3
カバンを抱えながら私は思い出の場所に到着した。大学近くにある広い公園である。広場にはベンチがあり、そのもっと先には子どもが遊べる遊具や砂場がある。辺りは一面森に囲まれており、暑くも寒くもないこの時期にはちょうど良い場所だ。尾張はベンチに座ってギターを弾いているのが今田ということにすぐ気付いた。三年前と変わらないその様子に少し安心したが、緩んだ表情を硬くし、今田の隣に向かうのであった。
「まだ弾いてるの?」
「…三年振りか~」
「はい」
私は買ってきたお茶を今田へ渡し、その隣へ座った。
「会社辞めたのか、ビックリしたよ」
「どうせ分かってたでしょ」
私たちは相変わらず目を合わせることなく、目の前を見ていた。三月終わりの公園、辺りは春休みでこの公園にやってきた小さい子どもが楽しい音色を響かせている。沈黙を振り払ったのは私だった。
「はじめは何してんの?」
「俺?」
「なんかレコード会社からオーディションあるって言ってたじゃん」
「あ~受かったよ」
「えっ、良かったじゃん」
この報告に今田のことを見直したのか、私は今田のことを目でしっかりと見ていた。
「もう辞めたけどね」
天国から地獄へ突き落された気分だった。自分のことではないが、自分の状況を棚にあげて、その真相が知りたくなった。
「は?なんで?」
「だって、やりたいことと違うからさ」
この言葉を聞いて私は今田が自分と似ていると感じた。結局やりたいことが違って二人は、この場所で再会を果たしている。ただ、嘘をついた。
「せっかく夢叶いそうだったのにバカね」
「やりたくないことやろうとして、東京まで行っちゃう人よりはマシだと思うけど」
図星だった。なんとか言葉を見つけようとしたが、それはさっきした質問と同じであった。
「…今何してんの?」
「なーんも」
「じゃあ、私と一緒だね」
「全然違ぇよ」
「何よ、あの時はじめが喧嘩なんかしなきゃ私だって音楽続けてたのにさ」
「…ちょっと来て欲しい場所があるんだ」
私は、今田に連れられてとある場所に向かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます