撫で撫でしようか?)


『(ふん、子どもじゃないもん)』


 ぼそぼそ言っているが、気にせず入ろう。

 使い込まれた深みのある焦げ茶のドアを開ける。


 入った瞬間酒の匂いが少しする。うへぇ。


 なぜ酒の匂いがしたのか。


 ──なるほど、酒場と併設しているのが理由か。

 この扉を開いたらだと認識させ、生半可な覚悟では死に至ると警告しているのだ。

 15歳から大人とされ、17歳から酒が飲めるこの世界。


 複雑な心情が混在する思春期真っ只中とあって、時には生意気な輩も現れるだろう。

 そんな彼らを佇まいのみで叩き直して入らせる。

 これが冒険者というプロ集団なのか──!


 この姿勢に思わず背筋が伸びた。

 一応、確認だが、流石に昼から呑んだくれるオヤジとかいないよな………いたわ。


「ウーィヒック……酒じゃ、酒じゃ~酒を持ってこーい! バンバン飲むぞぃ~」

「“酔いどれ帝”よ、水飲め。ほら」


 隣に座っている右足が義足の男性が水を飲ませて背中をさすっていた。

というか、飲ませた水ほとんどこぼしてるし。


 あの髭むくじゃらのオヤジ、テーブル全てと床周りに酒瓶が散乱していて、体格は厳ついが身長は120cm程で小柄だ。

 二股に耳も少し尖っているし、もしかしてドワーフか?


 他のテーブルの座る奴らは顔や体に傷があったり、腕が無かったりとならず者をイメージさせる。


  だが、数々の修羅場を潜り抜けた印象もある。

 さてさて期待の受付嬢は…………若い女性が一人と60代程の女性が一人か。


 若い女性が一般依頼受付で老婆が緊急依頼受付だろうか?


 特に老婆からは只者ではない試されているような凄みがある。下手をすればこちらが気絶しそうな位だ。


 そしてもう一つ気になったのが二人揃って同じプラチナヘアなのだ。祖母と孫なのかもしれん。推測はこのくらいにして本題に入ろう。


「「こんにちはー」」

「あら、見ないお顔ですね。旅のお方でしょうか?」

「そうです。私とオミく……彼の冒険者カードの登録に来ました」

「冒険者カードの登録ですね。まずはこちらの石板に触れてください」


 カウンターの後ろにある本棚から受付嬢が出したその石板は大理石のような滑らかな石で、中央に目のデザイン、その回りに複雑な魔方陣が描かれ、以前説明された六属性をイメージしたようなデザインが六角星のように端々に配置されていた。


 右手の手形マークに従い、触れてみるとほんのりと白い光を放ち、ホログラムの形で情報が映し出された。


 ======================


 名前:東郷雅臣

 年齢:22歳

 身長:182セルツ

 体重:72デルト

 種族:

 職業:画家・神級描画召喚術師クラス・デウス:アートサモナー


 ======================


 ってなんだろう?異世界出身だからこういう表現なのか?


「東郷雅臣さんですね?イカイビトとは珍しいです。百年に一人現れる、異界からの来訪者のことを指す種族名です。

 ちなみに隣にいるシノさんもイカイビトです。私はシノさんの孫なんですよー」


 だから異世界出身者はイカイビトと呼ばれるわけだ。孫と娘の続柄も当たりである。今日は良い日になりそうだ。

 受付嬢は瞳を更に輝かせ、少々興奮気味に続けた。


「しかも、召喚術師とは更に珍しいものです!

 絵を媒体としているのは初めて聞きました。

 もう失われて久しい職業です。8500年前でしょうか。」


 色々びっくりすることが多いな。

 やっぱり祖母と孫か。そして俺と同じイカイビトのシノさん。

 事前に調べた情報通り召喚術師は8500年ぶりか。俺の来訪。最後のイカイビト。


 中々稀有なのは嬉しい。しかし、召喚師に一体何があったのか更に気になるな。ここだけは調べても拒絶反応エラーを出すのみ。


 空白の一万年と繋がってきたし、コスモちゃん、これは一体どういうことだい?

 コスモちゃんみたいな存在は大事な局面の時にしか出て来なさそうだしなぁ。ワケわからないや。


「シノさんに聞きたいのですが、どこの出身でしょうか?」


 しばらく思考停止状態のまま固まるシノさん。


「……ふぁっ!? すまんの、アタシもびっくりしておるよ。まさか同郷の地球の日本生まれとはな。道理で気になったわけじゃ」

「恐縮です。」


 試される凄みから一変して今度は孫を見るような目になった。


「雅臣くん、私の登録忘れてない?」

「すまんミューリエ。受付嬢さん、彼女の登録もお願い致します。」

「受付嬢、じゃなくてリコって言います。」

「失礼しました。リコさんお願い致します。」


 ミューリエも石板に手を当てた。勿論女神って出るよね?


 =======================


 名前:ミューリエ・エーデルヴァイデ

 年齢:測定不能

 身長:160セルツ

 体重:本人の希望により表示不可

 種族:女神

 職業:神級魔術師・神級治癒魔術師


 =======================


「女神だって!?」

「エーデルヴァイデってまさか………!」

「あのエデンの一族か!?」

「伝説が目の前にいるぞ」


 周囲がざわめき始める。

 エデンの一族……今はなき二皇神直属の神官一族はこの名を冠していたと学んだ。


「リコもビックリです。いくら神様でも神級職は狭き門ですよ。凄いです」

「嬢ちゃん、いやミューリエさまも中々だねぇ」

「そんな、とんでもないです」


「登録の前に一つ検査があるさね」

「魔力総量の検査です。一応知っておくと限度がわかりますし、魔法装置や魔導具によっては必要な数値が提示されている場合もありますので検査しておくことをおすすめします。」


「わかりました」


 リコがカウンターの後ろにある引き出しから透明な球体のものを出した。水晶っぽい見た目で手のひらサイズだ。


「これは魔力水晶です。送られた魔力を数値化する優れもの。これを握って魔力を送り込んでください。」


 俺は左手に魔力水晶を持ち召喚時に謎のエネルギーが吸い取られる感覚を逆転し、気のような力を送るイメージでやってみた。


 ピキッピキピッキ!!


 水晶の色が透明から白→黄色→緑→青→赤→銀→金→黒と変色していき全体に無数のヒビが入った。リコの顔がどんどん真っ青になっていく。ちょっと入れすぎたかな。


「ちょーっとストップ、です!壊れちゃいます!」

「すみません。まだ半分しか入れてないです。」


「魔力数値0……? なのに何で壊れたんですか!? っ! これは魔力より上位のエネルギー反応!? この魔力水晶は世界最高の魔力を持つエルフの方に作っていただいた品なんですよ。

 彼自身のの魔力総量に耐えられるように作られているのにヒビが入るなんて、とんでもないです!」


 えぇ、魔力増量ゼロ……。

 俺の三年間の修行が水の泡にぃぃ。

 やはり邪神の呪いによる影響でイカイビトに対する風当たりの強さが魔力総量などに影響したのか……。邪神の呪い強すぎない?


「修行して来たのに魔力総量ない……がっかり」

「おや雅臣。修行してから来たのかい? だったら、アタシが思うにエルフくんよりも上に並ぶ者と言えば神々の魔力総量だろうね。あんた凄いよ」


「おいおい、"覇天のシノ・ファルカオ"からのお墨付きとは小僧、やるじゃねえか。ヘッ、どうせハッタリだろ?」


 そう言って現れたのは、白髪をオールバックにした俺の身長より少し高い碧眼の60代ぐらいのおじさんだった。軽口とは裏腹に、シノさんと同じく数多の死線を潜り抜けた凄味を感じさせる。



「ダルカス、その名をもう出すんじゃないよ。年寄りには不要な昔の名誉さ。

 こうなるとミューリエさまの魔力総量なんて神様だならぬ、中々じゃろうて。」


「ハイハイ、カミさんがそう言うんだったら本当なんだろ? 女神さんもお手並み拝見と行こうか」


 この二人夫婦なのか。全くそうは見えない。

 俺の感想を余所に、リコが急いで修復した魔力水晶もミューリエが魔力を送った瞬間、すぐに俺と同じ状態に変化。

 魔力総量9999億オーバー ──。

 これが表示後、測定不能と最後に表示されて粉々に散った。


 これは規格外チートだわ。格が違う。

 女神の風格を見せつけたミューリエ。

 九が並びすぎて蝶々の幻覚が見えてきた。

 眼精疲労が酷いのでちょっと休ませてほしいくらいだ。


 邪神たる母を倒さないといけないから神と同じ魔力総量じゃないと敵わないだろう。

 魔力総量がない俺氏、改めてどのようなエネルギーを用いているんだ?

 一方、外野から見ていた荒くれ冒険者が野次を飛ばしてきた。


「はぁ? どうせ水晶を壊すように手に暗器仕込んでいたんだろっ!」

「「そうだ、そうだッ! 」」

「魔道具で不正したに違いない!」


 と、まぁ、このように俺らの結果に文句を言ってくる輩もいる。


 そういう奴らには魔力腕相撲をすると良い、シノさんに勧められ、ルールとしては普通の腕相撲に魔力で筋力を強化してやるそうで筋肉を痛める輩は体の一部に魔力を収束する技術が足りてないということになる。


 ──10分後。


「「くうぅーー! 痛ぇよ……痛ぇよ……!」」


 リコ、シノさん、ダルカスさんと寝ているドワーフのおっさん除く21人に勝った。皆腕を押さえて苦しんでおり、まだ動ける者と乱闘になった。


「うぉぉら! 」


 なしてなして隙を見て腹を穿つ。

 力加減を間違えて風穴開いてしまったけど、ミューリエが治癒後、やりすぎと言われたのでデコピンか手刀で吹き飛ばしていった。

 修行によって格闘技も空手も修めていて正解だった。


 ~5分後~


 俺が悪者みたいで申し訳ないけど、皆床の埃を味わう結果となった。

 中には数名ドーピング剤を飲んでいる者もおり、これには俺の腕の骨も何度か砕けてしまった。

 流石は救済難易度:A級の世界。俺の鍛練不足が露呈してしまったようだ。魔力総量なしだろうが、邪神の呪いにかまけていられない。


 しかし、薬を飲んだ人達の様子がおかしい。理性を失い始めている?


「おい、テメェら! アホかよ、薬に頼るなんざなってねぇなァ!」


 先程まで床に倒れ伏していた俺と然程変わらない年齢の少年が起きた直後、首元を蹴飛ばして空中に魔力を収束させて足場を作り跳躍。

 薬剤の成分を吐かせて瞬く間に見事に伸した。


「シノ婆、コイツら連れとっとけ。やべえシャブかもしんねぇ。赤髪、テメェの剣はお飾りか試してやんよ!」

「あいよ。無理するなヴィッド」


 ニヤリと悪戯心に満ちた笑みを見せつける。

 うん腰元が軽い……。

 ないっ! 俺の刀!? 


「へヘッー、これか?」


 気付いたら俺の刀をくすねており、床に転がした後、木剣を突き付けられた。

 あの軽業、年の近さは関係ないと突き付けているようだ。


「次は剣術の決闘だぜ? ハッ、かかってこいや、赤髪ッ! ヴィセンテ様のお通りだぁ!!」


 ──なんかお約束通りなクセ強めヤンキーに絡まれました。



 ──────────────────────



 第10筆はここまでとなります。

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