夢と現実-3
◇
「えー、冬季限定いちごパフェをご注文のお客様」
「私です」
「日替わりフルーツタルトをご注文の……」
「私です」
「北海道産牛乳のソフトクリーム……」
「私です」
「黒蜜きなこ掛けあんみつ……」
「私です」
次々と私の前に並べられるスイーツをジトっとした目で見る星宮。
「ねぇ僕帰っていい?」
「いいわけないでしょ。それに、聞きたいことがあるのはあんたの方なんじゃないの」
「それはそうなんだけどさ」
星宮はため息をつく。
大量のスイーツを注文した『私』に対してブラックコーヒーだけを注文した星宮は、それを一口啜ると、「じゃあ本題に入るけど」と話し始めた。
「聞かせておくれよ、紺野さん。どうして紺野さんが一周目の世界に──『正しい』歴史に、干渉できてるのか」
「そんなの簡単なことだよ。この『正しい』歴史に『私』の後悔があった。だから星宮の力を使って戻ってこられた。それだけ」
「そもそも一周目の世界のことを今の紺野さんが知ってるのがおかしい。僕が話した内容の中には紺野さんの後悔の話なんてなかった。どうして紺野さんが、一周目の紺野さんの後悔を知ってるわけ?」
「それは私にも分かんない。あの時──叔母さんの家の部屋で眠ってる星宮のそばにいたら、急に全部思い出したんだよ。思い出した、って言い方も変かもしれないけど」
「何だよ、それ……」
星宮は頭を抱えた。
「だいたい、一周目の紺野さんは充実した高校生活を送ってただろ。後悔なんてどこにあるのさ」
「それがさぁ、一周目の『私』も『星宮くん』のことが好きだったんだよね。で、告白しないまま卒業したのが後悔。今言ったからその後悔も消えたけどね」
「……嘘だ、そんなの」
星宮はそう言って、コーヒーカップの中身を見つめた。
私は、何も言わない。言うべきことは言った。残りの決断をするのは星宮の仕事だ。
「そんな安いメロドラマみたいな話があってたまるもんか。だいたいそれなら、僕が今までやってきたことって何だったの。馬鹿みたいじゃないか、こんなの、だって」
「馬鹿だったんだよ、私たち。私たち二人とも馬鹿だった。それでたまたま星宮が超能力を持ってたから、こんな形になっちゃったの。それだけだよ」
「それでも僕が僕のために力を使って歴史を歪めた事実は消えない」
「まぁ、そうだね。でも今のところ、そうね──この世界のおかしなところは、『私』と『星宮くん』が、パラレルワールドの記憶を持ってる、ってことくらいじゃない? これで星宮が言うところの『歪んだ歴史』はなくなったよね」
「……それでも! それでも、罪はなくならない!」
「うるさいなぁ、もう」
たまらず私はため息をついた。
「いい? あんたは歴史を歪めたことに罪悪感を感じてた。そんでそれを解決しようとして、能力を解こうとした。自分が消えるって代償を払ってね。でも能力は自分に対してでなければ重複して使える。だから『私』の後悔を消すっていう形で歴史は元に戻された。だからあんたが罪悪感を感じる理由はもうないの」
「でもそんなのってあんまりにもご都合主義だ。なんで紺野さんがこっちの……正しい歴史の後悔を知れた? 別世界の自分の後悔に飛べた? 不可解なことばっかりだよ。こんなの……こんな都合のいいこと、許されていいわけがない」
尚も俯いてそう言う星宮。
確かに本来、星宮がしたことは許されないことなのだろう。でも、許されないようなことができる能力を手に入れたのは何も星宮のせいじゃない。不思議な力のせいなのだ。
だから不思議な力で起こったことは、不思議な力で解決してもいいじゃないか。
私がそう言っても星宮は、でもだのだってだのと言って聞かない。
仕方がないので私は、星宮の顔を両手で掴んで持ち上げると──強引に、口付けをした。
「……な、なんで」
「うるさい口だから塞いじゃった。……なーんちゃって」
そう茶化して、私は不敵に笑ってみせた。
「いい? もうごちゃごちゃ考えるのはやめ。──異能力モノはハッピーエンドって、相場が決まってるの」
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