第6話 夜が続けば月も出る(6)

 ダイヤモンドゲームは、六芒星の形の盤面を使ってやるゲームだった。6つ、とび出た三角形部分が陣地で3色に分かれている。その中のマスにそれぞれぴったり並べた同じ色をした15個のコマを向かいの同じ色の陣地に全て移すことが出来たら上がりだ。盤は、地になっている大きな六芒星を埋めるように小さな三角形がいくつもの六芒星になるよう辺と辺を接して籠目を描いている。とび出た陣地の三角形の中ももちろんそうだ。それぞれの小さい三角形の頂点がマスになっていて、1マスにコマは1個しか置けない。1ターンに動かせるコマも1個だけ。囲碁の盤面をそのまま四角ではなく三角に置き換えたような盤面のゲームは、別名をチャイニーズ・チェッカーというのだと『コマ』さんが得意気に教えてくれた。

「やった。」

 嬉しそうにぽんぽんとコマを動かす『アライ』さんに、『コマ』さんが悔しそうな声を出す。1ターンに1マスしか進むことが出来ないのだが、コマ1個分なら飛び越えることが出来るというルールがあって、うまい事コマと空いているマスとを互い違いに空けることが出来たらそのままぽんぽんと飛び越えて遠くまで進むことができるのだ。ただ線に沿ってさえいれば、好きなところまで飛んでいける。

「すごい気づかなかった。」

『クマ』さんが感心したようにうなずく。知らぬ間にうまい事道の一部に組み込まれていた『カナ』も、『コマ』さん同様にちょっと悔しそうだ。

「させるかよ。」

「あー、まだ使えたのに。」

 次の一手であっさり『アライ』さんの作った通り道を塞いでしまった『コマ』さんだったが、『アライ』さんは特に気にした風でもなかった。

「僕がもらいます。」

 今度は『カナ』が一気にコマを陣地まで進めてしまう。

「それでリードしたつもりかよ。」

 相変わらず『コマ』さんが一番陣地を埋めている。すごくシンプルなゲームだ。

「もうルール覚えた。次私もやりたい。」

「僕もやりたいな。」

「えー。『クジラ』強そうだからやだな。」

 この様子だと次のゲームをするもう1人はサヤなのだろうが、『クジラ』さんとやるはちょっとやだなというのは同意見だった。ひどいなあと『クジラ』さんは笑う。

「あ、待て『カナ』。王は飛び越せないぜ。」

『コマ』さんが腕を伸ばして『カナ』を押しとどめた。『カナ』はちょうど小気味よい音をたてて躍進しようとしていたところであったが、指摘されて、「ああ」と残念そうにコマを志半ばで下ろした。彼のコマをさえぎったのは、他のコマより少し凝ったデザインをした黄色いコマだった。

「ごめんね。」

 意図せず自分のコマが『カナ』を阻む形になった『アライ』さんが申し訳なさそうに言った。それぞれの手ゴマ15個には、1つずつ王様ゴマがある。これはチェスのクイーンみたく最強のコマで、飛び越せるコマの数に制限はない。王様だから、普通のコマは彼を飛び越せない。そして王様は玉座にいなければいけない。つまり、その定位置、六芒星の一番頂点の、二重丸になっているマスだ。陣地の一番奥の二重丸から、向かいの陣地の一番奥の二重丸まで動かさなければならない。

「忘れてた。」

 よほど悔しかったのだろう。『カナ』は聞いてもいないのに、ふと目が合ってしまっただけのサヤに言い訳するように言った。まさか言葉をかけられるなんて思わなかったものだから戸惑う。

 コマが大方陣地に収まり始めてしまった終盤はなかなかゲームが進まない。ちょっと飽きてしまったのかラグに身を投げ出すようにしてゲームを斜めに眺めはじめていた『クマ』さんが、ふと思いついたように言葉をこぼした。

「なんか、この学校のためのゲームみたいだね。」

 少しだけ、空気がすん、と遠のいた気がした。しかし、楽し気な空気を払いのけた当の本人はそんなことにまるで気づいた風もなく、クッションをねじり上げるのがとても楽しい事に急に気づいたようで、どうしてそう思ったのか語ってくれることはなかった。

 確かに、そうかもしれない。

 そう思いながら、サヤはそっと頬に手を当てた。なんだか、熱がぶり返してきたみたいだ。窓の外に見える空は、一層闇を濃くしたみたいだった。それと共に部屋の温度もさがったのだろうか。サヤは脱いでしまっていたポンチョを、そっと引き寄せた。

「この王様なんでこんなところに居座ってんの?邪魔。」

「ごめんね。」

『アライ』さんが苦笑しながら仕方なく王様を1つ横に動かした。そうじゃないよ、そこも邪魔。顔をしかめる『コマ』さんに、ざまあみろ、と『クマ』さんがクッションを投げた。


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