助けたい思いを両手に込めて
変身したマフィンに目が釘付けになったのは、私だけじゃない。突然、逃げたはずの男の子が現れたものだから、前田さんも幸田さんもぽかんと口を開けちゃってる。
「前田さん。俺、夢でも見てるんでしょうか?」
「バカを言うな。寝ぼけてるのなら、顔を洗ってこい」
そう言う前田さんだって、相当ビックリしているのがわかる。だけど、そんな彼らのすきを逃すほど、マフィンは甘くなかった。
「悪いけど、眠っててもらうから!」
「ぐううっ⁉」
一気に距離を詰めたマフィンの右手が、幸田さんのお腹にめり込んだ。
よっぽど痛かったのか、その前に受けたフライパンのダメージもあったのか。幸田さんは小さく声を上げると、そのまま白目をむいて倒れちゃった。やった、やっつけたんだ。
「幸田⁉ お前、よくも!」
立て続けに仲間がやられたのを見て、焦ったように拳をにぎる前田さん。マフィンもそんな前田さんと対峙するように、向きを変えたけど……。
「うっ――」
えっ? ちょっとマフィン、大丈夫⁉ 急にフラフラとよろけたと思ったら、ガクンと床にヒザをついちゃった!
そんな、いったいどうして⁉ ううん。理由なんて分かっている。だってマフィンは幸田さんに何度も殴られて、猫の姿でいた時は、小さな身体を地面に叩きつけられたんだもの。
もう限界だってことは、誰の目から見ても明らか。そう、前田さんから見ても。
「ガキが、調子に乗るな!」
女の子が突然消えたり、マフィンがいきなり現れたりしたことで呆気にとられていた前田さんだったけど、弱っていると分かった途端、即座に飛び掛かっていった。
どうしよう、仲間が二人もやられちゃって、完全にキレちゃってるよ!
よろよろと立ち上がったところに飛び掛かってこられて、仰向けに倒されるマフィン。さらにそのまま、馬乗りにされる。
「どっ、退けぇっ!」
声を絞り出したけど、前田さんはマウントを取ったまま首を絞めてくる。もちろんマフィンはそうはさせまいと抵抗してるけど、体力を消耗しているんだもん、勝ち目が無いよ。
「アミ……パ……フェ。逃げ、て……」
首苦しそうにしながらも、こっちを見ながら声を絞り出そうとしているマフィン。大して前田さんは興奮した様子で、マフィンの体を押さえつけている。
「何なんだお前は? 逃げ出したと思ったら戻ってきて、仲間をやっちまって。ああ、もうどうでもいい。人質は、一人いれば十分だ。お前はここで、息の根を止めてやるよ!」
前田さんは血走った目をしていて怖かったけど、マフィンに何かあったらって思うと、もっと怖い。
た、助けなくちゃ。だけどどうやって? いや、まてよ!
戸惑っていたのは、ほんの一瞬。取っ組み合っているマフィンと前田さんの先、パフェの隣に落ちていたソレを見つけると、瞬時にかけだした。
「パフェ、これ借りるよ!」
落ちていたソレを手にしたら、マフィンに覆いかぶさっている前田さんの背後に回り込む。
幸い、前田さんの意識は完全にマフィンに向いていて、私に気付いていない。その無防備な後頭部目がけて、さっき拾ったソレを……フライパンを一気に振り上げた。
「私の友達をイジメるなーっ!」
振り下ろした瞬間、カーンという甲高い音が、部屋中に響いた。
「がっ⁉」
小さく声を漏らしたかと思うと、さっき吉井さんがやられた時と同じように、前田さんはズルリと倒れこんだ。もちろん、首を絞めていた手も放されて、そのまま力なく、マフィンの上に横たわる。や、やっつけられたのかな?
と、思ったのも束の間!
「こ、このガキ」
だ、ダメだ―。まだノックアウトできてない!
前田さんは怨めしげな声を上げながら、起き上がろうと手に力を込めている。
マズイマズイマズイ! だけどその時、下敷きになっていたマフィンが叫んだ。
「アミ、もう一発だ!」
う、うん。えーい! ―—カーン!
「ぐおっ⁉」
鈍い声を上げて、再び倒れ込む前田さん。こ、今度こそやっつけられた?
また起き上がってこないか心配だったけど、どうやら完全に伸びちゃっているようで、ピクリとも動かない。するとそんな前田さんの下敷きになっていたマフィンが、のそのそとはい出てきた。
「何とか、やっつけられたみたいだね。ありがとうアミ、助かったよ」
やっぱり疲れ切っているみたいで、声に元気は無かったけど、それでもこうして無事でいる。良かった、本当に良かったよー。
マフィンの無事な姿を見ていると、つい抱きしめたくなっちゃう。あ、だけどその前に。
「ね、ねえ。マフィン、それとパフェに、聞かなきゃいけない事があるんだけど」
「何だい?」
『なになに?』
様子を見守っていたパフェもトコトコやってきて、『何が聞きたいの?』って首を傾げてるけど、さっきからずっと気になってるんだから。
「何がって、全部だよ! なんでパフェがここにいるの? それに、さっきの女の子は何⁉ どういうことか、そろそろ説明してくれないかなあ?」
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