第9筆 ドキドキベッドタイム
『すやぁぁ、ふぴー……』
既にスリープモードに入ったウィズムをよそに俺は脳をフル回転させる。
ベッドが1つしかないもんな。どうしたものか………。
「一緒に寝ましょう、雅臣くん。ね?」
いつの間にか彼女は大きく胸元が開いたネグリジェとうさぎ耳がついたパーカーのような上着に着替えており、谷間についつい視線がいってしまう。
「大きい胸が好きなんですか?」
「いや、その、ごめんなさい」
「むぅ、恥ずかしいからそんなに見ないでください。雅臣くんのばか」
たおやかな腕で大きな胸を覆って恥じらう姿がまた愛おしい。
「それでね、久々にお友達と一緒に寝るからかわいいの着ちゃいました。どうでしょうか?」
「とても良いと思います。しかし、まだ会って一日目ですよ? 失礼があってはいけません。俺は床で寝ますから」
そう、紳士たるもの女性を地べたで寝かせるわけにはいかないのだ。
愛する女性ならもってのほかである。
そそくさと俺は布団を召喚画面に描き、召喚したら出てきたのは……実家の布団だとぉ!?
(いや、なんでぇぇ?! 下手くそな父の刺繍まであるし!)
脳内で動揺する叫びが止まらない。
ご丁寧なことに新品同様な程のクリーリングをされていてありがたいけど、恥ずかしいんだよ!
3年使っても〘
「ふふっ、平仮名で名前が書かれてますね。かわいい」
「恥ずかしいから読まないでっ!」
なぜミューリエが平仮名読めるんだ?
今はそれどころじゃない。
よく考えたらこれの方が親しみもあるし寝やすいだろう。
え? おいおい、同じベッドに寝て身体をこっそり触ってイチャイチャしても良いんじゃないのかって?
俺は紳士だ。段階を踏むってあるだろう? そんなことはしないさ。
身体目的とか外道がやることだ。
「折角一緒に旅をしているのに寂しいなぁ。一緒に寝ましょ?」
彼女は無数の輝きを放つ潤んだ瞳で「だめ?」と訴えかけてきた。
寂しがり屋なメンヘラちゃんだったのか?!
リストカットとかしたり……いや、違う、違うと思いたい!
「参ったなぁ、一緒に寝ましょうか」
「えへへ、やったー! 私の勝ちですね」
喜びを表すかのように、フードのうさぎ耳を魔力でぴょこぴょこと動かした。
俺は召喚した布団に父への手紙を忍ばせて
さらば、実家の布団よ。元気でな。
また召喚したい時、
だからもう一度布団を出したいときは
「それでは失礼しまーす」
お言葉に甘えておそるおそる隣に入らせてもらった。ミューリエから香る甘い匂いが眠気を誘う……。
~5分後~
この5分間、天蓋つきのベッドの天蓋をずっと見ていた。
それはなぜか。
なぜならガチガチに緊張して眠れない。
眠気なんて気のせいだった。
左隣を見たらすうぅーと寝息を立てながら熟睡するミューリエの姿が。
寝付きが良いなぁ、可憐な寝顔だなと思っていたら、彼女の半開きの口からよだれが垂れて枕が湿る。
しかも更にはだけて大きな果実が二つ、ちらりと見える。
あまりのセクシーさに理性が壊れそうでそこをぐっと堪える。
いや、ちょっとくらい触っても……
『カッ! お兄さま、そういうのはダメなのです。堪えて下さい。』
とウィズムに止められた。いつの間に起きてたのかよ。
……あぁ、いかん。理性が飛びそうになってた。
俺は紳士だ。
そう、紳士でなくてはならない!
恋愛の駆け引きは段階踏むのが重要だ。スキップしてもビンタされて嫌われるだけ。
過去の失敗例を思い出せ、自分よ。
恋愛の先生、ウィズム先生が止めてくださった。勉強になります。
『えっへん、そんなに褒めないで欲しいのです。』
「誉めまくったつもりは無い。調子に乗ったら失敗するよ、ウィズム? 今度おやつ抜きね」
『うっ、うっ、酷い……人のこと言えないくせに……お兄たんのバカぁ……うわぁーーーん!!!!』
ウィズムが泣き出した。ホログラムの姿通りまだ子供で豆腐メンタルだなこりゃ。そう思ったら彼女が更に泣き出した。
号泣が俺の脳内で響くだけにしているのはミューリエが起きなくて良いが頭が痛い。やめてくれ~。
『豆腐メンタルってなによぉ。酷いよ雅臣お兄さま。ひっく。ひっく。子供じゃないもん……ひっく…ひくっ、うぇぇぇぇん』
(ウィズムは世界一の妹だから。な、そうだろ?)
『う、うん……お兄さまのためだけのボクだもん。……大好き』
ウィズムを慰めるためにありったけの褒め言葉をかけ、なんとか泣き止んだ。
おかげで俺は全く眠れずじまいである。
まったく、俺の思考を読むことができるこの機能は考えものよ。
はぁ、疲れた。
疲労を解消する為にこっそりとミューリエをハグすることでやらしい欲求を抹消した。
決して下心じゃないぞ、男女の友情だからな。
こうして波乱の1日目は終わったのだ。
『みゃは、雅臣さまはボクだけのもの、ボッ、クだけの、もの〜♪ お兄ちゃんの為なら頑張るよぉ……』
なんとか寝れそうな時に独占発言されたが、疲労のあまり、気にすることもなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
そう騒ぐ彼らを窓越しに他の建物の屋根から睨む黒いローブ姿の男がいた。その男に雅臣は気付くことなく……。
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