第38話 寸劇のメンバーを集めてみた(後編)
「めっちゃ眠ってしまった……」
結局、昼休みまで爆睡してしまった。
「睡眠時間削るの、本当に止めときなさいよ?」
いつものように机を向かい合わせで昼食中だ。
仕方ないんだからと言いたげな
「自分でストップ出来ればいいんだけどな」
集中を始めると睡眠時間を削るのは悪癖だと自覚はしている。
ただ、一度脳がフル回転すると、なかなか思考が止まらないのだ。
「言いたいことはわかるけどね。やっぱり不健康よ」
「いいアイデアがあるなら聞きたいけどな」
集中しだすと没頭してしまうのは諸刃の剣だ。
うまく集中を途切れさせる方法があるなら知りたいくらいだ。
「1時間後にアラームセットするのはどう?」
「前にやったことあったんだけどな。反射でアラーム止めるようになってた」
集中出来る環境が悪いのだから、アラームを鳴らせばはっとするだろうと。
そんな楽観的な予測だったものの、慣れてくると反射でアラームを止めてしまっているのだ。
「なかなか難儀な特性よね」
涼子がため息一つ。
「そんな事言って。涼子だって似たようなことあっただろ?」
異常な集中力は何も俺の専売特許じゃない。
「
弁当をパクつきながら、何やら真剣な顔で悩みはじめてしまった。
恋人とは言えちと心配させ過ぎたか。
「いいって、いいって。昔からの性分だし」
逆にこの性質が無ければ高校生で研究者などやれないだろう。
「……よし、決めたわ!明日から朝はジョギングしましょう?」
目が真剣だ。
「生活リズムを朝型に切り替えようってことか?」
朝早く起きて運動して。
確かに夜型になりがちな俺には必要なことかもしれない。
「そう。私もついつい夜ふかししちゃうから。ちょうどよくないかしら」
「涼子がそれでいいなら。ただ、ギリギリまで寝てると思うぞ」
朝、ジョギングの時間を確保しようと思うとそれだけ早起きしないといけない。
ただ、夜更かしして睡眠時間が3時間くらいだとちょっときつい。
「最近、ちょっと勉強してたのだけどね。善彦は概日リズムが乱れがちなのよ」
概日リズムとは、約25時間を周期として起きる生理現象だ。
体内時計とも呼ばれている。
「すぐ夜遅くにずれ込むからな。言いたいことはわかるけど……」
しかし、簡単に夜更かしを止められないのも事実。
「今夜から、夜更かしする前にラインで言ってあげるから」
「お前は俺のお母さんか!」
「仕方ないでしょ。誰かがストップかけないと」
その声は本当に心配そうで、申し訳なくなってくる。
「わかった。頼むわ」
「集中し過ぎてスルーしないでね?」
「少し自信がない……」
ちょうど休憩を入れてるときならいいかもしれない。
しかし、集中の真っ最中に彼女からコールされても気づかないかもしれない。
「その時は、善彦の部屋まで行って止めたげるから」
「そうならないように頑張るわ」
親しすぎてお互いの家の合鍵まで持っている仲というのも考えものだな。
幸い、エッチな本とかフォルダでどうこう言うタイプじゃないけど。
「ところでさ。寸劇の配役だけど、残り一人は誰にする?」
朝の内に大体は決まったけど、聴衆役が一人足りない。
「無難に行くならマイコン部のメンバーじゃないかしら」
「それを言えばそうなんだけどな……めんどくさがりが多いし」
元々、遊ぶためだけの部活だ。
「部長はどうかしら?部内では一番真面目な方だと思うけど」
「影彦さんなあ。確かに、頼めばやってくれるかもしれない」
マイコン部の部長にして、生粋のコンピュータオタクでもある。
「むしろ興味津々で食いついてくると思うわよ?」
「あの人もイベントが好きだからなあ」
マイコン部は基本的に協調性がない奴が多い。
部活自体に協調性が要らないのだから当然かもだけど。
その中でもとりわけ協調性が無いのが影彦さんだ。
しかし、コンピュータにかける熱意は本物。
「よし、放課後はマイコン部に顔だして、頼んで見るか」
意外に興味があって快く引き受けてくれるかもしれない。
「駄目だったら、他を当たりましょ?」
「だな。考えすぎても仕方がない」
弁当を食べながらそんな相談をしていると。
「なんかやたら難しそうな話してるな」
「才能の違いって奴だよな。羨ましい」
「俺も涼子ちゃんが彼女だったらなー」
周囲から小さな声でそんな雑談が聞こえてくる。
しかし、最後の言葉は少し聞き捨てならなかったな。
「なんで急に不機嫌になってるのよ」
心配そうに言われてしまうけど、確かにわからないよなあ。
しかし、これを言うのは少々恥ずかしい。
要は独占欲という奴だし。
「いや。涼子が彼女だったらと言ってる奴が居たからさ」
最後の方は微妙に小さい声になってしまう。
「ふーん。善彦にも人並みに独占欲があったのね。意外だわ」
言いつつもとてもうれしそうだ。
「そりゃ彼氏として彼女を渡したくない……のは当然だろ」
「その割にはこれまであんまり嫉妬らしい嫉妬みた事がないのだけど」
確かに、そういう傾向はあったかもしれない。
「まあその。前よりも涼子の事が好きになってるのかもな」
こういう独占欲が顔を出し始めたのはつい最近だ。
そういうのとは無縁だと思ってたのだけど、俺もやはり男だったらしい。
「でも、良かった」
心底ほっとしたような声だ。
「ヤキモチ焼かれてなんで?」
「だって、それだけ私の事好きでいてくれるんでしょ」
「それは、その。そうだけど……」
俺としてはそういう感情は永久に封印されていて欲しかった。
「別にそれくらいで嫌わないわよ。私も同じだから」
「同じ?涼子が嫉妬してるところなんてあんまり見たことないけど」
たとえば、結菜と二人っきりで話した事がある。
しかし、それにヤキモチを焼いている様子はなかった。
「私も葛藤があるのよ。善彦が誰かになびくわけないから、見苦しいだけだし」
「それこそ、俺は涼子がヤキモチ焼いてくれる方が嬉しいんだが」
女子と二人で会わないで、とか言われたらむしろ嬉しいかもしれない。
「あと、見苦しくてもいいと思うんだけどなあ。むしろ、嫉妬して欲しいくらい」
「……そうね。善処するわ」
そんな事を話しつつ昼休みは終わった。
放課後、マイコン部で部長の影彦さんに役をお願いしたところ。
「また酔狂な出し物をするね。君たちは」
独特の言い回しと声色が特徴の影彦さん。
しかし、さんざん酔狂な事をしてる彼に言われるとはな。
「影彦さんに言われたくないですよ」
「でも、これはこれで面白そうだ。参加させてもらうよ」
「じゃあ、お願いします」
ようやく最低限の配役が揃った。
「残り時間少ないから、さっさと練習しないとな」
「そうね。寸劇とは言え劇は劇だものね」
「そうそう。当日までにまともに仕上げてかないと」
「それで、また夜更しするのは止めなさいよ?」
「わかってるって」
「その返事何回目かしら」
そんな口うるさい恋人のお小言を頂戴する羽目になったのだった。
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