第43話 クリスマス
クリスマス、年末年始。
イベントが控える師走の忙しさの中、気付けば大学も年末年始の休暇まで3日を残しているが、単位的にはすでに開店休業中。ほとんどの学生がすでに休み入っていた。
颯ちゃんと雪那ちゃん。
結局2人はあの日に別れてしまった。
その事を克哉くんから聞いてから、学校でも2人が一緒にいるところは見なくなった。
それどころか、颯ちゃんは前以上にバイトで忙しくしている。
何かを忘れようとしているみたいに。
だからあれから颯ちゃんに2週間近くまともに会えていない。
こんな事生まれてから一度も経験したことがない。
颯ちゃん大丈夫かな。
そんな心配をしながら、原稿の修正を進める。
私の書いた『邂逅』が書籍化する事になったから。
優秀賞の副賞であった権利を私は了承した。
私がこの世界にいた。
と言う確かな物を残したい。私はそう思って書籍化の同意の判を押した。
八陸 真冬
私と颯ちゃんが入ったこの名前をそのまま残す事にした。
「もうクリスマスか」
12月25日
カレンダーを見ながら私は窓の外に見える隣りの家に視線を送った。
毎年颯ちゃんの家族と過ごしていたクリスマス。
今年は私だけになっちゃうのかな。
颯ちゃんと会えない寂しさが、パソコンを打つ手を止める。
「だめ!こんな気持ちじゃ進まない」
もやもやとした気持ちを変える為、コートを着て外へとでた。
「「あっ」」
ドアを開けた瞬間。
私の心が跳ね上がる。
「颯ちゃん……」
「はる……」
学校で2人で話しているのとは違う感覚が流れ込んでくる。
どこか気恥ずかしく、何故か遠慮してしまう。
「バイト?」
「ああ」
「頑張ってね。」
「おう。じゃあな」
「うん。じゃあね」
素っ気なく淡々と進む会話
あれからどこか幼馴染の二人に戻れない。
このまま時間が過ぎれば問題は解決しつ、普通に戻れると思う。
でもそれじゃだめ、私には時間がない。
だから!
「「今年のクリスマス」」
意を決した言葉が、同じタイミングで重なる。
「えっえっとど、どうぞ」
私は颯ちゃんに続きを促す。
「ごめん。今年のクリスマス。俺も参加するからさ。はるも来いよな」
顔を掻きながら颯ちゃんが私を誘う。
そして私は頷く。
「うん。私も同じこと言おうとしたの。楽しみにしてるね。
「あっあぁ。俺もだな。じゃあまたな。おばさん達によろしく」
そう言って恥ずかしそうに手を軽くあげ、自転車で颯ちゃんは少し前の颯ちゃんに戻った優しい笑顔を向け、コンビニへと向かった。
***
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
互いの両親が、上機嫌でビールのグラスを鳴らす。
入学式に卒業式。その度に繰り返されて来たイベントも勿論クリスマスも年末年始も一緒。まるで一つの大家族だ。
お父さんたちは早々にビールを開け、ジョッキをかかげる。お母さんも、この日ばかりはと買って来たチキンやお惣菜を並べて終えると、颯真くんのお母さんとワインをあけながら、楽しそうに料理を切り分ける。
「メリークリスマス!今年もまた皆んなでこうして集まれた!颯真!まあなんだ…そういう経験も大事って事だ…うん。お父さんも若いときは……」
「お父さん」
「ひ。もちろんお母さん一筋だ。そういう人が一番だ。無理をしない関係ってな。なっ母さん」
「もう。みんなの前で馬鹿なんだから」
雪那ちゃんと別れた事をいじられる颯ちゃんは、どことなく居心地が悪そうにチキンを頬張る。
それでも少し前より、気持ちの整理はついたみたいだった。
よかった。やっぱり颯ちゃんに笑っていて欲しい。
「はははは。うちの春佳だって綺麗な格好してった割にはなーんもなかったみたいだしな。焦らんでいいぞー」
「もう。お父さんの馬鹿」
うちはうちであの日の事を持ち出す。
あの日うちでは、お父さんがお母さんにとうとう娘が朝帰りするなんて騒いで、お母さんが平手打ちをしたいと、帰るなりげんなりした声で報告し、バツの悪そうなお父さんはさらに、1週間禁酒を言い渡されていた。
「メリークリスマス」
颯ちゃんと二人、グラスを合わせる。
「メリークリスマス」
「相変わらず親父達は遠慮ねえな。ったく。色々悩んでたのが馬鹿みたいだ、ホント」
「そうだね。お父さんたち楽しそう」
最初は堅かった二人の会話も、気づいてみればいつも通り流れるような会話になっていく。
何も緊張する事なく、ただただ自然に言葉が溢れ紡がれていく。そんな当たり前の会話。
久しぶりに楽しい時間があっという間に過ぎていく。
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