相談内容は何ですか?

「ごめん、ホントーにごめん!」

 両手を合わせて謝ったけど、子猫は不機嫌なまま、冷たい視線を向けてくる。

『いきなりベタベタ触ってくる子なんて、信用できないよ。それに、何だか頼りなさそう。だいたいボクは元々、人間にお願いするなんて気が進まなかったんだ。パフェ、紹介してもらって悪いけど、やっぱり一人で何とかするよ。じゃあね』

 回れ右をして、テコテコと歩いて行く子猫。だけどせっかく来てもらったのに、その上失礼なことしちゃったのに、このまま帰すなんて出来ない。

「猫さん待って!」

『わっ⁉ コラ、急に掴むな! またボクでモフモフしようとしてるの⁉』

「それに関しては本当にゴメン。だけどさ、気が進まないのにやって来たって事は、よっぽど大事な相談があったってことじゃないの?」

『それは……』

 図星をつかれたのか、子猫は暴れるのを止めてくれた。

「良かったら、話してみてくれないかな? というか、さっきのお詫びもしたいし、話してくれるまで、絶対に放さない!」

『そんな変なお詫び、初めて聞いたよ。まあそこまで言うなら、話してあげてもいいけど。でもその前に、まずは放してよ!』

「あ、ごめん」

 手を放した途端に逃げられないかって心配したけど、幸いそんな事は無かった。子猫はまだ少しケイカイしながら、小さな目でじっと私を見上げてくる。

『それとさあ、その『猫さん』って呼ぶのは止めてくれない? ボクにはちゃんと、父さんと母さんからもらった名前があるんだから』

「あ、そっか。ちゃんと名前で呼ばないと、失礼だよね。それで、何て名前なの?」

『ボクの名前はマフィン。誇り高い、猫の王子だ』

 猫背だった体を大きく反り返して、胸を張ってる。マフィン、ね。ふふふ、可愛い名前。

 それにしても、猫の王子様かあ。パフェもそんな事を言ってたけど、王子様って事は猫の王国なんてものがあるのかな? 少なくとも可愛さは、立派に王子様級だよ。

「それで、相談したい事っていうのは、何なのかな?」

『実は、探してほしい物があって。少し前に無くした、鈴を見つけてほしいんだ』

「鈴?」

 鈴って、振れば音の鳴る、あの鈴? 聞き返すと、マフィンはコクンと頷いて、詳しい話をしてくれた。

『一週間くらい前かな。公園でお昼寝をしていたんだけど、起きたら首につけていた鈴が無くなってたんだ。リボンで結んであったんだけど、寝ている間にほどけちゃったみたい』

「きっとそのリボン、傷んでいたんだろうね。その時に、鈴も一緒に落ちたって事かな? ちゃんと周りは探したんだよね?」

『もちろん。だけど見つからなくて。それから毎日探しているけど、手がかりすら無いんだ。気配も感じなくて、近くを通りかかった犬に臭いをたどってもらった事もあったけど、途中で分からなくなってた』

 なるほど。聞いた感じだと、やっぱりちゃんと探しているみたい。途中に言っていた、鈴の気配ってのが気になったけど、もしかしたら人間には分からない、猫特有の感覚があるのかも。人間と猫とでは目に映る世界や、聞こえる音が違うって言うしね。

 それにしても、一週間かあ。そんなに探しているのに、見つかってないなんて。

『最近では公園以外の場所も探してるんだけど、一人で探すには限界があるからねえ。そんな時、君のウワサを聞いたんだ。動物の声が聞こえて、悩みを聞いてくれる変な女の子がいるって話を』

 変? 私のこと、今変って言った?

『それで、アミちゃんを紹介してほしいって、ワタシの所にやって来たの』

 パフェ、変って所は、スルーしちゃうんだね。それはそうと、問題なのはマフィンの相談。どこにあるかも分からない、小さな鈴を探さなくちゃいけないなんて、難しそうだなあ。

「ねえマフィン。その鈴がとても大事なものだってのは分かるけど、絶対にそれじゃなきゃダメなの? もし代わりの鈴でも良いなら、私が買ってあげてもいいけど」

 今月のお小遣いはまだ残ってるし、見つかるかどうか分からない物を探すよりも、買った方がきっと早いよ。だけどマフィンは途端に、悲しそうな顔をする。

『そんなの代わりにならないよ。絶対に、あの鈴じゃないとダメなんだ。けど、手伝ってもらえないなら仕方がない、一人で探すよ。それじゃあ、邪魔したね』

「わー、だから待ってってば! 誰も手伝わないなんて言ってないじゃない。でもごめんね、代わりの鈴なんて言って。いくら似ていても、代わりにならない物ってあるもんね」

 マフィンがその鈴にこだわる理由は知らないけど、聞かなくったっていい。掛け替えのない大事な物ってだけで、探すには十分な理由だもん。

「というわけで私も手伝うから、一緒に探そうよ。二人で探せば、きっと見つかるって」

『アタシも手伝いたいけど、ごめん。あんまり長く家を留守にしたら、スイくん達心配しちゃうから、無理っぽい』

 パフェはシュンとシッポを垂らしたけど、気にしなくて良いから。パフェの分まで、頑張って探せば良いんだしね。

『本当に引き受けてくれるの? けど、頼んでおいてなんだけど、きっとそう簡単には見つからないよ。それに見つかったとしても、何かお礼ができるってわけでもない。それでも君は、手伝ってくれるの?』

「もちろん。簡単に見つからないなら、それこそ二人で探した方が良いもんね。それに、お礼なんていいから。私が探したいって思ったから、手伝うだけなんだから。あ、でも」

『でも?』

 可愛く小首をかしげるマフィン。そのつぶらな緑色の目や、フワフワしたボディを見ていると、やっぱり気持ちが抑えきれなくなってきた。

「もしも鈴が見つかったら。お願い、もう一度モフモフさせて!」

『は?』

「あの触り心地抜群のフワフワ触感が、忘れられないの!」

 両手を合わせてお願いする私を、マフィンは呆れたように見ていたけど、やがて溜息をついて一言。

『分かったよ。ボクもタダ働きさせるのは気が引けるからね。もし見つかったら、好きなだけモフモフさせてあげる』

「本当⁉ ありがとう、マフィン大好き!」

『こら、見つかったらって言ったじゃないか。頬すりをするなー!』

 ごめんごめん、つい嬉しくなりすぎちゃった。だけどモフモフの為……ううん、モフモフが無くたって、大切な物なら、ちゃんと見付けないとね。大変かもしれないけど、頑張るよ!

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