第4話 夜が続けば月も出る(4)
調理室は、パン屋さんの窯の中に小人が家を作ったらこんな感じだろうな、というような雰囲気であった。ふわっとした温かさに、サヤはむしろ身をすくめてしまう。
そこはこぢんまりとした部屋で、小さな流しとコンロが壁沿いに並び、大きな長テーブルが部屋の真ん中に居座っていた。その周りを小さな丸椅子が取り囲んでいて、今そのうちの二つに、肩を寄せ合うようにして男の子が二人座っていた。
「あれ、君たち、初等部の子?」
『クジラ』さんが驚いた声をあげる。二人はお互いに顔を見合わせ、そしてそろってうなずいた。その二つの顔は写し取ったみたいにそっくりだった。
「どうしたの?ここ、中等部だよ。どうやって入ってきたの?」
二人は優しく問いかける『クマ』さんに困ったような顔をした。この学園には、初等部、中等部、高等部があるが、そのどれもが独立していて、建物自体かなり離れて建てられている。わざわざ山のふもとの森の中にある初等部から歩いてきたにしては、二人とも軽装で、この雪の中山道を通ってきたようにはとても見えなかった。冬服には外出用の厚手のコートと、室内用のポンチョとがあり、それぞれ形は違うものの、初等部も高等部にも、中等部と同じようにその二つが渡されている。
今この二人の少年は、白いシャツにそのままポンチョだけを羽織って座っていた。二人は両手でパンを抱え、ちょうど食事の最中であるように見えた。
テーブルには白くて丸い皿に盛られたパンと、青みのある深皿によそわれた豆の煮物が乗っている。長細い大皿にはまだ湯気をうすく上げているチキンのローストが並んでいた。これが、夕食だろうか。
双子はパンをぎゅっと握りしめたままうつむいてしまった。
「とりあえず、ごはん食べよう。」
『アライ』さんがなんともいえない空気を振り払うようにして二人の方へ近づいて行って、その肩をポンポンと叩いた。そのまま調理台の方へ行く。そこにはお椀が、広げられた布巾の上にさかさまにして置かれていた。そして、コンロの上に置かれている寸胴鍋のふたを傾けて覗き込む。満足げにうなずく。
「やっぱり、スープもあるよ。よかったね。今よそうね。」
自分に背を向けたまま縮こまるような姿勢の双子に後ろから『アライ』さんが声をかけた。蓋をとると、やはり鍋からは湯気がたちのぼった。
まるでついさっき用意したばかりみたいに。
「『アライ』君さすが詳しいよね。」
迷わずお玉を壁から取りよそい始めた『アライ』さんに『クマ』さんが感嘆の声を上げる。そんな彼女に、ふふふ、とすこしだけ笑って、よそったスープを双子のところに置く。そしてやはり慣れた手つきで引き出しからスプーンを取り出す。
『アライ』さんが手渡したスプーンを、こわごわと受け取ると、二人は吸い込むようにしてスープを飲み始めた。クラムチャウダーだろうか。匂いをすん、とかいでサヤは思った。
「ほら僕らも食べよう。」
『クジラ』さんが次のスープの皿を受け取る。それを『カナ』が受け取って、サヤの手に渡された。ありがとう。そう言ったのに、ついと顔を背けられる。やっぱりなんだかいやなやつだな。ほとんどしゃべったこともなかったけど、そう思った。
「どうやってここに来たんだろうね。」
椅子に座りながら、誰にともなく『クマ』さんがつぶやく。双子は相変わらず笑顔も見せないままスープをすすっていた。
私も、とサヤが口をつけたスープは、ついさっき火から下ろしたばかりみたいに熱かった。
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