第3筆 宇宙の創造主は美しかった

「のっわぁ!? ちょ、ちょっと! いきなり現れたかと思いきや、誰なんだよっ!?」


 ふふっと微笑ほほえむ彼女。その感情に応じて周囲から流れ星がこぼれていった。

 宇宙と共鳴しているということだろうか?

 俺の名前を知っているし、キスしてくるとはこの娘は一体何者?


「そうね、どこから話そうかしら?」


「なっ!? もしかして、俺の心を読んだのかっ!?」


 微笑ほほえみをくずさずにうなずく彼女。星々が微笑みに同調してきらめいた。

 それは異質。だが、いかなる女性とも違う安心感を与えてくれる。


 まるで大いなる母の愛のように。



「あら、驚かせちゃってごめんね、雅臣まさおみくん。生まれた時から人の心の声が聞こえるから。まずは自己紹介だね。あたしは〔万有宙天大創主姫神ばんゆうちゅうてんだいそうしゅひしん〕こと、アルディア=コスモ。全宇宙を統括する創造主にして宇宙の存在自体を象徴する者。年齢はね……ざっと2じょうと700千垓せんがいってところかしら。今の宇宙は51度目なのよ」



 ひえぇーー。なんて長生きな神なんだよ、コスモちゃん。まさか都市伝説にまで上げれていた全宇宙の創造主に会えるなんて……。

 しかも超ひも理論で宇宙は50度目を迎えて……51度目?



「滅んだのよ」



 あっさりと。

 どの出汁よりもあっさりとした答えだった。俺はため息しか出ない。



「そうかしら? 長生きしてみるものよ。 次の解説をして良いかな?」

「はっ、はい」



 次は、この宇宙みたいなところのことについてだろうか。



「ご名答。ここはね、唯一世界ユニバースワールドと呼ばれる場所よ。過去・現在・未来が同時進行し、すべての世界、銀河、星雲のネットワークの根源。限られた者しかたどり着かない場所ね。特にこの大広場は来訪者が好むもの、得意なものが素直に現れる場所でもあるわ。キミは絵が好きだから周囲の空間が絵の具を混ぜたような色合いになってるわけ」



 コスモちゃんが解説をしていくにつれて、虚空から惑星や星雲などが現れて俺の周囲を巡る。


 全ての話が終わると、惑星たちはカラフルな絵の具となってぶちまけられた。

 何ともセンセーショナルな光景である。



「あぁ、この絵の具で出来た惑星たち? これは雅臣まさおみくんが生来持っている能力、〘画竜点睛アーツクリエイト〙によるものよ。ちょっとお借りして使ってみたわ」



 人のものを勝手に使うのはいかがなものかと思うけど、なんて鮮やかなものだろうか──!


 しかもこれが生まれつきの能力?

 なぜ、今まで使えなかったんだろう?



「それに関してはわからないわ。あたし、だけど、のよ。そこでね、キミの〘画竜点睛アーツクリエイト〙の解析と行動サポートをしてくれるのが、これよ!」



 そう言ってコスモちゃんは子どもから大人の姿へと変化し、たわわに実った胸の谷間からおもむろにキューブ状の何かを取り出した。


 ぐふっ! な、何てところから取り出しているんだっ!? 大変しからん、しからんぞぉぉ!


(だけど、セクシーで悪くないっ! 美しい!)


「体内に入れていたら安全だからさ、ここに入れてたんだよ〜」

「そっ、そうなんですかっ?」


 動揺のあまり、どもってしまった。


「やっだぁ、もう可愛い!」


 コスモちゃんは突然俺の顔に胸をり付けてきた──! あぁ、甘い香りが理性の鎖を溶かしていって……いかん! ここで屈せぬのが紳士よ。

 しかも、この香水、[Eau de Spaceオー・ドゥ・スペース]じゃないか!


 宇宙の香りを再現した幻の香水……。


 焦げた匂いや燻された匂い、ラズベリーの香りなど、様々な香りが内包された逸品である。

 くっ、紳士たるもの、ラッキースケベ以外には屈さぬ。

 それより、そのキューブについて説明してほしい。



「あら、残念。このキューブはあたしの叡智えいちが詰まった人工知能で、アカシックレコードに接続出来る代物よ。キミの誕生にあわせてチューニングしてあるから誕生日も同じだし、双子の妹みたいなものだから、長く付き合ってあげて」



 俺が生まれた時から、ここに来るのが決まっていたわけだろうか?


「遅かれ早かれ、ね。遅くても少しずつ説明していって来てもらうつもりだったの」


 そうなると凜花ちゃんをさらいかけ、俺を殺そうとしたあの強面の男は一体何者?


「えぇ、それに関してはダーリンに頼んで調査してもらっているわ。心配しなくても大丈夫よ」


 だ、ダーリン? それはさておき、あいつは教え子をさらおうとしたからな。許せないものだ。だが、全能なコスモちゃんが調査中なら、任せよう。


「さぁて、出番よウィズムちゃん」


 コスモちゃんから受け取った瞬間、ホログラムが展開され、起動した。


『ボクはウィズム・リアヌ・アカシックレコード。マスターである雅臣さまの為、頑張るので宜しくなのです』


 その姿はコスモちゃんの幼い姿に似ていて、風で揺らぐエフェクトから、黒髪が腰まであるのをうかがえる。

 服装はなぜかメイド服で、声は頭の中に直接響く可憐かれんな声だった。


「宜しく、ウィズム。頭の中よりスピーカーでお願いして良いかな? そして、何でメイド服なの?」


『すみません、修正致しましゅ』

「あ、噛んだ」


 小さな発砲の音。微かに漂う焦げた匂い。

 一瞬額が熱くなり超光学熱レーザーで撃たれた気がして、額をさするがなんともない。

 小指を回したコスモちゃんがなかったことにしたようだ。


「今、何かした?」

『いえ、気のせいなのでちゅ』


 なんだこのヤンデレは。

 噛んだことを指摘するだけで発砲とはどんなだよ。


「こほん。とにかく、地球では童顔の女の子がメイド服の格好やコスプレをするのが流行っていると聞いたのです。雅臣さまはこういうのが好きなんですよね? ちらっとね』


 もしかして、メイド喫茶のことだろうか?

 幼女がか細い太ももを晒しているが、俺はロリコンじゃない。ホログラムの頭をなでて諭すことにする。


「子どもがおませなことをやるんじゃない。頭は良さそうだけど、悪い大人に捕まったら駄目だぞ」

「や、やめてよぉ……子どもじゃないのですぅ! お兄さまのバカァ!!」


 色々とズレているポンコツ感が可愛らしいので、駄妹だもうとウィズムと呼ぶことにした。


「ところでコスモちゃん。こういう時って、転生とかあったりする?」


 余興が長い。

 ここまで長居しているのだから、そういうことがあってもおかしくない気がする。

 コスモちゃんの顔色をうかがうとゆっくりと頷いた。


「……うん。ここからは本題ね。天命ではない予想外の事故で亡くなってしまったから。こうしてわざわざ呼んだのも雅臣まさおみくんにしか出来ないお願いよ」


 彼女は段々とニコニコしていた表情とうって変わり、真面目な面立おもだちになった。


「地球とは異なる世界、エリュトリオンで復活が近付く邪神を倒して貰いたいの」


 ……マジですか? 本当に?


「本当よ」


 うぉぉおぉぉおぉ、キタコレッ!

 待ってました! こういう展開!

 憧れの異世界、剣と魔法、異世界人による産業革命とかやっちゃったりして……?


 本当はずっと夢だった。昨年の異世界転移の世界抽選すら外れたから、この上なく嬉しい。

 ついに叶うのか!

さっき『転生準備完了』って言っていたし、あぁ、楽しみだ!


「うんうん、楽しみにしてくれているのは有り難いわ。だけど、異世界人は邪神を倒すために100年に一度送っているの。キミが108人目よ」

 

 ん? 100年に一度だって? 現在の地球でも異世界転移とか探索やってるからこんなものか。

 対して珍しくないくらいが偏見も少なく、住みやすいだろう。煩悩ぼんのうの数なのが気になるけど。


煩悩ぼんのうの数と同じなのは、その分邪神が強力であることの証左。キミが最後の異世界人として終止符を打ってほしいの。もちろん下準備は先人たちが済ませてるわ」



 10800年かかっても倒せなかった邪神ね……。

 それほど強力な敵となれば、戦闘力はジムで鍛えた程度の俺に倒せるだろうか?


「このままでは駄目じゃね? 俺、絵以外は素人だよ?」

「そうね」

おっしゃる通りなのです」


 可能であれば、時間が欲しい。

長ければ長いほど良いな。


俺は先程の事故みたいに滅多なことがない限り、突っ込まない。

 準備できるものは万全な状態で攻略するぞ。


「あの、時間を頂けませんか?」


「良いわよ。そう言うかなと思って三年の修行期間を設けるわ。(邪神が友人だったなんて言えるわけないし、あの大きな過ちを繰り返すわけにはいかない。彼の慎重さを活かさないと)」


 ん? 何か小声で言ったような?

 それより、安心要素が増えた。ド素人が行って即死より、強くなるために三年くらい欲しいと思っていた所よ。

 比較的平和な地球と違って、何が起こるかわからないしね。安全と慎重第一、これ鉄則。


「しかし、現実味を感じないや。確認だけど、これって夢じゃないよね? 頬をつねってくれない?」


 いたぁあぁぁ!? うん、そうだよね。

 平穏を取り戻し始めた精神に言い聞かせるとしよう。これは夢やゲームではなく、なのだと。


『これにて解説を終了とさせて頂きます。では、雅臣さま。明日より修行を開始します』


 慎重にこの修行が着実に実を結ぶことを信じて、俺はコスモちゃんとウィズムに礼をした。


 頼まれたことはやって見せよう。

 好きなこと、興味のあることをもっと楽しみたい。

 新たな人生では出来なかった事をやろう。


 これが俺の決意だ。


「宜しくお願いしますっ!」


 直後、俺の頭上に彗星が落ちてすぐに

 え、もう修行始まって人生も終わり? って、終わってたまるかぁー!!!

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