04

 魔法の授業、後半。


 Bランク冒険者のライネルさんに促されて、皆が配られたロウソクに火を点け始める。

 彼が言った通り、点火で手間取る生徒はいなかった。

 びくびくわくわくしながら、人差し指から、口から、はたまた派手なポーズを決めながら。


 子どもが花火で遊んでいるような景色に望郷を感じながら、『風景を空間ごと保存するスキル』で思い出に仕舞う。


「ミリィ、大丈夫?」


 スキルを使っていると、私が呆けているように見えたのだろう、ルナが心配そうに声を掛けてくれる。

 この世界に来て初めての親友であり、私の片想い相手でもある。


「ごめんごめん。大丈夫だよ」


 ほら、とロウソクに火を点けて見せた。

 これで全員が問題なく魔法を使えた事を確認したライネルさんは、皆素晴らしいぞ、と言って授業を次のステップに移した。


「さて、次は諸君が何の属性が得意なのかを測ろうと思う。もし、君たちが俺と同じ冒険者を目指すと言うならば、誰かとパーティーを組む際にこの属性のバランスは重要になってくる。人間という種族は火属性を得意とする者が多いが、あくまでその傾向があると言うだけだ。火じゃないからといって凹む必要は無い。かくいう俺も一番適性が高いのは地属性だしな。そんな俺でも先程の火球などを始め、他の属性が全く使えないというわけではない、地水火風どの属性にもそれぞれの役割があるんだ」


 そこまで言うと言葉を区切り、腕を軽く振る。

 途端に強風が吹いたかと思うと手に持っていたロウソクの火がかき消された。

 ルナや周りの皆のも同じく、火は消え先端から煙を引いている。

 今の風も魔法なのだと気付くと、数人がざわつきだした。


「これを踏まえたうえで、諸君には己の魔法適性と向き合ってもらう」


 やけに念を押すなぁ。

 こうでも言わないと自分の適性にがっかりする子が出て来るんだろうか。


「それでは諸君。そこら辺にある石を拾ってくれ。大きさは両手で包めるくらいの物が良い」


 各々手頃な石を見つけ、全員が持ったことを確認すると。


「それではこの石に自分のマナを込めるんだ。石に起こる変化により、適性を判断する」


 皆がうんうん唸りながら一斉に念じ始める。

 ルナも私もそれに続く。


「石が熱くなったら火、湿ったら水、砕けたら風、重くなったら地だ」


 しばらくして「熱っ」だとか「重っ」だとかいう声が聞こえ始めた。

 未だに何の変化もない石に焦りを感じ始め、目を瞑って念じる。

 掌にある無機物に意識を集中させ、ロウソクを灯した時と同じ力の流れを、向ける。

 強く、強く、もっと強く。


 最初の変化は、温度だった。

 手の中がひんやりとしていて、おや? と思った時には手の底を水滴が這う感触が伝わる。

 思わず驚きの声が漏れた。

 私の適性は――


 目を開け隣を見ると、ルナがニヤニヤしながらこちらを見ていた。

 せっかくの美人さんが台無しである。

 でも茶化したりはできない。

 もしかすると今の私も同じような顔をしているかもしれないのだから。


「……何だった?」


 どちらともなく聞くが、私たちは顔を見合わせるばかりで答えようとしない。


 通じ合ったように、お互いに見せるように、2人がゆっくりと包んでいた手を広げる。


 私のは想像通り、石が湿気に変色し、水滴が伝っていた。

 ルナの方はというと。

 石だったものが粉々になり砂と化していた。


 お互いの結果を見比べて、相変わらずニヤニヤしている。

 膠着状態の中、先に動いたのは私だった。


 石を捨て、水滴の付いた手でルナのほっぺたをピタツと包み込む。

 突然の冷たさに奇妙な悲鳴をあげるルナ。

 それを見てますます楽しくなった私は、そのまま肌を保湿してあげることにした。

 ぷにぷにの赤ちゃんのような肌に、揉み込むように私の魔法で作った水を塗り込んでいく。

 ……少し癖になりそうだった。


 はぁ、ルナのほっぺやっこいなぁ。


 

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