鈴を探して

 相談を受けて最初にやって来たのは、鈴を失くしたっていう公園。もう何度も探したって言ってたけど、やっぱりちゃんと調べておかないとね。ちなみにパフェは、もう少ししたらお散歩の時間だから、家に帰って行った。一緒に行きたがっていたけど、心配かけちゃいけないもんね。

 そういえば、今日のお散歩は誰と行くんだろう。土方くんか、それとも妹の……。

『アミ、手が止まってるよ』

「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」

 今は鈴探しに、集中集中。手分けして公園を見てまわって、滑り台のそばやベンチの下なんかを探してみたけれど、やっぱり簡単には見つからない。

「うーん、無いねえ。あ、そこにあるのは……なんだ、お菓子を包んでる銀紙を、丸めたやつか」

 きっと誰かが、チョコレートでも食べて捨てたんだろうね。ポイ捨てなんて、マナーが悪くて困っちゃうよ。とりあえずこれは、ゴミ箱に捨てておこう。

「そういえば聞くの忘れてたけど、鈴ってどんな色してるの? やっぱり、金色か銀色?」

『金色だよ。ピカピカで、色あせることの無い輝きを放ってる、キレイな鈴さ』

 なるほど。でもそんなにキレイな鈴なら、誰かが拾って、家に持って帰っちゃってるかも。

 それからさらに公園の中を一通り探してみたけど、全然見つからない。途中、遊んでいる低学年の子にも、鈴が落ちてなかったか聞いてみたけど、結果は空ぶり。そんな私のすぐ横を、マフィンがトコトコついてくる。

『やっぱりもう、ここには無いのかもしれないなあ』

 うーん、そうかも。気が付けばもう夕方だけど、全然見つからないや。仕方ない、とりあえず今日はもう遅いから、続きは明日にするしかなさそう。

 私達は並んで歩きながら、公園の出口へと向かって行く。

「明日はもっと、別の所を探そうか。大丈夫、二人で探せば、きっと見つかるから」

『だと良いけど……ん、アレは?』

 ほえ? 急に足を止めるマフィン。すると次の瞬間、緑の目を大きく見開いた。

『あった、鈴だ!』

 えっ? あ、本当だ! 視線の先には、確かに鈴があった。金色をした、小さな鈴が。

 すると、よっぽど嬉しかったのかな。マフィンは瞬く間にかけ出して行った。

「えっ、ちょっとマフィン⁉」

『鈴、ボクの鈴。とうとう見つけた!』

 ちょ、ちょっと待ってよ! 嬉しそうに声をはずませるマフィンだったけど、私は逆に血の気が引いた。だって、マフィンが向かった先は。

「待って。マフィン、止まって! そこ道路、車が来てるよ!」

『えっ?』

 そう、マフィンが飛び出して行った先にあったのは、車の行きかう道路。夢中になって周りが見えていなかったのか、今になってその事に気付いて、ピタッと固まっちゃった。

 でもそこは、すでに道路のど真ん中。そしてマフィンに向かって、一台の車が走ってきた。

「危ない!」

 考えるよりも先に、体が動いた。道路に飛び出して、固まっているマフィンを抱え上げると、ダイブするように前に向かってジャンプ! 腹ばいになって地面に倒れ込むと、そのすぐ後ろを、車がクラクションを鳴らしながら通り過ぎて行く。あ、危なかったー。

 まさに危機一髪。もしも助けるのがもう少し遅かったらと思うとゾッとしちゃう。今になって心臓がバクバク言ってくるし、着地した時に打ったヒザが、ジンジンと痛む。

 そしてビックリしたのは、マフィンも同じだったみたい。手の中から抜け出そうともしないで、緑の目を見開きながら、私を見上げてくる。

『あ、ありがとう。ゴメン、車が来てた事に、全然気付いていなかった』

「もう、気持ちは分かるけど、注意しなくちゃダメだよ。あ、そういえば」

『どうしたの?』

「ううん、何でもない。それより、鈴鈴!」

 いつまでも道路の真ん中にいるわけにはいかないよね。マフィンを地面に置いて立ち上がると、鈴の所まで歩いて行く。もちろん今度は、車に気をつけながら。

 そうして向かった道のわきには、金色の鈴がポツンと転がっていた。だけど。

『違う、これじゃないや。探していた鈴よりも、少し小さい……』

 え、そうなの? せっかく見つけたと思ったのに。

 マフィンはガックリとシッポを垂らしちゃって、とても残念そう。

「げ、元気出しなよ。まだ探し始めたばかりじゃない。って、マフィンはもう、一週間も探してるんだっけ」

 今日探し始めたばかりの、私とは違うんだった。

「ごめんねマフィン」

『どうしてアミが謝るのさ? 勘違いしたのはボクなんだから。そうだ、それよりさっき君、何か言いかけてなかった?』

 上目づかいで問いかけてくるマフィン。それは気になってるというよりも、話をそらそうとしているみたいに思えた。

『いったい何て言おうとしたの?』

「ああ、うん。大した事じゃないんだけどね。初めて動物の声が聞こえるようになった時の事を、思い出しちゃって」

『え? 最初から声が聞こえてたわけじゃないの?』

 うん。実はそうなんだよね。動物とお喋りできるようになったのは、一年くらい前かな。

 きっかけは、さっきの状況とよく似ている。学校からの帰り道、トラックに引かれそうになった子猫を見かけたんだけど、その時も体が勝手に動いて、助けに行っちゃったんだよね。

 たださっきと違うのは、子猫は助けられたけど私は逃げ遅れて、そのままはねられちゃったって事。

『トラックにはねられた⁉ それで、大丈夫だったの?』

 マフィンはビックリしてるけど、平気平気。この通りピンピンしてるもん。けど、あの時は意識が飛んで、本当に死んじゃったって思ったなあ。幸い大したケガも無くて、次の日には学校に行けたんだけどね。だけど話を聞いたマフィンは、呆れたような目をしてくる。

『そんな事があったのに、さっきはまた助けようとしたんだね。ボクが言うのもなんだけど、そんなんじゃ命がいくつあっても足りないよ』

「ううっ、分かってるよ。あの時もパパやママからこっぴどく怒られて、大変だったんだから。けど不思議、目を覚ました時には、動物の声が聞こえるようになっていたんだよね」

 もちろん最初はビックリしたよ。だけど、だんだんとお話するのが楽しくなっていって、そして今ではなぜか、動物の悩みを聞くようになっている。

「結局、何が原因かは分からないんだけどね。動物とお喋りするのは楽しいけど、やっぱり不思議だなあ」

『そうかな。そういうケースは意外とたくさんあるって、聞いたことがあるけど』

「そうなの?」

『うん。別に珍しいことじゃないよ。世界には人間が知らない不思議なんて、たくさんあるんだから』

 まるで不思議でも何でもないみたいに言われちゃった。私の中では人生で一番の衝撃事件だったのに、もしかしたら猫の感覚では、そうでもないのかな?

『あ、そうだ。アミ、ちょっといい?』

 え、なに? するとマフィンは突然、私の足に顔をすりよせてきた。

 あわわわわ、くすぐったい。だけど気持ちいい! フワフワとした毛布みたいな感触が、足を暖めてくれる。

「ええと、これは?」

『助けてもらったお礼。こういうスキンシップ、好きでしょ。それとも、迷惑だった?』

「そんなこと無い。すっごくすっごく嬉しいよ。ありがとうマフィン!」

『こら、抱きつくな! そこまでやるとは言っていない。もう、アミなんて嫌いだー!』

 思わず抱きしめちゃった私の手の中で、ジタバタともがくマフィン。ゴメンね、だけど仕方がないの。だってとっても可愛いんだもん!

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