第5話 夜が続けば月も出る(5)

「眠っちゃったみたい」

『クジラ』さんがプレイルームに入ってきてまず報告する。サヤ達は食堂の一つ上の階にあるプレイルームに集まっていた。

 双子たちは、食事が終わってからも一言も口にすることはなくて、どうやって中等部まで来たのかはわからないままだった。そうしているうちに段々と眠たくなってしまったのか目がとろんとしてくるのを見かねて『クジラ』さんが自分の寮に連れていくと言ってくれたのだった。

 この学園には寮が大きくわけて3つあって、それは学園に設けられている3つのクラスに対応している。基本的に自分の所属する以外の寮に立ち入ることは許されていない。学生達は、衣服にそれぞれの寮の紋章を身につけなければいけないのだが、双子たちの付けていたバッジは、『クジラ』さんが所属するクラスのそれであった。

 バラをシンボルの中心にしたクラス・マーレ。逆三角形の上の平らな辺の真ん中に小さな三角形がにょっきと生えたような形の紋章。シンボルカラーは青だ。

 初等部にも高等部にもこのクラス分けは適用されていて、基本的に変わらないのだと、『クジラ』さんが教えてくれた。

『クマ』さんも、クラス・マーレだが、やはり男子寮が良いだろうということで『クジラ』さんのところに連れていこうとなったのだった。調理室も含まれていたことは知らなかったが、遊学旅行、巡礼の期間などの学生がほとんどいない時は限られた部屋しか空調設備が作動しない。中央システムで管理がされているから、学生達がそれをどうにかすることは出来ない。空調が常に作動する限られた場所で子どもが休める場所、といったら寮しかなかった。

「思ったより温かいから、ここに連れてきても良かったのかも。」

『クマ』さんが言うように、サヤ達のいるプレイルームも空調がついていないはずながら、かなり過ごしやすい温度が保たれていた。窓ガラスがはまっていて風が入らないからだな、とサヤは思った。『クジラ』さんの他、後に残された面々は全てのクラスの生徒が滞在することが出来て、なおかつ多少なりとも時間をつぶすことが出来るプレイルームに向かったのだった。

 今、何時くらいなのだろう。雪がしんしんと降る空には雲が濃く立ち込めていて、どれくらい夜が深まっているのか推し測ることもできない。サヤが今いるところからは時計は見当たらない。ずっと寝こけていたせいで眠気もない。

 腕時計があったら便利なのにな。

 サヤはぼんやりそう思った。この学園の不思議ルール。腕にはいかなる装飾品もつけてはいけない。そんなの他に聞いたことないよ。装飾品には、腕時計も含まれる。だからどうしても時計を携帯したければそういうキーホルダーを付けるか、や懐中時計を持つしかない。

「みんな何してたの?」

『クジラ』さんがそう聞きながらサヤ達が座っている近くの椅子に腰を下ろした。サヤ達は、プレイルームの奥にある、火の入っていない暖炉前のラグのところに丸くなって座っていた。渋い色の四角いラグには幾何学的な模様が描かれていて、その上にはいくつもの大きいクッションが散らばっている。

 その内の一際大きい黄色いクッションをつぶすようにして抱えていた『クマ』さんが側の丸いクッションを『クジラ』さんに向かって放り投げながら答えた。

「ダイヤモンドゲーム。」

「今俺の圧勝。」

 自分の頭上を越えて飛んでいくクッションに微動だにすることなく『コマ』さんが付け加える。サヤはこのゲームを知らなかった。サヤと『クマ』さん以外の、ゲームをやったことがあるという『コマ』さん、『アライ』さん、『カナ』の3人が今ちょうど盤面に身をかがめ額を突き合わせているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る