晴ちゃん探して、捜査開始
晴ちゃんが誘拐された。その詳しい経緯を聞いてみると、パフェはこう答えてくれた。
――さっきまで、学校から帰ってきたハルちゃんとお散歩してたの。
――だけど河川敷を歩いていたら、急に車が近づいてきて、中から出てきた男の人が、ハルちゃんを車に押し込もうとしたんだよ。
――ハルちゃん、「助けて」って叫んだんだけど、周りには誰もいなくて。ワタシ、噛みつこうとしたんだけど、振り払われちゃった。
――そしたらハルちゃんが、「大人しくするから、パフェには乱暴しないで」って言ってくれたの。本当は、すっごく怖かったんだと思う。車に連れ込まれた時、泣きそうな顔してたもん。そしてそのまま、車でどこかに連れて行かれて。アタシ何もできなかったよー!
話を聞いて、私とマフィンは顔を見合わせる。誘拐って、パフェの勘違いって事は無いかなあ? でも話を聞く限りでは本当っぽいし、そういえば前に、隣町の子が怪しい男に声をかけられたって、先生が言ってたっけ。それじゃあ、本当に?
「そ、それで、どうなったの? やっぱり、お金を用意しろって、言われたの?」
「アミ、落ち着いて。ねえ、ハルは抵抗する間もなく、車に押し込まれたんだよね。だとしたらやけに手際が良い。パフェ、車のナンバープレートは覚えてる?」
おお、マフィンが探偵っぽいこと言ってる。だけどパフェはしょんぼりと首を横に振った。
『ごめん、見てないや。青くて大きな車だったのは、覚えているんだけど」
「そっか。いきなりだったんだもの、仕方がないよ」
『アタシ、走って車を追いかけたんだけど、見失っちゃって。その後すぐ、ここに来たの。頼れるのは、アミちゃんやマフィンくんしかいなかったから』
「そうだったんだ。それじゃあ土方くんや、おじさんおばさんにはまだ言って……って、言えるわけないか」
マフィンと違ってパフェは喋れないんだから、話せるはず無いよね。だから自分の家じゃなくて、言葉の通じる私達の所に相談しに来たんだ。だけど力にはなりたいけど、どうすればいいの? ええと、まずはこの事を、土方君に話した方がいいかな?
「とりあえずこのことは誰かに話さずに、まずボク達だけで色々調べた方が良さそうだね」
へ? 私が思ったのと、真逆のことを言うマフィン。でも、なんで?
「どうして? 土方くんに相談してみようよ。晴ちゃんの一大事なんだもん」
「言いたい事は分かるよ。だけどもし、どうしてボク達が誘拐の事を知っているのって聞かれたら、どう答えるの? パフェから聞いたって、正直に話すつもり?」
ううっ。その辺のことは、全く考えていなかった。
「ボクが言うのもおかしな話だけど、犬から聞いたなんて言っても、信じてもらえないだろうからね。嘘をついてごまかすこともできるけど、ヘタなこと言って変に思われても面倒だ。ここは何も知らないフリをしながら、ボク達のやり方で調べていった方がいいと思う」
「そうかもしれないけど。だけど晴ちゃんが何の連絡も無しにいなくなったら、土方くんはきっと心配しちゃうよ」
「いや、もしもこれがアミの言うように身代金目的の誘拐なら、連絡はあると思う。だってお金を要求しなきゃいけないもの。まあそれはそれで、心配だろうけどさ」
なるほど、それじゃあこうしている間にも、土方くんの家には犯人から、電話がかかってきてるかもしれないって事だね。
土方君の家に目を向けてみたけど、当然中の様子なんて分からない。
「パフェには一度家に帰ってもらって、犯人から連絡がないか見張ってて。それでもし何かあったら、ボクに知らせるんだ。相手の出方を知っておいた方が、こっちも動き易いからね」
「動き易いって、何かするつもりなの?」
晴ちゃんの事はもちろん心配。でもこれは誘拐事件、犯罪なんだよ。子供の私達に出来ることなんて、あるとは思えないけど。まずは警察に連絡した方が、いいんじゃないかなあ?
「誘拐現場を直接見たわけじゃないボク達じゃ、警察に言ったところで信じてもらえるかどうか。けどハルが帰ってこなかったら、きっとスイ達が事件に気付いて連絡してくれると思う。だからそっちは任せて、ボク達はボク達のやり方で、犯人を追おうと思う」
「そうかなあ。けど、どうやって追うの?」
「情報収集なら任せておいてよ。犯人が青い大きな車に乗って逃げたって分かっているなら、探しようがある。ボクのニャットワークを使えばね」
ほえ? ニャ、ニャットワーク? ネットワークじゃなくて?
「ニャットワークっていうのは、猫を使った情報網の事だよ。猫は町中にいるんだ。みんな毎日色んなモノを見ていて、たくさんの事を知っている。有力情報をつかめたら、それから警察に連絡するよ」
ほえー、そんなことができるのかー。それじゃあ上手くいけば、晴ちゃんがどこにいるか分かるんだね。ニャットワークって凄いや。
「鈴を探した時も使ってたんだけど、その時はイマイチ効果が得られなかった。けど、今度は必ず見つけ出す。だから、ここはボクに任せて」
そう言ったかと思うと、マフィンの体がポウっと光に包まれて、それが消えた時には猫の姿に戻っていた。
『というわけで、ボクはこれから情報収集に行ってくる。パフェも家に帰って、何かあったら連絡して』
『うん、分かった。ありがとうマフィンくん』
「パフェ、晴ちゃんはきっと無事だから、安心してね。それで、私は何をすればいいの?」
晴ちゃんは私にとっても妹みたいなものなんだから、助けるためなら何だってやるよ。だけど意気込む私とは逆に、マフィンは難しい顔をする。
『あー、そうだねえ。それじゃあアミは余計なことはしないで、おやつでも食べておいて』
「何ですと⁉」
こんな時にのんきに、おやつなんて食べてられない。私も、晴ちゃんを助けたいよ!
「わ、私だって何かできるもん!」
『気持ちは分かるけど、出来ることはないよ。それに君の場合、何かと無茶をしそうだからねえ』
「そ、そんなこと……」
無いと言い切れない。ひとたび何かに夢中になると、無茶をする自覚くらいあるもの。
それに猫を使っての情報収集だって、私よりもマフィンの方が向いてるのも確か。話ができるっていっても、やっぱり猫同士の方がコミュニケーションは取り易いだろうし。
「わかった。けど、その代り出来ることがあったら、何でも言ってね。あと、何かわかったら私にも教えてよ」
『了解。それじゃあ、行動開始だ。行くよ、パフェ』
『うん。ゴメンねアミちゃん』
マフィンもパフェも急いで去って行って、庭には私だけが残される。
それにしても誘拐なんて、まだ実感がわかないや。晴ちゃんは今どこで、何をしているんだろう? 土方くんはもうこの事を、知っているのかなあ?
考えれば考えるほど、不安が広がっていく。マフィン、パフェ、一秒でも早く、晴ちゃんを見つけてあげてね。
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