マフィンと土方くんと晴ちゃんと
放課後になって歩いているのは、いつもと同じ帰り道。だけどいつもと少し違うのは、すぐ右横にはマフィンがいて、さらに左隣には土方くんがいるってこと。
放課後になって、中断していた学校案内を終えた後、待っててくれていた土方くんと一緒に帰ろうとしたら、マフィンもそのままくっついて来たんだよね。
「どうして猫井がついて来てるの? いくら五条が案内を頼まれたからって、学校の外まで一緒にいること無いんじゃないかなあ?」
「ボクも帰る方向が同じなんだ。せっかくだから、一緒に帰ろうかと思ったんだけど、ダメだった?」
「別に、そういう事ならいいけど。君の家って、どの辺なの?」
「うーん、ナイショ」
マフィンはイタズラっぽく笑ったけど、そういえばどこに住んでいるんだろう? 王子様ってことは、猫の国なんてものがあるのかなあ? よし、土方くんが前を見てるすきに。
「ねえねえマフィン、本当のところ、家はどうしてるの?」
「今は野宿をしてる。雨風をしのげれば、何とでもなるしね」
は? 野宿ですと⁉ コッソリ聞いたのに、ビックリして声を上げそうになっちゃった。
野宿ができるなんて、さすが猫。私ならきっと、一日で根をあげちゃってるよ。
「マフィン、苦労してるんだね。お風呂やご飯はどうしてるの? 寂しくない?」
「心配しなくても大丈夫。けっこう快適にやってるよ」
本当かなあ。夜の暗い中、ドラ〇もんの空き地にあるような土管の中で過ごしているんじゃ? 今度晩ゴハンを、お裾分けしてあげようかなあ。
だけどコソコソ話していたら、前を歩いていた土方くんが、ジトッとした目をして振り向いてきた。
「また二人でベタベタしてる」
「ごめんごめん。けど安心して。君が何を警戒しているかは分かるけど、心配する事無いよ。アミとは、そういうんじゃないから」
「本当に?」
「ああ、オスに二言は無いよ」
あれ、何の話? 急に分からない事を話し始めたけど、聞くタイミングを逃しちゃった。うーん、真剣な顔して話してたからちょっと気になるけど。ん、あれは?
「ねえ、あそこにいるの、晴ちゃんとパフェじゃないの? おーい!」
話ながら歩いている間に、いつの間にか河原のそばまでやってきてたけど、ここはパフェの散歩コースだったっけ。土手沿いの道の先には、お散歩用のフリフリなお洋服を着たパフェがお座りしていて、晴ちゃんはリードを持ったまま、知らない男の人と話しをしていた。
「あ、亜美お姉ちゃんに彗兄!」
『みんなおかえりー!』
こっちに気付いて、手をふり返してくる晴ちゃんと、シッポをふってくるパフェ。するとそばにいた男の人はぺこりと会釈して、そのまま歩いて行っちゃった。
「晴、今の人は?」
「郵便局の場所を聞かれたから、教えてたの。えへへ、可愛い服お洋服を着てるねってほめられちゃった」
あー確かに。晴ちゃんの着ている青いお洋服、私が普段着ている服の倍くらいの値段がするだけあって、とっても可愛いもんね。
土方君と晴ちゃんの家、お金持ちだから。こんな服が着れるなんて、ちょっと羨ましいや。
「それより彗兄、そっちの人は?」
興味津々といった様子でマフィンを見る晴ちゃん。それに対してマフィンは、お得意のニャンコスマイルを作る。
「初めまして。今日からアミのクラスに転校してきた、マフィンって言うんだ。君は、スイの妹さん?」
「はい、土方晴って言います。そっか、お兄さんがうわさの、転校生さんなんだ。彗兄のライバルの」
「ライバル?」
「うん。六年生にハーフの転校生がやってきて、亜美お姉ちゃんと仲が良いって、うちのクラスでも話題になってるもん」
「こら晴!」
慌てたように声を上げる土方くん。マフィンのうわさは、もう四年生にまで広まっているのかあ。ライバルっていうのは、バスケの事かな。昼休み、二人接戦だったからねえ。
『アミちゃん、何か勘違いしてる気がする』
「何を? あ、そうそうパフェ。マフィンを見て、ビックリしたでしょう。マフィンってば探してた鈴があったら、人間に変身することができるんだって」
土方くん達には聞こえないよう、お座りをしているパフェに話しかける。猫のはずのマフィンが、男の子になって現れたんだもの。パフェだってビックリするはず……。
『ははは、何言ってるの。王族の猫が人間に変身できるなんて、そんなの常識じゃない』
ほえ? 思ってた反応と違う。常識だったんだ。私は初耳だったんだけどなあ。
「へえ、この子がパフェかあ。近所に可愛くてお利口な犬がいるって、アミから聞いてるよ。よろしくね、パフェ」
驚く私をよそに、初対面を装うマフィン。パフェも合わせるように、気持ちよさそうに頭をなでてもらっている。
「なるほど、確かに行儀が良いし、毛並みもキレイだね」
「まあね。シャンプーやブラッシングは毎日欠かさないし、しつけもしっかりやってるつもりだよ」
「みたいだね。でもたまにうちを抜け出して、アミの家におじゃましてるって言ってたっけ」
「その癖だけは、いつまで経っても直らないんだよね。って、やけに詳しいけど、五条にどれだけ聞いてるの?」
犬談議で盛り上がっちゃって。なかなか打ち解けられなかった二人だけど、愛犬の話になると土方くんも楽しそうに喋ってきて、いい雰囲気。そしてそんな二人を見ていると、晴ちゃんがそっと私の所に寄ってきて、ニマニマと笑顔を作ってくる。
「ねえねえ。お姉ちゃんはぶっちゃけ、どっちが好きなの?」
「どっちって、何の話? 犬派か猫派かって話なら、どっちも好きだけど」
「もう、どうしてそうなっちゃうのさ? あーあ、これじゃあどっちも、脈なさそう。私はやっぱり、彗兄を応援してあげたいけど、一番大事なのはお姉ちゃんの気持ちだしねえ」
本当に何の話だろう? マフィンも苦笑いしてるし。あわわ、土方くん、何でそんなにジトッとした目で見てくるの⁉
「彗兄、大変そうだけど、がんばって」
結局謎は解けずに、土方くんの肩をポンと叩く晴ちゃんの姿が、やけに印象に残った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます