猫の王子様と誘拐事件!?

かけ込んできたパフェ

 マフィンが転校してきてから、今日でもう一週間。最初は、猫が人間に変身して学校に通って大丈夫なのって心配してたけど、意外とすんなりクラスにとけ込んじゃってる。

 相変わらず女子人気は高いし、昼休みには土方くんと度々バスケもしている。もしかして恩返しなんて忘れて、普通に学校を楽しんでいるのかも。ただ今日はちょっとやってもらいたいことがあって、学校が終わった後、マフィンには家に来てもらっていた。

「うわー、モフモフー、いやされるー」

『それはどうも。頼みがあるなんて言うから何かと思ったら、こういう事だったんだね』

 現在マフィンは学校にいる時とは違って、本来の猫の姿に戻ってもらっている。そして私はリビングにあるソファーに腰掛けながら、そんなマフィンの頭をなでていた。

「ありがとね。最近はすっかり男の子の姿が当たり前みたいになっちゃってるけど、たまには可愛い姿を見て、いやされたいよ」

『それは良いけどさ。前にも言ったけど、ボクは可愛いじゃなくて格好良い、だからね』

 そういえば、そんな事言ってたっけ。どう見ても『可愛い』の方が似合ってる気がするけど、マフィンなりのこだわりがあるのかな?

『ねえ、もしかして君は、人間の姿をしたボクの事は、あんまり好きじゃなかったりする?』

「え? ううん、そんなこと無いよ」

 慌ててブンブンと首を横にふると、マフィンはスルリと手から抜け出して、向かい合ってこっちを見る。

『本当に? 前から思ってたけど、猫の姿と人間の姿とでは、態度が違う気がするんだよね。どっちも同じボクなのに』

「だから気のせいだってば。そんなションボリした顔しないでよー」

 そうは言ったものの、どうだろう? 猫の姿のマフィンは一目惚れしちゃうくらい可愛くて、すきあればつい、モフりたいって思っちゃう。

 対して人間の姿をしている時は、確かに可愛いと言うより格好良い。一緒にいると、ちょっぴりドキドキすることもあるんだよね。なのにマフィンってばその事を分かっていないのか、たまに猫の時と同じ調子で接してくることがある。例えば。

『本当に? 態度が変わらないのなら、こんなことしても良いはずだよね』

「えっ? ちょっ、ちょっと!」

 慌てる私をよそに、ポンッと変身するマフィン。

 目の前に現れたのは、焦げ茶色の髪に、緑色の目をした男の子。そしてその姿のまま、ソファーの隣に座って、猫の時と同じようにすり寄ってきた。

 ふぎゃああああっ!

そう、これだよ! 学校でもこんな感じでスキンシップをしてくるもんだから、ドキドキするし周りからはビックリされるしで、気が気じゃないよ。だけどマフィンは、本当に分かって無いみたいで、不思議そうに首をかしげてる。

「ほら、やっぱりさっきとは違う」

「ゴメン、だけどお願いわかって。猫の時にモフるのと人間の時にモフるのとでは違うの!」

「ボクとしては、どうせモフるならこの姿の方が、くすぐったくなくて良いんだけどなあ」

 そんなこと言われても、無理なものは無理! 人間と猫とでは、感覚が違うんだって!

まあ人間に変身できるって知っててなお、猫の姿のマフィンを触りたがってる私も私なんだけどね。あ、もちろんさすがに、激しいモフモフはもうやらないよ。

「それはそうと、モフる以外に何か、してほしい事って無いの? 恩返しに来たのに、何だか毎日、まったり過ごしてるだけのような気がするんだけど」

「ああ、恩返しを忘れてたわけじゃなかったんだ。けど、そう言われてもねえ。モフモフされるのは、恩返しにはならないの?」

 私としては、すっごくいやされているんだけどなあ。だけどマフィンはそれじゃあ不満みたいで、「こんなの恩返しに入らない」なんて言っちゃってる。けど、本当に特にお願いしたいことなんて無いんだよね。

「別に、無理に恩返ししなくても良いんじゃないの。それとも、早く済ませてサヨナラしたい? 学校は、楽しくないかな?」

「いや、それは無い。ごめん、あまりに進展が無いから、ちょっと焦ってた」

「気にしなくていいよ。それに放っておいたって、頼み事なんてそのうち何か……」

見つかる。そう言いかけたその時。

『アミちゃんアミちゃーん!』

 おや、これはパフェの声? ソファーから立ち上がってサッシを開けてみると、そこには思った通り、フリフリのお洋服を着たパフェが来ていた。ああ、このパターンは。

 パフェがこんな感じでやって来るのは、大抵誰かのお悩み相談を持ってきた時。マフィンの時もそうだったけど、パフェってばいつもどこからか、悩める動物達を連れて来るんだよね。さあ、今日はいったい、どんな相談を持ってきたのかな?

「どうしたのパフェ。また誰かの悩み相談?」

『違うのー! ううん、違わないんだけど、アミちゃん、それにマフィンくんもお願い。手を貸して!』

「お願い? 詳しく話を聞こうか」

 頭の上の耳をピョコンと立てながら、お庭に出るマフィン。だけどパフェは、本当にひどく焦っていて。力一杯の声で叫んだ。

『ハルちゃんが……ハルちゃんが誘拐されちゃったの!』

「へ? ゆ、誘拐⁉」

 誘拐って、悪い人に拐われちゃう、あの誘拐? ドラマなんかで見る、「返してほしければ一千万円用意しろ」って身代金を要求されちゃう、誘拐? ハルちゃんが⁉

「えっ……ええっ⁉ パフェ、それ本当なの⁉」

『うん。だから晴ちゃんを助けるために、力を貸して!』

 今にも泣きそうな声で、お願いしてくるパフェ。私もマフィンも息を呑みながら、そんなパフェをじっと見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る