05

 全員が己の適性を知り、どんな風に魔法を使うかで盛り上がっている。

 火でドラゴンを作る、空を飛ぶ、城を築く等々。

 興奮冷めやらぬところだが、残念なことに終業の時間が来てしまい、その回はお開きとなった。

 最後にシスターの目の届かない所で魔法を使わない事を念押し、ライネルさんは帰って行った。


 その後私たちは約束した通り、市場に買い物に来ていた。

 孤児院から市場へは『シルミウム』の中心に向かって行くのだが、王都と港を繋ぐ動脈であるこの街の往来は、当然ながら多い。

 宿を探す行商を始め、夕飯の食材を探す主婦や仕事帰りの冒険者が酒場を求めて行きかう中、馴染みの雑貨店に急いでいた。

 冒険者ギルドの前を通り過ぎるとき、思わぬトラブルがあり、帰りが夕飯の時間に間に合うかどうかわからなくなってしまった。

 シスターは普段温厚だが時間に厳しく、怒ると目が据わり、静かに発せられる言葉には心臓を締め付けられるような恐怖を感じる。

 なので必ず間に合いたいのだ。


「ごめんね。付き合ってもらってるのにこんな時間になって……」

「私が行くって言ったんだから、謝らなくていいよ。だいじょぶだいじょぶ、間に合うって」


 ミリィはさっきからもう4、5回は謝っている。


「それに珍しいもの見れたじゃん。帰ったら皆に自慢しよ」


 元気付けるために言ったつもりだったが、彼女からはそうだね、と細い返事か返ってきただけだった。


 そうこうしている内に雑貨屋に着いた。

 ドア鈴を鳴らしながら中に入ると、正面のカウンターにいる店主の爺と目が合う。


「やっほー、おじちゃーん」

「こ、こんばんはぁ……」

「おお。ルナちゃんにミリィちゃん。どうしたい、こんな時間に」


 店内に客はおらず、店主もそろそろ店を閉めようとしていたのか金の集計をしていた。


「例のモノを下さいな」


 急いでいるので手早く要件を伝え、店の奥から商品を出してもらう。

 私たちが普段使っているノートとは違い、ぶ厚くて少しざら味があるしっかりとした紙の束だ。

 お値段なんと銀貨4枚。

 ジューシーな肉と焼きたてのパン、副菜とデザートも付けた食事4回分である。

 ミリィの所持金を確認すると銀貨3枚と銅貨が2,3枚、少し足りない。

 それを確認して、おほんと喉の調子を整え――


「――うっふん、おにいさぁん。すこぅしお安くならなぁい?」


 値切りには成功した。

 交渉と言うより同情を引く作戦で。



――



 帰る途中、大通りのゲート付近で人だかりができていた。

 中心にいるのは、先程ギルド前で見た大型の魔狼を連れた冒険者の少年だ。


 普通、魔物の類をテイムするのは至難の業で、一部の特殊ケースを除いて成功例はない。


 にもかかわらず、あの冒険者は三匹も連れている。

 魔狼の他に、肩に鳳凰、足元には銀狐を侍らせている。

 どちらも超レア中のレアの魔物。

 当然、戦闘力も折り紙付きである。

 しかもテイム済みときたら、この世に彼らしかいないだろう。

 その珍しさから、ギルド前に人だかりができていて、まともに通れなかったのである。


 そんな彼が街の狩人と言い争いをしているようだ。


「バカ言うな! アレは人間が敵う相手じゃない。絶対に放っておいた方がいい。こちらから手を出さなければ――」

「街のそばにそんな魔物がいると住人も落ち着かないだろう。安心しろ、俺は魔物に特化したスキルを持っている」

「それは見ればわかる。だが、あれは別格だ!」

「聞くところによると、そいつは獣の姿をしていたんだろう? 特徴を聞くにヤマアラシが近いかな。ならば俺のスキルの効果範囲内だ。そいつもテイムしてやろう」

「なっ―やめろ! お前だけの問題じゃないんだ! 下手したらこの街にまで危険が及ぶ!」


 なおも食い下る狩人を鬱陶しそうにあしらう冒険者の少年。


「……ルナ、もう帰ろう」

「あ、うん」


 ミリィに促されて足を動かすが、胸のざわつきが収まらない。

 正直何の話かさっぱり分からなかったが、狩人のおっちゃんのあんな鬼気迫る表情初めて見る気がする。

 明日何の話をしていたのか聞いてみようかな。



――



「…………ルナ、ミリィ、遅かったですね」


 でもその前に換えの心臓を用意しとかないとな。

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