第47話 原因

「んっ…」


 ずっしりとした重さを頭に感じ、目を覚ます。

 そこには目を腫らした両親と颯ちゃん家族が私のベッドを囲っていた。


「はる?分かるか?分かるか?はる」


「春佳!春佳ー!」


「颯ちゃん…お父さんも…みんな?…ここは?病院?」


「そうよ春佳。分かる?」


「うん。大丈夫」


 そして目を覚ました事に喜び、そして私が病院にいると認識すると誰もが顔を曇らせた。


 そうか頭になにか見つかったんだね。


 その雰囲気で大体予想はついた。おそらく私が倒れた事で脳の検査が行われ、そこで私の倒れた原因が分かったのだろう。

 皆の顔に陰を落とす原因が。


 前回は突然の激しい頭痛。私は生をあきらめていた。


 過去に戻り、変わった未来だから運命の歯車だって変わった。


 この先にどんなが未来が待っているか分からないけど、私はそれを受け入れよう。


「春佳よく聞くんだ」


 両親と3人となった病室でお父さんさ重々しく話し始めた。

 脳に出来た小さな脳腫瘍。それが原因だった。

 場所が悪く、小さくても今のうちに取り除く必要がある。これ以上大きくなるようなら最悪も覚悟しなくてはいけない。


 これが神様へのお祈りの結果なの?


 あの日あの時と同じような頭の激しい痛みで気を失なった私は直ぐに颯ちゃんが呼んでくれた救急車に運ばれ、検査を受けた。


 その画像診断により、脳腫瘍が見つかった。

 手術は難しくそのままならば余命3ヶ月。ちょうど前と同じ4月の始めの時期だ。


 そして例え成功しても場所が悪いらしく、記憶がなくなる可能性がある。その事実がお父さんから伝えられた。


 気付かないで悪かったと泣いて謝る両親に私は


「大丈夫だよ。」


 と笑顔を見せた。


 心配を伝える言葉をかけながらみんなが帰宅する。

 颯ちゃんも居なくなった。


 そして窓から皆が病院から出た事を確認した瞬間


 必死で奥に押し込み隠していた感情が一気溢れた。


 誰もいなくなった病室で大声で泣き叫ぶ。


「どうして?どうして!こんな運命なら戻らなくてよかった!こんな辛い運命なら知らないまま死んだほうがましだった!次がないなんて知らないまま同じ日に死んだほうが!」


 今の私になる為に、なんの為に友達を傷付けてみんなの人生を滅茶苦茶にして!


 どれくらいの言葉を吐き出し、どのくらいの涙を流したかわからない。


 次の日

 目を覚ますと、右手に温もりを感じる

 そのまま泣き疲れて眠ってしまったみたい。


「颯ちゃん?」


 いつからだろう

 ずっと手を握ってくれていた。


「おはよう」


 あっ私目が……


「いいよ隠さなくて」


 鏡を見なくても腫れているのが分かる。

 すぐに掛け布団で顔を覆い隠した。


「でも」


「手術受けよう。俺がついてる」


 掛け布団で顔を隠したままの私に颯ちゃんが優しく声を掛ける。


「そんな事言っても意味ないよ!治っても記憶喪失。結局“私“は死んじゃう。それなら…」


「それでも!」


 死んだ方がまし。そう言おうとする私に、颯ちゃんが言葉を重ねる。


「それでも必ず俺は一緒にいる。記憶だってなくなると限らない!」


「無理だよ!知ってる人が!好きな人が赤の他人みたいになるんだよ!それを私だけが知らずに暮らすなんてそんなの耐え切れない!」


 私を知っている人達。私を大事に思ってくれてる人達に、私は他人として暮らす。

 颯ちゃんの事だって……。


「なあはる?顔。見せてくれないか?」


 布団越しに一層優しい声になった颯ちゃんの声が届く。


 その声にゆっくりと布団をずらしていくと、颯ちゃんの優しげに微笑む顔が見えた。しかしその目は明らかに腫れ、目は充血していた。


 どうして……


「ごめんな、こんな顔で。こんな顔でいくら何言っても説得力なんてねえんだけど。それでもさ。たとえその時は記憶がなくても、また2人で一から思い出を作ろう。初めてお隣さんになったあの日みたいに。それから一日一日思い出を作っていこう」


 そう言った颯ちゃんは、私の大好きな優しい笑顔をしていた。

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