猫の王子様の学校生活
猫の耳した転校生
「亜美、大丈夫? 何だかぐったりしているみたいだけど」
「土方くんおはよう。昨日、キャパオーバーな事がありすぎて、眠れなかったんだよ」
「そう? よく分からないけど、きついなら保健室に行きなよ」
そんな会話をしたのが、今朝の登校時。今は朝の会が始まるまでの間、机にうつ伏せになって休んでいた。ふあー、眠い。
昨日はマフィンが人間に変身しただけでもビックリだったけど、その後モフってきたもんだからさらにビックリ。でもね、私は人間の姿じゃなくて、フワフワでフサフサの猫をモフりたかったの。たぶんマフィンにしてみたら、どっちも同じだって思ってるんだろうけど、男の子にくっつかれるのは、すっごく恥ずかしかったよ。
しかもあの時のマフィンは、格好良かったし。あの後私は気絶しちゃったけど、気がついたら家のリビングで寝ていたっけ。マフィンが運んでくれたんだろうけど、その姿はもうどこにもなかった。鈴が見つかったから、どこかに行っちゃったのかなあ? だとしたら、ちょっと寂しい。サヨナラのアイサツくらい、したかったのに。
そうだ、もしかしたらパフェなら、何か知っているかも。学校が終わったら、土方くんの家に行って聞いてみよう。
そこまで考えたらチャイムが鳴って、先生が入ってきた。教壇に立ったのは、担任の萩野先生。髪の長い二十代の女の先生で、教室内を見回してから、挨拶とある注意をしてくる。
「昨日隣の学校の子が、怪しい男の人に声をかけられました。その前は別の学校の子が、車に押し込められそうになっています。最近そういったぶっそうな事件が起きていますけど、みんなの中にはそんな経験をした人はいませんよね?」
教室が少しだけざわついて、私も隣の席の子と顔を見合わせる。それって、誘拐されそうになったって事? 昨日まで放課後は鈴探しをしていたけど、近くにそんな危ない人がいたかもしれないって思うと、ゾッとしちゃう。
「みなさん、知らない人に声をかけられても、ついて行ったりしちゃダメですよ」
「分かってるよ先生―!」
「一年生じゃあるまいし、そんなマヌケな奴いないでしょ」
のん気な声で返事をする男子たち。まあこんな風に注意されたのに、ホイホイついて行く子なんていないよね。
「そうね。先生も大丈夫だと思うけど、気を付けてはおいてね。さて、それはそうと、もう一つお知らせがあります。今日からこのクラスに、新しい友達が増えます」
それって、転校生が来るってこと? 予想外の言葉に、教室内はさっき以上にざわつく。
もう五月も後半なのに、珍しいなあ。いったいどんな子なんだろう。男子? 女子?
みんながワクワクして待つ中、教室のドアが開かれてその子が入ってくると、途端に歓声が上がった。主に女子の。
「あの子、男子だよね? あんなキレイな男の子、初めて見た!」
「髪染めてる? ううん、目の色が違うし、ハーフかな? カッコいいー!」
みんながみんな、転校生に注目してキャーキャー言いながらさわいでる。だけどそんな中私は、ポカンと口を開けて固まっちゃった。
ハーフ、かあ。焦げ茶色の髪に緑色の目を見ると、確かにそう思うかも。だけどね、みんなもっと大事な物を見落としてないかな? 頭の上にピョコンと生えた、あの猫耳を!
「マ、マフィン⁉」
机にバンと手をついて、思わず立ち上がった。そこにいたのは昨日見た、人間の姿になったマフィン。何でこんな所にいるの⁉
他人の空似? ううん、猫の耳だってあるし、それに首飾りみたいにヒモを通して胸元にぶら下げているのは、昨日見つけた鈴。間違いないよ!
だけどここで、私はやらかしちゃったことに気がついた。
「あら五条さん、知り合いなの?」
不思議そうにたずねてくる、萩野先生。さっきまでマフィンに向けられていた視線が、今度は私に向けられる。あわわ、いけない。つい大声出しちゃった。
「ええと、はい。ちょっと……」
何て答えたら良いのやら。だけどそんな困っている私を見て、マフィンはニッコリと笑いかけてきた。
「やあアミ、昨日はどうも。あれから、大丈夫だった?」
「う、うん。おかげさまで」
「それは良かった。おっと、話したいことはあるけど、その前にちゃんと自己紹介をしなくちゃだね」
チョークを手にして、黒板と向き合うマフィン。そこに書かれたのは。
「『猫井ニャンダフル=マフィン』です。どうかよろしくお願いします」
ぶはっ!
微笑みながら挨拶をするマフィンだったけど、私は吹き出しそうになった。
何その名前⁉ 『猫』って入ってるし、『ニャンダフル』なんて冗談みたいな名前だし。もし飲み物を飲んでたら、確実にむせてたよ!
だけどどうやら変だって思ったのは、私だけみたい。ヘンテコな名前にも関わらず、みんなは「やっぱりハーフなのかな」、「さすが、珍しい名前だね」なんて言って、受け入れちゃってる。あれー、もしかして私がおかしいのかなあ?
「はいはい、みんな静かに。そうだ五条さん、知り合いならちょうど良いわ。猫井くんに、学校の中を案内してくれないかな?」
「え? わ、私がですか?」
チラッとマフィンに目を向けると、目で「よろしく」って訴えてくる。聞きたいこともたくさんあるし、丁度いいか。
「わかりました。昼休みにでも、案内しますね」
「ありがとう。それじゃあ猫井くんは、そこの後ろの席に座ってね」
教室の奥の席に通されるマフィン。私は周りから、「どういう関係なの?」って聞かれたけど、何て話せばいいか。そもそもどうして、どうやって転校してきたの?
頭の中が疑問でいっぱいになったまま、朝の会は終了した。
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