第8筆 シャルトュワ村へ

 シャルトュワの村の門前に着いたのは良いが、門番らしき人物は非常に怒った表情をしている。なぜだろうか?


「何だこの時間に……目的はなんだ? 日も暮れ始めたからそろそろ門を閉ざすぞ」

「ちょっと待って下さい! 俺たちは冒険者ギルドの登録に来たんです」

「はぁ? 本当かよ? まぁ、話を聞こう」


 怪訝な顔をしていた青年に目的を伝えると、納得したように爽やかな笑顔を二人に向けた。


「わかった、通そう。この時間は野盗や人に化けた魔物が多くてな……粗相を許してくれ。

ということで、君らが最後の客となるぞ。それと冒険者ギルドは今日の受付を終了しているから宿を取ることをおすすめする」


「「「ありがとうございます!」」」

「おう、長旅ご苦労さん。前述の通り、最近ゴブリンたちが変装してスリをする事件があるから気を付けてくれ」


 表情の変化が読めなかったが、門番は20代半ばの茶髪、蒼い目で爽やかな笑顔が特徴的な青年だった。


 石レンガの街並みの村で、土地がら魔物の侵攻にも強そうだ。

 早速くちコミで評判も良く、厩舎がある宿を探した結果、「青葉のそよ風亭」という宿屋に行き着いた。早速、ベル付きドアを開けると少々強面で、左眼に竜の刺繍が施された眼帯をつけ、五十路ほどの少々強面な男性がカウンターに立っていた。


「坊主たち、宿泊かい?」

「はい。二人と馬二匹、スライムのルゥが一匹です」


 亭主とおぼしき男性はルゥを一瞥していきなり眼帯を捲った。


「ふむふむ、ほぉッ! ガハハハッ、こいつは見込みある。お客さん、泊まっていきな」


 そういって亭主は捲った眼帯を戻して部屋の鍵を渡してくれたのに気付くのが遅れた。

とても綺麗で見惚れてしまったからだ。


「うん? どうした? ワシの魔眼が気になるか?」

「魔眼なんですか?」


 THE王道ファンタジーの世界あるある。

 初めて見たけどあれが魔眼なのか。

 非常にアーティスティックで、虹彩部分に見たことない紋章のような刻印が入っていた。


「あぁ。先見眼といってな、数秒先の未来と将来見込みある者がわかるくらいだ。坊、名前はなんという?」

「東郷雅臣です。」

「ふむ、名前が後に来る文法は極東の国、高瑞津国の生まれとお見受けする。良い将来を持った客に会った。安くしておこう。」


 イカイビトと言うと話が通じなさそうなので、ノータッチにしておく。

 チェックインと鍵を貰い、二階の窓側の部屋に泊まることになった。

 宿泊料は1500リブラ、銀貨一枚。

 普段は3000リブラはするらしい。


 これがどのくらい破格なのか他の宿の値段の五分の一の価格という破格ぶりである。


 最近は硬貨の枚数よりリブラ表記がメインになってきたそうだ。


「ふふん、お金は結構あるんだよ♪」


 とミューリエきゅんが自慢気に語っていたが、浮いた板張りにつまずいて大量の硬貨をこぼしてしまった。


「ミューリエ!? 怪我はないか?」

「嬢ちゃん大丈夫かぁ?!」

「大丈夫ですよ雅臣くん、亭主さん」


「ボクが修理しておくのです」

「きゅう、きゅきゅうー!」


 ウィズムが修理キットを出そうとしたら、ルゥが浮いた箇所と板張り全体を体で包み込む。

 すると、不思議なことに板同士が動き出して、傷一つない綺麗な板張りと変化していった。


「なんじゃあ、こりゃ?! スライム公やるじゃねえか! 本来素泊まりプランだと朝食がつかないんだが、礼をしよう。朝食はサービスだ!!」

「きゅうぅぅう!! ふきゅ……」


 どろりと柔らかくなっていくスライムボディ。

 溶けたゼリーのようになったルゥ。


 「どうやら修理でエネルギーを使い果たしたようですね」

「そうか。ありがとなルゥちゃん。お疲れのようだからゆっくり休んでくれ」


 子どもを見るような優しい表情でルゥを抱えて渡してくれた。

 宿屋の対応としては非常に珍しい光景だ。


 なぜなら、テイマー魔物使いの人たちが来ると一般的な宿は断るらしい。

 だが、ここは受け入れる為、人気を高くしているそうだ。


 お金の価値を忘れてしまっているので、ウィズムっちから単価情報を教えて貰った。


 お金の単位をリブラで換算。

 100円=80リブラ

 となる。円高だ。


 一応、『エリュトリオン全集』に記載されているが、いちいち捲るのは億劫だし、通貨単位を忘れないように「紙」と画面に書き込み、召喚して出てきたのがまさかのコピー用紙だったのでびっくりした。

 今までやったことなかったが、召喚に使う画面をメモに使えないか試してみたところ、消えて召喚にしか使えないことがわかった。


 しかし、描くには表現しづらいものを単語にしたものは大丈夫なようだ。

 それと機能注釈で大丈夫なのはエリュトリオンでも変わらない。

 メモはもちろん日本語で書いたが、公用語であるエリューバ語に変化した。

 世界の運行システムによる変換とのこと。


 だが、読めるのはかつてウィズムがマンツーマンで教えてくれたからである。ありがとう。


 二人からやっぱり地球産の紙は上質で良いね~って言われた。

 エリュトリオンでは竜皮紙が最高品質だそうだ。


 実は三年目の修行時に一振りの刀を召喚していた。

 使えば馴染む為、様子が気になって『悪戯好きな無限庫カキアウェッズ』から久しぶりに取り出してみる。

 もしや召喚したこの刀、地球産の神刀とか神器じゃないよね?

 そう思い、鞘から半分出し、刀を眺める。

 刀身から俺の顔が写り込む。


「切れ味良くて丈夫な刀なんだけどなぁ」


 波打つ波紋と雷が走ったかのような模様が打たれており美しい。

 銘らしきものも刻印されているが、暗号のような文字で良く分からなかった。


 カチッと閉じるとシンプルなデザインだった鞘に彫刻と蒔絵が出来、柄に紐が紡がれ、結ばれていった。

 ――なんだこれ?


 今までこのような現象は初めて目撃する。


 あまりにも奇妙な現象が起きているのにも関わらず不思議と怖い感じはなく、あぁ、これはミューリエやウィズムが言った上位互換の現象が起きたんだな、と思いミューリエに聞こうとしていたら、隣で見ていた彼女が青ざめた。

 確かに気味が悪いよね。


「キャァーー!! 何ですかその現象! 気持ち悪いです!! はぅ……」


 ショックのあまり彼女が椅子から崩れ落ち倒れた。

 地面に頭をぶつけないようにすぐにキャッチ。

 あ、ヤバいぜ、気絶してる。

 転んだときに打った頭から内出血を起こしていたのかもしれない。 


 ~30分後~


 ――リンリン。リンリン。


 亭主だろうか? ドアベルが鳴っている。


「夕食が出来たぞ。マサオミ殿、ミューリエ殿はいるか?」


 うわ、困ったなぁ。この状況で呼ばれるとは! 急いでミューリエの肩を優しく揺すって、起こそうとしたが……


「入るぞー」

「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」


 ガタッ。


 倒れた女性に介抱する俺。

 亭主にはどんな目には写っただろうか?間違いなく良くない方だ。


「嬢ちゃん、大丈夫か!?大丈夫か!?」

「坊、なんか変なことしたのか!?」

「違います、違いますって!」



 ◆◇◆◇◆◇◆



 夕食を食べながら事情を説明すると亭主が快活に笑い飛ばした。


「ガッハッハッ! ワシはそんな話は初めて聞いたな。倒れても無理はないわい。カァちゃんはどうだ?」


 奥さんが出来たてのスープを木製のお玉で注ぎながら答えていく。非常に手慣れた手付きだ。


「そうねぇ、アタシはで生き物のようにうごめき、ひとりでに強くなる魔剣の噂を一度だけ若いときに聞いたけどねぇ。

 本当かどうかわかんないわねぇ。もう30年前の話になるけど──」


 聞けば亭主夫婦は若い頃、冒険者だったという。その話はSランク冒険者に聞いた話だそうで、昔のことだから信憑性は断言出来ないと言われてしまった。

 今まで気づかなかったが、良く見ると亭主の右手が無い。自分の鈍感さに泣けてくる。


 話のお礼に義手を作ってあげよう、と思った。

 美味しさで満面の笑みとなりながらスープを飲み干したミューリエがはっとした表情で話し始める。


「うーん、雅臣くんが画竜点睛アーツクリエイト召喚サモンしたものは私にも良く解りません。ただ、コスモ様も不思議な能力だと仰ったので召喚したものは自動アップデートするのかも……?」


 と返答をもらった。

 依然として謎の深い召喚術である。


 俺もアランガ豆というひよこ豆に似た豆が入っているスープを食べてみると、疲れが一気に飛んでいった。

 奥さんが治癒魔法をかけた料理だそうで、治癒魔法をかけた料理は疲れや傷を癒す効果があるそうだ。

 スープの他にサラダや何の肉かわからないがソテーとデザートにパイを食べた。

 こんな異世界人にも美味しく感じた程だ。


 さて、お風呂に入ろうかなと思ったがお風呂が無いことに気がついた。

 ミューリエに聞くと水属性魔法が難解で、無限に出せる富裕層しかお風呂に入れないらしく、お風呂の代わりに一般の人は洗浄魔法を使うそうだ。


 俺は魔法が使えないのでかけてもらった。

 お風呂に入ったあとのスッキリ感だけが残る。

 残るは寝るだけだが、あの部屋ベッド一つしかないのだ。

 俺一緒に寝ちゃって良いんですか!?

 まだ出会って一日目なんだよ?

 ご亭主、これ、狙って鍵渡したでしょ!?

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