第10筆 一宿一飯の恩義

 今朝、ミューリエに起こされ、げっそりした顔だったのでとても心配され、治癒魔法をかけてくれた。

 

「治癒魔法かければ寝なくても良いんじゃないか?」

「そんなことはありません。身体しか治せないものなんです」


 と真顔で言われたので本当なんだろう。

 ミューリエはどのくらい魔法が使えるのかも気になったので聞いみた。


「基本的に全般使えますよ。私は光属性の魔法と治癒魔法が一番得意です。折角ですから、おさらいとしてエリュトリオンの魔法について説明しますね。

この世界には火・水・風・土・光・闇属性の魔法があります。

そして、切っても切り離せないのが六聖神ろくせいしん様。この六属性を司る神です。

その上に二皇神がおり、私はその娘です。

そして最高神は邪神になってしまったので倒して欲しいです。」


 六聖神については『エリュトリオン全集』で把握している。

 だけど……嘘でしょ。ミューリエは最高神の娘なの……?


 親を俺に殺してもらうなんて複雑すぎる。

 いけない……震えが止まらなくなってきた。

 好きな人の親なんて殺せるわけがない。


「……邪神の娘か。それは複雑だよね。勇気を出して言ってくれてありがとう」


俺のバカ。何で見栄を張ってしまったんだ。


「うーん、出来れば殺したり封印しなくても大丈夫な方法も考えておくよ」


 それが良いに決まってる。平和的な解決が出来るならそうしたい。

 咄嗟に一つの案が浮かんだけど、現実的ではないと思いボツ案となった。


「雅臣くん……ありがとうございます」


 さて、新たな情報を得たことだし課題も増えた。

 ・邪神を殺すことなく最高神に戻す だな。


 考えすぎたって答えが出ないときがある。気分転換に朝食を食べよう。


 ~30分後~


 あ、そうだ! 忘れるところだった。

 亭主夫妻にと生きた成長する剣の話を教えてくれたお礼をしないとな。


「〘画竜点睛アーツクリエイト〙起動。」


 お礼の品は既に考えていた。


(ウィズム、今から召喚するものを大気中の魔力で動くように設定してほしい。それと重量も軽くね)

『え、りょ、了解なのです。』


 昨日のことを引きずってるかな? 多めに見てくれよ?


『引きずってないもん』

「え?なんのこと?雅臣くん?」

「と・も・か・く頼む。」


 ウィズムが邪悪な笑い声を漏らすのを睨みで黙らせ、日本でお馴染みの家電たちを召喚した。

地球産が便利過ぎてついつい召喚してしまう。


 召喚したのは洗濯機、4口のガスコンロ、魔力圧力鍋、ホットプレート、明かりが消え始めていたのも思い出して魔力電灯等々。

思い付く限りの家電を描いて召喚した。


 ちょっと疲れたぜ。ついでに⟬万解乃時計⟭に描くスピードを上げる機能追加とペンタブを召喚しておいた。 指先で書いていたときより確実にスピードは上がる。


「あんちゃん、ちょっとこれはどんな道具なの?」

「坊、これはどんな道具だ?」

「見たこと無いものだねぇ」


「故郷に住んでいた頃の家財道具です。奥さんには話を聞かせてくれたお礼です。説明書を渡しておきますね。」

「あら、ありがとう」


「それと、亭主にはこれを。」


 ⟬万解乃時計⟭のおかげで速く描ける。

義手のデザインはそうだな…………手のひらから光線を出せた方がロマンがあるだろう。


 何故なら手からビームとはオトコのロマンであって、物騒な世界だから最低限の護身が出来るようにしたほうが良いに決まっているからだ。


 こうしてちょっとメタリックな手のひらからビームが出る義手が完成した。


「なんじゃい、こりゃあ!?それより、この手の平の穴はなんじゃ? 」


「右手がない亭主にプレゼントです。多分ぴったり合うと思います。その穴は護身用で光属性魔法が全て発動出来るようにしてます。大気中の魔力を利用して発動するので亭主の負担は少ないです。」


「おぉ、アンデッドにも効く代物じゃないか。ありがとよ。」


 光属性魔法はアンデッドに効果的らしい。魔法は使えないからあまり勉強してないのだ。

 早速動作確認をして握ったりつまむ動作をしていた。


「うぅむ、動きも滑らかで使いやすい! おかげで幻肢痛が無くなるわい」


どうやら気に入ってくれたようだ。


「あんちゃん、説明書を読んだけどおばちゃんには難しいねぇ。この道具たちはどう使うんだい?」


 わかりやすく一つ一つ説明していく。

 やっぱりこの世界に無いものばかりだそうでチェックアウトをする他の宿泊者からの注目の的になった。


 価格にすると一つ一つが数百万リベラには相当するようだ。


 世界一物価が高い中央大陸の帝都でも売れるお墨付きを頂いた。

 他にも召喚していると、俺の召喚術が亭主夫妻にはかなり気になったようだ。


「「マサオミ殿が使うそれは何だい・何だ?」」


夫妻は語尾以外をハモらせて、俺の〘画竜点睛アーツクリエイト〙に興味津々だ。


「これは召喚術の一種で、〘画竜点睛アーツクリエイト〙と言います。絵を描くという行為を通して何でも召喚できるんですよ。俺はこれが使える代わりに魔法が使えません」


 魔法が使えないこと残念そうな顔をするご亭主は、髭を触りながらどっかりと座り込んだ。何か思案している。


「うぅむ、魔法が使えないのは不便極まりなかろう?」

「他に使える術がありますから問題ありませんよ」


「そうか。しかし、召喚術………召喚術ってのは失われて久しい技術だわい。今がエルツ歴500年。今の暦の前、ディラ歴というのが8000年程続いたんだが、それよりも前の記録には召喚術があったそうな。」


ディラ歴は王宮の腐敗で滅びた時代として有名だ。


「要は8500年よりも前には確かにはあったが、時が経つにつれて失われたということになる。

ワシが知る知識としては以上よ。カァちゃんはどうだ?」


 おかみさんは空のカップに紅茶を注ぎながら、天井を一瞬仰ぎ見て追懐する。


「そうね……あっ! そうだわ、世界樹の図書館に行ってみたらどうかしら?」


 夫妻がその手があったと目を合わせて頷く。


「ほう!確かにそうだな。雅臣殿、世界樹の図書館へ向かってみると良い。あそこにはエリュトリオンの全てが詰まっておる。」


 一度行ってみたいと思っていた世界樹の図書館に行く用が出来た。先代イカイビトの記録が残っているから参考になるだろう。


「ありがとうございます!是非行ってみます」

「ええんじゃ。礼がしきれんからタダ話ぐらいはしてやるわい」

「良いのよ、こんなに貰っちゃって。ありがたい限りだわ」


 めちゃくちゃ感謝されながら俺たちは宿を出た。

 次は冒険者ギルドだが……とりあえず聞き込みしていくか。

 亭主夫妻に聞けばよかったと後悔だ。


「ところで雅臣くん、どうしてウィズムちゃんが少し拗ねているの?」


 おっとそれを聞かれるとは!


「あ、あぁ、それは………」

「ふぅん?」


「ミューリエの寝顔が可愛かったからちょっと、イタズラしようとしただけだよ。そしたらウィズムに止められた。そうだよな、ウィズム?」


 数秒程顔が赤くなったが、表情が真顔で止まった。


「イタズラしようとしたの? 本当に? ウィズムちゃん、教えて」

『ごにょごにょ』


 うん、俺はハグをしただけだ……って


 パシンンッ!!!


 っつう……! そこからのミューリエの行動は速く動体視力に優れた俺が何とか追い付いた時すでに遅し。

 濃いピンクの手形が綺麗についた。そして怒った時になるあのぷっくり顔。怒った顔も可愛いや。


「寝込みを襲おうとするなんて最低!今回はウィズムちゃんが抑えてくれたから大目に見ますけど、次は許しませんからね!」


 周囲を歩く人々の足が止まった。

 そんな御器かぶりを見るような眼で見ないでくれ。民衆らよ、俺はハグをしただけだ。信じてくれ。


「違うって! 寝てる間にハグしただけだって!」


直ぐ様弁解をする。


「そうなの? ウィズムちゃん嘘は駄目でしょう?」

『あ、あぁ……すみません!』

「次は駄目ですよっ!」


 やはりホラを吹いたか、ウィズムめ。

 有り難いことに忠告だけで終わった。女神ミューリエは優しい。純愛をすることを誓おう。

その誓いを立てると脳内にもくもくと雲が現れて


 はっ! これはエロ博士ではありませんか!


 とよくわからないイメージが。

 いらねぇ。誰だよこいつ。変な白衣着た爺さん出てきたけど、無視して去ってもらった。

 過度な欲求は封印しよう。 


 大人の関係とはプラトニックラブから始まるもの。


ってかこれもウィズムに読まれているのか。


(大丈夫ですよ、お兄さまの人間くさいところが好きになりましたから。もう子どもじゃないのです)

(わかったよ。君は子どもじゃないし、嘘の発言はやめてくれ)

(お兄さま絶対そう思ってませんよね。今度はどこで困らせましょう……。にゃははっ♡)


 にゃははっ♡、って。悪魔のような義妹だ。懲りずにやるのか……。

 


───────────────────────



 第9筆はここまでとなります。

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