謎の助っ人現る⁉
再び家の中に連れて行かれて、捕まっていた二階の部屋へと逆戻り。さっきまでと違うのは、一緒にいるのがマフィンや晴ちゃんじゃなくて、憎き誘拐犯だってこと。
私は部屋のすみに追いやられ、前田さん達は中央に集まって、これからどうするかを話し合っている。
「どうします。俺達、きっともう身元もバレていますよ。ああ、もう終わりだー」
「情けないこと言ってんじゃねー。ヤバいことになるかもしれないってのは、誘拐を計画した時から分かってただろうが。最後まで諦めるな!」
前田さんが漫画の主人公みたいなこと言ってるけど、あなた悪役だから! 子供を誘拐する、悪い大人なんだから! 素直にあきらめてくれたら助かるのにー!
「まったく。途中までは上手く行ってたのに、こんなことになるなんて。コイツが来てから、色んな事がくるい出したんだ!」
いらだった様子で、ガンと壁をける幸田さん。そ、そんなこと言われてもー。
「おい、間違ってもそいつに当たるなよ。大事な人質なんだ、勢い余って殴り殺したりするんじゃねーぞ。吉井も、くれぐれも気を付けろ」
前田さんはそう言ってくれたけど、全っ然安心できない。今はいいけど、もしもお巡りさんが中に入ってきたら、さっきみたいにナイフを突きつけられるのかなあ?
冷たい感触が思い出されて、ガクガクと震えちゃう。ど、どうしよう。やっぱりすきを見て、逃げ出した方がいいのかなあ。
『アミ、落ち着いて。奴らは追い詰められていて、何をするかわからない。早まった真似はしちゃダメだ』
そんな事言われても、でもこのままジッとしているのも、怖いんだけどなあ。って、あれ? この声は……ああーっ、マフィン!
いつの間に来ていたのか。視線を下げるとそこにはマフィンがいて、そっと足にすり寄ってくる……。いや違う。すり寄って来たんじゃなくて、フラフラで立っていられないんだ。
無理もないよね。幸田さんに何度も殴られて、さっきは猫の姿のまま、地面に叩きつけられたんだもん。体中にある、真新しい傷が痛々しい。
「マフィン、大丈夫……じゃないよね。もう、こんなにボロボロなのに、どうして来たの? 早く晴ちゃんの所に行って、手当てしてもらわないと」
『嫌だ。ボクがいないと、アミはすぐ無茶をするじゃないか。今だって、考えなしに逃げ出そうとしてたんじゃないの?』
「ち、違うよ。ちゃんとすきを見て逃げようって、思ってたもん」
『アミにできるとは、思えないんだけど。逃げ出しても、すぐに捕まりそうな気がする』
そんなことないよー。だけどマフィンってば全然信じてないみたいで、ジトッとした目をしてくる。失礼しちゃうよ。
『とにかく、さっきまでとは状況が違うんだ。警察が来た以上、奴らは人質である君を、考えなしに傷つけられなくなった。すぐに逃げようとするんじゃなくて、時間をかけてでもいいから、身の安全を一番に考えるんだ』
「で、でも、本当に大丈夫かなあ。おじさん達かなり怒ってるし、八つ当たりで、ナイフで刺してきたりしない?」
『たぶん大丈夫。冷静でいてくれたら、バカな真似はしないと思う。それにいざとなったら、ボクが必ず守るから』
私をジッと見上げながら、力強い声で言ってくるマフィン。姿は猫なのに、たくましく思えちゃうから不思議。
でも頼ってばかりじゃダメ。だってマフィンはケガ人、もといケガ猫なんだもん。
「ありがとねマフィン。だけどやっぱり、手当てしてもらってきてよ。私の事は心配しないで。自分の事は、自分で何とかするから」
『ダメ。アミ一人にするなんて、心配すぎてかえって体に悪いよ。君は止めるのも聞かずに木に登って、落ちちゃうようなヤンチャな子だからねえ』
「今それを言う⁉」
人の黒歴史を掘り返さなくてもいいじゃない。こんな状況だけど、腹が立ってきたよ。
「いいから、マフィンはさっさと外に行く!」
『嫌だ、ここに残る。君を放ってはおけないよ』
「だから大人しくしてるってば。だいたいマフィンだって、人のこと言えるの? ケガしてるのにこんな所にのこのこ来ちゃう方が、よっぽど無茶――」
「うるせえ! さっきから何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
あわわ、ご、ごめんなさい。
ギャーギャーとさわぐ私達の声を、幸田さんの怒声がかき消した。もう、マフィンが言うことを聞いてくれないから、怒られちゃったじゃない!
『……アミがさわぐから』
マフィンめ。私にしか声が聞こえないのをいいことに、ぼそっと呟いちゃって。もう、さっきは格好良いって思ったけど、取り消すからね。
だけど、どうやらそんなのんきな事を言っている場合じゃないみたい。
「おい、そいつはさっき外で、幸田を引っかいてきた猫だよな。アンタの飼い猫か?」
細めた目を向けてくる前田さん。いけない、マフィンの事がバレちゃった! だから早く逃げてって言ったのに―!
「ち、違います。飼い猫じゃなくて、友達というか……」
「友達だあ? とにかく、ウロチョロされると目障りだ。廊下の窓には、板は打ち付けられていなかったな。吉井、そこからコイツを、外に放り投げろ」
「ええっ⁉」
待ってよ。そんな事をしたら死んじゃうじゃない!
マズイマズイマズイ! 急いでマフィンの前に立つと、守るように両手を広げた。
「止めて。マフィンは大事な友達なの。ジャマなら今すぐ外に出してくるから、ちょっと待ってて……」
「バカにするな! そうやって自分も逃げる気だろ!」
「え? ああ、その手があった! で、でも本当に逃げる気なんて無いですから。この子を、逃がしてくるだけなんです!」
マフィンを逃がしたら、ちゃんと戻って来るから。なのに前田さんは、話を聞いてくれない。吉井さんは少しためらったようだったけど、ため息をつきながらこっちに近づいてくる。
「猫の始末かあ。まあ、女の子を手にかけるよりはマシか。ニャンコ、悪く思うなよ」
「ダメ―! マフィンをイジメないで―!」
考えるよりも先に、手を伸ばしてマフィンを抱え上げた。
『わっ、放すんだアミ……』
手の中でジタバタと暴れるマフィンだったけど、絶対にヤダ!
「おじさん達、マフィンに何かあったら許さないから! これ以上乱暴したら私、舌噛んで死んでやるからね! そしたら人質がいなくなって、お巡りさんに捕まっちゃうよ。それでもいいの⁉」
『は? ちょっとアミ⁉』
目を見開いてこっちを見るマフィンを、さらに強く抱きしめる。ビックリしてるのはマフィンだけじゃない。前田さん達も、ギョッとして動きを止めている。
「お前、下手な脅しをするんじゃ……」
「どうせデマカセ言ってるって思ってるんでしょ。でも、本気だからね! いざとなったら舌噛むし、外に聞こえるくらいの大声を出して、お巡りさんに来てもらう事だってできるんだから!」
「止めろ。たかが猫一匹のためにそんな……」
「たかがって何さ⁉ おじさん達は猫なんてって思ってるかもしれないけど、ピンチになったら無茶だってするし、助けたいって必死にもなるよ! だいたい、小さな命でも大事にしなさいって、学校で習わなかったの? 大人のくせに、どうして分からないかなあ⁉」
「いいから、少し黙れ……」
「イーヤーだー! マフィンに意地悪しないって約束してくれないなら、いつまでも叫び続けるんだから! おー、まー、わー、りー、さーん! マフィンを助けてー!」
ひたすらに叫び続ける私に、前田さん達はどうすればいいか分からない様子。そしてマフィンは手から抜け出そうと、さっきからジタバタと暴れている。
『コラ、バカなこと言ってないで放すんだ!』
「ヤダ! だって放したら、また無茶しちゃうでしょ! そんなのダメだってば!」
『アミにだけは言われたくないよ! ボクは平気だから、今は大人しく奴らの言う通りにするんだ。お願いだから言うことを聞いて。わがままなアミなんて嫌いだ!』
「嫌いで結構! マフィンを見捨てるよりはマシだもん!」
さっき以上の大声で、言い争う私達。だけどマフィンの言葉が分からない前田さん達は、ポカンとした顔でその様子を見ている。
「コイツさっきから、何と喋ってるんでしょうね?」
「たぶん、その猫となんだろうな。怖くて頭がイカれちまったか? もういい、取り押さえろ。たしか一階にヒモがあったな。吉井、これ以上暴れないよう、コイツをしばっておけ」
「分かりました。ちょっくら取ってきます」
指示を受けた吉井さんが、ドアノブに手を掛ける。
マズイマズイマズイ! 縛られちゃったら、マフィンを守ることができなくなっちゃう。
だけど止める事なんて出来なくて、無常にもドアは開かれる。けどその時!
「がっ⁉」
ドアが開いた途端、吉井さんが変な声を上げた。そして力なくふらついたかと思うと、そのままドサッと床に倒れ込んじゃった。え、いったい何が起きたの⁉
「おい、どうしたんだ?」
突然の出来事に、驚く前田さんと幸田さん。私やマフィンも何が起きたかわからなくて、ケンカしてた事も忘れて顔を見合わせる。そして、倒れた吉井さんの先、ドアの向こうから姿を現したのは……。
「そこまでだよ! アミちゃんとマフィンくんをイジメたら、アタシが許さないんだから!」
……へ?
突然啖呵を切って入ってきたその子の姿に、その場にいた全員の目が点になった。だって入ってきたのは私と同い年くらいの、フリフリの洋服を着た可愛い女の子だったんだもの。
眉をつり上げて、可愛いけど怒った顔をしている女の子。スカートをひるがえしながら、吉井さんをノックアウトしたであろうフライパンを、両手で構えていた。
ええと、助けてくれたみたいだし、とっても頼もしいんだけど、ひとつ言っても良いかな? あなた、いったい誰なの⁉
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