第6話――お弁当箱作ってきました
足の怪我も完治したある日のお昼休み。
「あ、先来てたんですね」
「今日もお弁当ですか」
「はい。今日もお弁当です」
「自分で作ってるんですよね」
「はい、そうです」
「そう、ですか……」
ここで『偉いですね』とか、そういうキザなセリフが言えない所が最高に陰キャだよなボク。何だよ、そうですかって……。
鈴羽さんはバッグから黒色のお弁当箱を出す。女の子らしい小さな形で、少し細長かった。
「今日はハンバーグですか」
「はい、ハンバーグです」
「……」
ボクが容器の中で美味しそうな香りをさせている一口サイズのハンバーグを見ていると、鈴羽さんがゴホンを咳をした後にこう言う。
「作ってきました」
「え」
「作ってきました」
「聞こえてますけど……何を?」
作ってきたとは、どういう事だろうか。
まさか一からハンバーグを作ったのか? そんな手間をたかが昼食の為にかけるだなんて、鈴羽さんは中々頑張り屋さんだなぁ。
「何をって……それは」
「ハンバーグをですか?」
「それもそうですし……全部」
全部? って事はこのお花型の人参や肉詰めピーマンを、一から作ったのか? わざわざ人参をカットしたり、ピーマンにひき肉を詰めたりしたっていうのか? とんでもなく手間がかかっているじゃないか。そんなにお昼ご飯が好きなのか。
「食べて、くれますか?」
「え、でも……」
「でも?」
「でも、これだけ時間をかけて作ったんですから、ご自分で食べた方が……」
「? だからっ……」
プクッと頬を膨らませ、不快そうな顔をする鈴羽さん。可愛い。……いや、そんな事言ってる場合じゃない。何で怒っているか原因を見つけないと……。
「お昼ご飯……貴方の分も……作ったから」
「あ……」
「やっと分かったの? ……鈍感」
「ごめんなさい……」
「バカ」
散々に罵倒されてしまった。
でも不思議と怒る気にはなれなかった。何故だろうか。
「食べて」
「はい……」
恐縮していると、バッグからもう一つお弁当箱を取り出した。先程より少し大きめで、ボリュームがあった。普通の男子が食べるくらいの大きさだ。ボクは思わず声を上げてしまう。
「わ、」
「何ですか」
「いや、普通に……」
「普通に、何ですか?」
「普通に美味しそうです」
「普通に……?」
「いや、滅茶苦茶美味しそうです」
すると鈴羽さんはもにょりと何かを堪えるように頬をつりあげ、「んんっ」と数回咳払いをしたのだった。どうやら喜んでいるようだ。
すると鈴羽さん。肉詰めピーマンを箸でつまみ、ボクの口内めがけて『例のアレ』をしてした。それは――
「はい、あーん」
「ぅ、またですか……」
「食べて下さい。あーん」
「んん……えっと、あーん」
パク。モグモグ……。
うん、美味しい。程よい焼き加減と塩気が合わさって……家庭の味がする。
咀嚼していると、鈴羽さんが訊く。
「美味しいですか?」
「ああ、美味しいですよ」
「そ、ですか」
鈴羽さんは満足気に微笑むと、そのまま自分のお弁当箱を一口食べるのだった。
そんな彼女に、ボクはつい見惚れてしまうのだった。
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