第10話 鬼ごっこ
夜闇で足元があまり見えない中、ヨゾラは全速力で駆けた。足を止めてしまえば、群れの先頭で走っている狼ゲノヴァがすぐさま飛び掛かってくるだろう。
噛みつかれたら最後だ。次々とゲノヴァたちが噛みついてきて、抵抗する間もなく殺されてしまう。
ヨゾラは草や岩などの障害物をうまく避け、単純な脚力で負けている狼ゲノヴァとの距離をなんとか一定に保っていた。しかし、当然ながら狼ゲノヴァが諦める気配はない。
「なっ!?」
いずれは追いつかれてしまう。そうは思っていたが、その時はすぐに来た。
逃げたヨゾラが辿り着いたのは、三メートルほど高い断崖。
これをどう飛び越えるか悩んでいる間に、狼ゲノヴァが追い付いてきた。ヨゾラを逃がさないように、群れで取り囲んでくる。
「くそっ……ここまでか」
牙をむき出しにしてにじり寄ってくる獣どもを見て、ヨゾラは己の死を悟る。
どんどん近づいてくる獣ども。後ろに下がりたくとも背中が岩壁にぶつかる。
そんな時、ヨゾラの右手に何かが当たる感触がした。
「え……? なんで、これがここに?」
そこにあったは、謎の剣だった。
先ほど確かにゲノヴァに向かって投げ捨てたはずなのに、不思議なことに岩壁に立てかけられていた。まるでそこに転移してきたかのようだ。
ゲノヴァに囲まれた状況で、もう逃げることができない。生き残れる手段があったとしたら、それは戦うことぐらいだ。まともな武器も持っていないヨゾラにとって、謎の剣が手元にあるのは好都合だった。
意を決したヨゾラが謎の剣を掴んだのと同時に、真正面にいた狼ゲノヴァの一匹が飛び掛かってきた。
「っ!」
リュックを咄嗟に身代わりにし、狼ゲノヴァに噛みつかせる。
「うおらっ!」
「きゃうん!?」
ゲノヴァの腹に、謎の剣を思い切り振るう。盛大に血しぶきを上げた後、ゲノヴァは倒れた。
「……意外と、軽い?」
謎の剣を振るって抱いた感想はそれだった。
言うなれば、見た目は金属だが、重さは木材以下。この剣は一体何でできているのか。
そして、おかしなことがもう一つ。
この剣で斬ったゲノヴァの傷が再生していない。ゲノヴァは例外なく驚異的な再生能力を持っているというのに。
「まさか死んでいる?」
その言葉を証明するかのように、他のゲノヴァたちが近づいてこなかった。仲間の死で警戒しているのだろうか。
しかし、それでもヨゾラが不利な状況は変わらない。一匹ずつの相手ならなんとかできたとしても、残りの五匹全部が一斉に襲い掛かってきたら勝ち目などない。
絶体絶命の状況。どうにか打開する術をヨゾラが考えていたら。
不意に。
断崖の上から、苛立ちを露わにした声が聞こえてきた。
「やっと、見つけた……っ」
声の方向へと目を向ける。
断崖の上には、こちらを鋭く睨む少女がいた。
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