第39話 ちょっと一息
文化祭での出し物も決まったし、寸劇の配役もなんとか決まった。研究ラブコメは涼子が書いてくれるということになった。どんな小説になるのかは気になるけど、出来る自信があって引き受けたわけだし、うまくやってくれるだろう。
「あー、ちょっと頭使い過ぎたかも」
文化祭に向けて寸劇の台本を修正してみたり、メールで恩師である
「高校生に研究を知ってもらう試みとしてはなかなかいいと思いますよ。私も一番多忙な時期を抜けたところですし、アイデアだしくらいはしますよ」
と協力的だった。しかし、ここのところ少々頭をフル回転させ過ぎたせいで身体が怠いし眠い。時刻を見ればもう21時。お風呂も入って後は寝るだけ……なのだけど、文化祭のことが頭から抜けない。
(たかが文化祭、なんて思えたら楽なんだろうけど)
あいにく自分の脳みそはそんなに器用に出来ていないらしい。しかし、さすがにちょっと息抜きでもしないと。
(ゲームでもするか?)
スマホのパズルゲームを取り出して、無心、無心と念じながら淡々とパズルを解いていくけど、気が付いたら
(あー、そういえば台本のあの箇所修正しておきたいな)
とか、
(増原先生も当日来られないだろうか)
とか色々な考えが頭を邪魔して休めない。こういう一つの事に頭が向かっている状態を俗にフロー状態というらしいのだけど抜け出るのが非常に困難だ。
【
気が付けば
【ん。好きに入って来てくれ】
【じゃあ、10分後くらいに行くわね】
何の要件だろうか。文化祭関連?はさすがに俺じゃあるまいしないか。あるいは先日話題にしてた新しい論文の話だろうか?とにかく、多少は気分転換になるかもしれない。
パズルゲームをしながら待っていると、ガチャリと鍵が開く音とともに涼子が入って来る。うちの両親も静かにしてさえいればOKと暗黙の了解になっているので何も言わない。
「善彦、死にそうな顔してるわよ。大丈夫?」
部屋に入るなり涼子の第一声はそれだった。
「大丈夫じゃないかもだけど。そんなにひどいか?」
まあ、頭が回転し過ぎて少々つらい。
「おおかた、文化祭のことで頭回転させ過ぎてたんでしょうけど」
言いつつも怒っているわけじゃなく、仕方ないといった顔だ。
「ゲームとかやって息抜きしようとしたんだけどな……」
なんともはや難しい。
「リラックスできる音楽とか流してみたら?」
「言われてみれば、確かになー」
「それにPCチェアに座り続けてリラックスもないわよ」
「誠におっしゃる通り」
「というわけでいったん寝っ転がりなさい」
半ば強引に椅子から身体をどかされて、仕方なくベッドにうつ伏せでごろんと。
と思ったらすぐ横……涼子のスマホから何やらゆったりとした音楽が流れてきて、背中を押す感触。
「う。急に……力が抜けた気がする」
さっきからなかなか肩の力が抜けなかったのに不思議なもんだ。
「善彦。肩も背中もガチガチよ」
ちょっと引いたわというような声。
「そんなに凝ってるか?」
「亀の甲羅みたいね」
「笑えねえ。まだ俺高校生なのに」
なんて自嘲してる間にも、うんしょ、うんしょ、という声とともに肩や首、背中がやさしく指圧される。
「なんていうか、すっげえ助かる。こんなに凝ってたんだな」
さっきまで全然自覚していなかった。
「善彦は本当に不器用なんだから」
「なんといっても生まれつきだからさ」
「わかってるわよ。あなた程じゃないけど私も同類だし」
ようやく頭の回転がゆっくりになっていって、それとともに少しずつ瞼が下りてくるのを感じる。
「なんか……眠くなって……きた」
「寝ちゃいなさい?寝不足だったでしょ?」
「いやでも、このまま眠るのも……」
彼女にマッサージされてそのまま寝ちゃうとか。微妙に恥ずかしい。
「言っててももう声がふにゃふにゃよ」
「抵抗したいのに出来ない……」
「だからあきらめなさいって」
なんて言い合いながら俺の意識は睡魔に飲まれたのだった。
◇◇◇◇
「ん……」
あれ?なんか涼子の顔が見えてて、その後ろには天井。さっきまでマッサージされて眠気に負けたはず。
「おはよう。善彦」
少し可笑しそうな表情でクスクス笑う彼女。待て、この体制は。
まず俺は仰向けに寝かされている。間違いない。
横を見るといつもの無骨なベッドに敷布団。
上半身まで毛布で覆われている。
それはいい。しかし……頭の感触が少し妙だ。
枕じゃないしベッドとも違う。
まさか……
「あのさ……今、膝枕されてる?」
問うまでもなく気づいていたのだけど、あえて聞く。
「そのままでも良かったけど、こういうのもいいいでしょ?」
つまり、あえて膝枕してみたかったと。
いい笑顔なんだが俺としては恥ずかしくて仕方ない。
特に寝不足のところをマッサージされての流れだ。
「まあ。疲れがかなり落ちたのは確かだけど……ありがとな」
嬉しくもあり男としては恥ずかしくもある。
「そっか。なら良かったわ。だいぶ顔色良くなってるし」
「心配かけて悪いな」
「いーえー。今は私も彼女なんだから、こういう時くらい頼りなさい?」
なんていうか、すっかりお姉さんという感じの言い分だ。
ただ、悔しいけど頭が上がらない。
でも、たまにはいいか。
「あのさ。ちょっと我儘言っていいか?」
「どうぞ?」
「もうちょっとこのままで」
我ながら子どもっぽいお願いだ。
しかし。
「それくらいでいいならいくらでも」
「あ。でも、もう0時過ぎてるじゃん」
「二人には説明しておいたから」
「うぇえ」
いやそりゃ、親父たちには色々知られているけど、こんなことまで知られる羽目になるのか。
「せめて言わないでくれたら」
「そしたらかえって心配かけるでしょ」
「ごもっとも」
「ほら。いいからもうちょっとゆっくりしなさい?」
もうどうでもいいやという投げやりな気持ちでしばらくの間膝枕を堪能したのだった。しかし、涼子も自分とこの親には伝えて来たはずなのに、なんでやたら落ち着いてるんだか。
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