第7筆 最後のイカイビト

 ◆◇◆◇◆◇◆


 ラダクティス大陸、別名:南方大陸。

 この大陸の中心部には一つの空虚な穴がある。

 名を始まりの平原、『裂界黒域れっかいこくいき』と呼ぶ。


 永きに渡ってベールに包まれていたその場所が遂にあらわになったのである。


 まるで神が来訪したかの如く、果てなき膨大なエネルギーを放つその場所の存在感は大陸間を越え、各国の強者、首脳たちにまで届き、即座に理解した。

 、と。

 それは世界の危機が再来していることを示唆する確固たる証拠であった。


 そして、報告を最も早く受けた所がある。

 始まりの平原をお膝元に持つ、冒険者ギルドシャルトュワ支部である。



「ほっ、報告ッ!」

「なんだい、どうしたんだね、サブマスター?」


 齢60ほどの外見の女性ギルドマスター、シノ・ファルカオは慌ただしく駆け寄るサブマスターと呼んだ男性を制止した。


「かねてより調査中だった『裂界黒域』が姿を現しましたっ! 内部は遺跡のようになっており、所々石柱が確認されています! 更に『煌夢の炎天竜』様が確認されており、これ以上の調査を控えろと申されております!」


 誰にも聞こえない声で、『遂に来たか、最後のイカイビト──!』と感嘆するシノ。


 普段は炎天竜が隠密ステルス状態でラダクティス大陸を見守っており、イカイビトが出現した際にはその御姿を現して支援をするという。


 そして他ならぬシノもここを『裂界黒域』を通過した経験があるイカイビトである。

 だが、コスモ様の命により内部を口外することは禁止されているが、姿を露にした際はその必要性は薄くなる。

 もうあの場所を隠す必要がないほどに強力な最後のイカイビトが現れた証左だと。


「サブマスター否、息子よ。機は熟した。アタシの長い準備も功を奏したようだ。」

「ということは“あれ”を……?」


“あれ”とは〘念話テレマナ〙のことである。

 実は彼女、表では一介のギルドマスターに過ぎないが、冒険者ギルド創設者の一人である。


 いまはこのような片田舎に住んでいるが、邪神を封印した功績がある彼女の鶴の一声に逆らう者はまずいないと言っても過言ではないだろう。


 シノは手のひらサイズの水晶球をおもむろに取り出して各国の首脳とギルドマスターに宣言する。


「覇天のシノ・ファルカオだ。お気付きかと思われるが、『裂界黒域』が姿を表した。あの周囲に纏われた特殊な結界を打ち破る程の強力なイカイビトが現れた証拠だ! 来訪した際は協力せよ。じきに邪神の封印が解けるかもしれん。」


 100年前のイカイビト、シノが放った言葉は鮮烈だった。あの邪神が復活するかもしれないと。100年に一度ほどける現在の封印。だが、封印したシノがいうのなら間違いはないと人々は思った。


 雅臣が来た際、ほとんどが協力的な姿勢を取るようになるのはこの為である……。


「さあて、楽しくなってきたじゃないか!」


 実は118歳とは思えない程に快活な声を上げ、最後のイカイビトはどんな人か意気揚々と山積した書類を恐ろしい程の速さでこなしていった……。


 各々の策謀、悪意、希望に気付くこともなく雅臣らは……。



◆◇◆◇◆◇◆



 シャルトュワ村へ向かうことにした俺たちは道中、スライムや子鬼族ゴブリンを倒しながら駆けた。

 ウィズムからの情報で、夜になるとスケルトンやデュラハンが土から這い上がり、村の門も閉まるそうだ。


 頭がない女騎士の魔物、デュラハンが出てくるとは……恐ろしいものである。


「イヤャアァァァーー!!〘 火球イグニスクーゲル〙──!」

「グエェエェェ、ヤケル、アツイぃぃ……!」

 

 一匹のゴブリンが虹髪の美少女ミューリエによって黒焦げにされてしまった。


 エリュトリオンのゴブリンは緑っぽい肌をした人間の子供程の身長で、個体差は多種様々だった。

 生殖能力が高く寿命も短い。基本的に群れで活動するのです、とウィズムから説明を受ける。


 特にミューリエきゅんは大嫌いらしく、彼らを倒す度、ニコニコとした表情になった。

 襲いかかる悪い子鬼族ゴブリンに何か嫌な思い出があるようだ。聞かないでおこう。


 そんなモンスターたちを召喚したよく延びるトリモチで押さえつけてミューリエきゅんの魔法で殲滅していく。


 身体が砂粒のような粒子になって空に消えていった。消えたあと紙幣と素材(ぼろぼろの剣)が落ちた。

 ウィズム曰く


『エリュトリオンにおける全ての生き物、植物たちは炭素と水と魔素をメインとした様々な物質をもって構築しているのです。

 死んだ際に魔素は世界に還元し、循環。魂は旅をしてから世界を去るか転生されます。魔力以外の物は死んだものが持っていたものが残るのです。』


 更に魔力総量は上げられるようで、俺は画竜点睛アーツクリエイトによって何でも召喚出来るので関係無いと思ったら、召喚時に魔力又は研究しても不明な何らかのエネルギーを使っているそうだ。


 しかし、俺の魔力総量は三年間の修行で状態から増やしたのでそこそこはあると思う。

 赤い目で様子が一番おかしいゴブリンから落ちた落書きのような紙幣を眺めて疑問に思った。


「ミューリエちゃん、銀行ってあったかな? 」

「銀行ですか? 商業ギルドが担っています。」

「どこにあるの? 」

「どの市町村でも必ず一つあります。

 お金を管理するための異界があってゴルディ=エオレンという世界です。

 なお、商業ギルドの人間がお客様のお金を私利私欲に使うと即座に公開処刑されます。」


 ひえぇ……おっかない。どの世界でも人のお金を横領する奴がいるんだな。


『雅臣さま、見えて来ましたよ。』


 ウィズムに声をかけられ目の前をみると石壁が見えてきた。シャルトュワ村についたのである。


 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「襲撃カイシ……進軍セヨ、進軍セヨ……」


 黒焦げになった一匹のゴブリンが呟く。


「リョウカイ、王ヨ。コロス、サツリク、血マツリ、スベテは邪神サマのタメ……」 

「「「全テハ邪神サマのタメ……!」」」


 ミューリエの攻撃で死んだはずのゴブリンたち。

 むくりと起き上がり、妖しく光る赤黒い瞳の先は村を睨みつけていた。

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