第44話 ケーキカット
「さあそろそろクリスマスケーキ食べましょう!」
「おー。いいねー。よしその前にもう一回かんぱーい」
颯ちゃんのお母さんがパンパンと手を叩く、陽気に話していたお父さん達もまたさらにビールを頭上に構え一気に流し込んだ。
はしゃぐ両親に私は前の私のクリスマスを思い出す。
前の人生の私のクリスマスは、颯ちゃんがいないクリスマスパーティだった。
颯ちゃんの両親はあの子はもう…といいながら、どこか私に遠慮がちで、少し居心地が悪かった私は、お父さん達の食器を必要ないくらい交換して台所に行ってた気がする。
そして自分の分のケーキだけ持って、部屋へと戻った。そんなクリスマスパーティだった。
今は颯ちゃんがいる。遠慮のない馬鹿騒ぎは、本当に楽しんでいる証拠なんだよね。
雪那ちゃんとなんで別れたのか。
何があったのか。
私には分からない。
でも私が。
この人生を歩んでいる私が影響しているのは分かっている。
「はる?大丈夫か?」
そんな事を考える横顔を、颯ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「うん。大丈夫。楽しいなって」
「だな。なんか本当に俺も久しぶりに気を使わないわ。大学のコンパじゃ先輩達の酒注ぐだけだし」
「それ克哉くんも言ってたよ。来年からは俺らが飲む!って廊下の窓から叫んでた」
「ははは。馬鹿だホント」
「はーい。クリスマスケーキカットするわよー。はい春佳ちゃん。ほら颯真もこっちこっち!」
「んだよ母ちゃん」
目の前に出されたメリークリスマスと書いたチョコの乗ったホールケーキ。
前のクリスマスケーキは6種類のそれぞれの好みに合わせたケーキだった。私はそこからモンブランを選んだ。
颯ちゃんのお母さんに腕を引かれながらケーキの前に立つと、刃の長いケーキナイフを握らされ、その上に颯ちゃんの手が置かれた。
「えっ」
「うふふ。いいわいいわ。ほらお父さん写真写真」
「おっおう。ほらもっと寄って寄って。いくぞーハイチーズ」
パシャ
パシャシャシャシャシャシャシャシャシャ
と携帯の連写機能が部屋に響くと、みんな大笑いした。
「もう。お父さんったら。あら…でも本当に良い写真。春佳ちゃんこの一年でどんどん綺麗になって…ほらほら見て見て」
その写真には私と颯ちゃんが本当に楽しそうな笑顔で写っていた。
新たに増えた一枚の写真
変わっていく人生の確かな一枚。
結局悪ノリした2人のお母さんに、颯ちゃんとケーキカットしそれぞれの両親に配ると、お父さん達は泣いて喜んだ。
ほんとにもう……。
深夜まで続いたパーティも終わり、家に帰る。お父さんとお母さんはもう少しして帰るらしい。
「おらー。颯真。ちゃんと送れよー春佳ちゃんをー。道草くうなよー」
「わーてるよ。てかどこに食えるほどの道草があるんだよ。っか毎回やらせんなよ!」
おじさんと颯ちゃんのいつものやりとりが始まる。入学式と今。何か変わっただろうか。
「行こうか。はる」
「うん。颯ちゃん。ありがと。じゃあおやすみなさい」
「「「「おやすみー」」」」
***
「親父達相変わらずだな」
「うん」
宣言通り、松笠家の玄関を出て道草せずに着いた七瀬家の玄関前。
「やっぱ外出るとさみいな。」
「うん。中入ってく?」
「そだな。親父達まだあんなだし」
玄関ドアを開け、パタンとドアが閉まると、反応した廊下の電気が点灯する。
入学式の日私はここでうずくもり涙を流した。
「はる?どうした?」
颯ちゃんは気づいているだろうか。春佳ではなく"はる"に呼び方が戻っている事に。
「ううん。なんでもない。さっ颯ちゃん。上がって上がって。寒いからリビング行こ」
「ふー。あったけ。」
「今暖かいお茶淹れるね」
「おっサンキュー」
気づいているだろか。その話し方も仕草も颯真くんじゃなく颯ちゃんに戻っている事に。
あの日、あの時、大樹桜の下で颯ちゃんに抱かれたとき、気持ちを伝える事も出来ず私は後悔した。
まだ伝えられない気持ちを伝えられる日が来るのだろうか。伝えてもいいと思える日が来るのだろか。
「よし。そろそろ落ち着いたかな。帰るか」
「うん。そうだね」
「なあはる。初詣一緒に行かないか」
「うん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます