大発見! だけど大ピンチ⁉

「うーん、見つからないなあ」

『ボクの方もダメだ。いったいどこにあるんだろう?』

 学校が終わって放課後。私達は町外れにある雑木林で、地面をはいながら鈴を探していた。

 鈴探しを始めてから、今日でもう一週間。私が学校から帰った頃には、マフィンがうちの庭で待っていて、二人して鈴を探しに行くのが、最近の定番になっちゃってる。

 けど、努力の甲斐なく、鈴は未だに見つかっていないんだよね。

 最初は公園を中心に探していたけど、今では探すはんいを広げている。商店街だったり、河原だったり。

 だけど手掛かりすら見つからなくて、今日もマフィンを自転車のカゴに乗っけて、町外れまでやってきたけど、結果は相変わらず。それどころか。

『おいおい、見ろよあれ。人間と猫が、何かやっているぞ』

『本当だ。地面をはいつくばってら』

 バカにするように笑っているのはこの雑木林に住むカラスたち。どうやらここのカラスはイジワルみたいで、木や草をかき分けて探す私達を見て笑っている。

 もう、こっちは真剣に探してるのに―。そしてそんなカラスたちの声を聞いて、マフィンは元気無さそうに、シュンと耳を垂らした。

『もう、見つからないのかも。ここは鈴の気配がしたような気がしたから、もしかしたらって思ったのに』

 あわわ、元気を出して。鈴の気配っていうのはよく分からないけど、諦めちゃダメ……あ、そうだ!

 ズボンのポケットから、薄いビニールで包装された煮干しを取り出して、袋を開けた。

「ちょっと一休みしようか。おやつを食べて、それからまたがんばろう。大切な物なら、ちゃんと探さないとね」

『そうだけど、もう一週間も探しているのに、見つかってないんだよ。アミは毎日付き合わされて、嫌じゃないの? 本当は友達とだって、遊びたいって思わない?』

 マフィンはそう言うけど、嫌だなんて思ったことは、一度だってないよ。

 それにマフィンだって友達なんだもん、放っておけないもん。

「私は全然平気だよ。えへへー、気遣ってくれるんだ。マフィンは優しいねー」

『そんなんじゃないって。コラ、頭をなでるな!』

「ごめんごめん。嬉しかったからつい」

 慌てて手を引っ込めたけど、すねちゃうマフィンも可愛い。ふふふ、ツンツンした態度をとることが多いけど、本当はとっても優しいんだって、この一週間でよく分かったよ。

 フワフワした毛並みをなでたいって思っても、めったに触らせてくれないマフィン。だけど探し疲れた時なんかはそっとすり寄ってきて、モフモフしてくれることもあったっけ。そういうツンデレな所が、いいんだよね。

『まったく、何度も言ってるでしょ。ボクは可愛いんじゃなくて、格好良いんだって』

「うんうん。そうだねー、マフィンは格好いいねえ」

『それ、絶対本気で言ってないでしょ。もう、アミなんて嫌いだ』

 ありゃりゃ。プイってそっぽ向かれちゃった。

 このやり取りも、もう何度目になるか分からない。だけど話している間に、マフィンは少しだけ、元気が出たみたい。おやつの煮干しを食べながら、疲れた体をいやしていく。

「そういえばさ、さっき鈴の気配を感じるって言ってたけど、アレって何なの? 特別な匂いがするとか?」

『違う、気配は気配だよ。近くにあると、何となく分かるっていうか、胸がざわざわするっていうか。そんな感覚、アミは無いの?』

「うーん、ゴメン。分かんないや。私が猫だったら、分かったのかもしれないけど」

『かもね。だけどおかしいなあ。今日ここに来た時から、微かに気配を感じているのに』

 気配ねえ。木に背中を預けながら、地面へと視線を落としてみたけど、やっぱり無い。

 ということは、マフィンの勘違い? それとも……。

『おいおい。あいつらまだいるよ。何か探しているみたいだけど、よくやるねえ』

『いったい何を探しているのか。まあ、知ってても教えてあげないけどな』

 相変わらず聞こえてくる、カラス達の意地の悪い声。動物の声が聞こえるのは良いけど、こういう時はさすがに、腹が立つよ。

 相手がカラスでも、バカにされるのは気持ち良くないからね……ん、ちょっと待って。

「あ、もしかしたら!」

 唐突にピコーンと、ある考えが浮かんだ。そうだ、どうして今まで考えなかったんだろう。

 もたれ掛かっていた木から離れて、カラスがいる上を見上げる。そして。

「おーい、カラスさーん! この辺でピカピカの、金色の鈴を見なかったー? この子の大切な物なのー!」

 探して見つからないなら、聞いてみたらいいじゃない。

 イジワルな事ばかり言っているカラス達だけど、ここに住んでいるんだもん。もしかしたら、何か知っているかもしれない。そしたらカラス達、カーカー鳴きながら何か話し始めた。

『鈴だってさ。お前知ってるか?』

『うーん。あ、ひょっとしてアレか? 何日か前に光る鈴を見つけて、巣に持ち帰ったんだ』

 おお、これは有力情報! カラスは光る物を集める習性があるから、それで拾っていったのかも。

『なんだ、アイツらが探してたのって、あの鈴だったのか。それならすぐ横の、あの木の巣の中にあるのに、ずっと地面を探してたのか』

『人間も猫もバカだねえ。まあ、せっかく見つけたお宝を、返す気なんてないけどな。そもそもあの女の子、俺たちの声なんて聞こえてもいないんだろうな。カッカッカ!』

 む、そんな言い方無いじゃない。

 バカにしたような笑い声に、思わずムッとしちゃう。それに大事な物だって言ってるのに、返してくれないだなんて。だけど……ふっふっふっ。おバカはどっちかな。

「なるほど、この木にあるんだね。教えてくれてありがとー!」

『え、なんで? もしかしてあの子、俺たちの言ってることが分かるのか?』

 そう、その通り。どうせ分からないと思っていたんだろうけど、ベラベラ喋ったのを、バッチリ聞いたんだから。よーし、あの木だねえ。

 目的の木の前にやってきて、上を見上げる。よし、これならなんとかなりそう。両手で低い所にある枝をつかんで、幹のくぼみに足をかけようとすると、とたんにマフィンが叫んだ。

『待ってアミ。もしかして、木に登るつもり?』

「当たり前じゃない。どこにあるか分かったんだから、早く取りに行かなくちゃ」

『そうだけど、なにもアミが行かなくても』

「平気平気。今日はスカートじゃなくて、ズボンはいてるから。木登りしたって大丈夫だよ」

 ここには私達以外には誰もいないけど、さすがにスカートで木登りはちょっとね。動きやすいように、ズボンをはいてきて正解だったよ。

『そうじゃなくて、落ちたらどうするの? 前にもう、危ないことはしないでって言ったのを忘れたの? 君はそうやって、すぐに無茶をするんだから』

「いいからいいから。これでも木登りは、得意なんだよ。じゃあ、行ってくるね」

『ああっ、ちょっと。話を聞いてってばー!』

 ずっと探していた鈴がそこにあるっていうのに、話してる時間がもったいないよ。マフィンはまだ何か言いたげだったけど、私はするすると木に登って行く。

 この木はデコボコしてるから登りやすくて、そしてついに、お目当ての巣にたどり着いた。

 ええと、鈴鈴……あ、あった!

「あったー! マフィン、鈴ってこれでしょー!」

『それだ、ボクの鈴だ! 本当にあったんだ!』

 鈴を右手で取ってかかげると、地上にいるマフィンが喜びの声を上げる。

 ふっふっふ。私にかかればこんなものだよ。さあ、後は下りるだけ。だけどその時。

『ドロボウ―! 俺の鈴かえせー!』

 下りようとした瞬間、さっきのカラスがこっちに突っ込んできた。

 ドロボウって、これは元々マフィンの鈴じゃない。それに、そんなに勢いよく来られちゃ……。

「きゃっ!」

『アミ⁉』

 カラスにつつかれた私は足をふみ外して、そのまま地面に向かって落ちていく。

 ちょっ、ちょっと待って! そんな、せっかく鈴を見つけたってのにー!

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