第45話 大晦日
大晦日。
みぞれ雪がちらつき、道路へ落ちては溶けて消える。今年も残り24時間をきり、年末年始の準備に追われる12月31日。
今日も変わらず七瀬家と松笠家はお互いの家を行き来する。
「あっ…このネタ…」
黒服の男が走り逃げ惑う芸能人を捕まえ、新人のお笑い芸人はネタのために体を張る。勝者の行方も最新のネタも予想通りになる展開に、自分が2回目の人生を歩んでいる事を実感させられる。
バタフライエフェクト。小さな蝶の羽ばたきでさえ、遠くの何かに大きな影響を与えていると言われるが、私のこの世界での足掻きという名の羽ばたきは、彼らの勝敗や、ネタの完成度を左右する程の影響は与えられなかてはいなかった。せめて私の周りで直接私と関わりのある人達ぐらいなのだろう。
そして、お父さんがリモコンでチャンネルを変えて行く。どのチャンネルも特別番組を流し世の中に終わりと始まりを告げていた。
集まった2つの家族。
買い物が終わった昼過ぎから、自然と松笠家には今日の夜の準備が進み、七瀬家には明日の為のおせち料理が続々と運び込まれる。
「春佳。栗きんとん作っておいて。私佃煮に取り掛かるから」
「分かった。あと時間かかりそうなのある?
「んー。黒豆は牧さんが作ってくれてるし、タケノコも煮終わったし、あとは大丈夫かしらね。あっなますをお願い」
「はーい。牧おばさんの黒豆美味しいよね」
「そうなのよね。私には無理。だから助かるわー毎年作ってくれて」
毎年正月が近づくお互いの家でおせち料理作りが始まる。薩摩芋を茹でる間に、もう既にほとんど完成さているおせち料理を重箱に詰める。
年が明け、このおせち料理がなくなる頃には、私の残り時間も3ヶ月を切っている。
私の時間はあまりにも少ない。
紅白の歌合戦が始まる頃には皆、松笠家に集まっていた。
用意された鉄鍋で割下がグツグツと煮立ち、食材が投入されるのを待っている。
「母ちゃんもう入れていい?」
颯ちゃんがソワソワと待ちきれない表情でお肉の入ったトレーを持ち上げる。
「まったくあんたは…いいよ。頼むからバランスよく入れるんだよ!」
何も言わなければ肉だらけになりそうなほど、自分の前に肉のトレーを集めていた颯ちゃんに、おばさんが声をあげる。
毎年の大晦日のすき焼き。肉だけすき焼きにするという、既に前科3犯はしている常習犯の颯ちゃんも渋々野菜を投入する。
そんないつもと変わらない大晦日。
気付けば、年越し蕎麦も茹で上がり歌合戦も大トリを迎えていた。
「やっぱり大晦日って言ったらすき焼き食べて、酒飲んで、最後に年越し蕎麦だな」
「そうだそうだ。やっぱりこれがないと一年終わった感がないってな。今年一年の災厄を断ち切るってな。やっぱりこういうのが大事なんだよ。」
途中イビキをかいていたお父さん達も、年越し蕎麦の茹で上がりに合わせて、起こされていた。
「えっ親父。年越し蕎麦って細く長く生きれますようにって食うんじゃないの?」
「ああん。颯真何言ってんだ。男なら図太く長く生きろってんだよ。だから俺はそっちの意味は嫌いなんだよ」
「んだよ。親父の好みで選ぶなよ。なあ、はる」
「そうだね。私は細くても長くみんなといたいな」
細くても長くなくても、普通に颯ちゃんと一緒にいたいよ。
一緒に笑って。一緒に泣いて。イベント毎に集まって、おばさんと颯ちゃんのこと一緒に怒って…
そうして2人、一緒に歳を重ねて。
「おい…はる?…どした?」
「え?」
気付けば私の両方の瞳からポタポタと涙が流れていた。
「ううん。なんでもない!今年も色々あったなって。それ思い出してたら」
私は笑顔で答える。
「なっ。おっまえ…そんな事言うなら俺だよ泣きてえの…」
「うふふ。そうだね。じゃあ、お蕎麦食べて断ち切らないとね」
「おう。来年こそはいい年になりますように!」
そう言って音を立て勢いよく蕎麦を啜るころには、テレビの音は除夜の鐘に変わり108回の鐘の音を響かせる。
「もう直ぐだね。」
「あぁ」
カウントダウンが始まる。
10 9 8……3 2 1!
「「「「あけましておめでとうございます」」」
そして新しい年を迎える。
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