第4話――鈴羽野絵瑠の気持ち
容姿端麗な人間は、他の人が得られない経験をする。でも、それは逆を言えば他の人が得ることは無いような大変な苦労もするという事だ。私にとってはナンパや、それ以上の身の危険がそうだ。
昔からそうだった。
あれは小学校2年生ぐらいの頃だったと思う。学校が終わって、歩いていたら後ろから大人の男の人に話しかけられたんだ。私は何が何だか分からず、後ろを振り返った。
――下半身に何も着てなかった。男の人のアレを見たのはお父さん以外では初めての経験だったと思う。いや、正確にはそれが『臨戦態勢』の状態になっているブツだったから、人生で初めてだった。
私は何が何だか分からず、男の人の顔を見た。――その表情は今でも思い出す。だって悪魔のような顔をしていたから。本当に、悪魔みたいだったのだから。
「鈴羽さん、今日も可愛いなぁ」
「絶対彼氏いるよな〜、でも誰かとつるんでるの見た事ないや」
教室の廊下にて。
男子生徒の人が私にも聞こえる声でそう言っている。うるさいなぁ。
あまり聞きたくない声だ。遠くに行こう。
「でもさ〜、絶対もうヤってるよな」
「家庭教師のヤリチンとかにかな」
「わかるー、あ〜あ。鈴羽さんの処○膜破るのは俺の仕事なのに〜」
聞いてしまった。
吐き気がするのでトイレに行く。
そして吐いた。あの人達のせいだ。
だから私の人生は最悪なんだ。神様は何で私をこんな容姿に産んだのだろう。普通で良かったのに。
「あ、あの……私」
「いや、だからさ〜、いいだろ〜? 奢るからさ」
「頼むよお姉さん〜」
街でナンパなんて、人生で何回もある。
何度体験しても上手な断り方が分からない。下手に刺激したら襲われるかもしれないし、でも何も言わなくてもいずれ襲われると思うと、どうしようもなく怖いのだ。
(こわい、よ……誰か……助けて……)
助けてくれる人なんていないって、分かっているのに、私の容姿を見たヒーロー気取りの青年が助けてくれないかと、そう思ってしまう。そんな人いる訳が無いのに。
「あ? 誰、お前」
男の人がそう言った。
その先には小柄な男性がいた。年齢は私と同じくらいか。
――その後はよく覚えていない。何か口論になった気もするし、なっていないような気もする。でも確かに覚えてるのは、その男性の怯えながらもナンパの人に立ち向かっていく姿勢と、その後連れ去られていったという事。うん、だいぶ覚えてたね。
それからその人を探した。
幸い、名前はすぐに判明した。この辺りでズタボロになってゴミ箱前に放置されているのを誰かが発見して救急車に運ばれたらしく随分と話題に上がっていたから。
――
今風の名前で、格好良いと思った。
私の事を恨んでいるだろうか。せめて謝罪がしたい。でも、えっちな事をされたらどうしよう。そう思うと怖くなってきた。
その後何とか入院先の病院を探し、恐る恐る中に入って病室を尋ねてみた。やっぱり謝罪はしなきゃいけないと、そう思ったから。
で、結果は最悪だった。
でも、顔を真っ赤にして病院先を出た後冷静になって顔を思い出すと、やっぱりあの人が私を助けてくれた人だと思った。
私はまだ謝っていない。今度、もし会えたら……ごめんなさいくらいは言わなきゃ。
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