第38話 颯真と雪那④

 無事目的の金額も貯まり、雪那へのプレゼントも用意した。

 あれからお互いもう一度メールで謝り、残り2日のバイト生活も終えると、今まで以上に一緒に入れるように出来るだけ深夜に入るようにコンビニのバイトを調整し、雪那と過ごした。


 そして今日12月7日は雪那の誕生日だ。

 この日の為に、バイトを掛け持ちしプレゼントも買った。


 本当にこれが正しいのか。

 雪那と会う時間を減らして、雪那に寂しい思いをさせてまで…。


「大丈夫?颯ちゃん」


 昼からのシフトのため、コンビニにへ向かおうと外へと出るとちょうど春佳が帰ってきた。


「ああ。問題ないって。やっとプレゼントも買ったしな。絶対雪那も喜んでくれるよ」


 そう言って春佳に笑いかける。


「そっか。よかったね」


 そう言って笑う春佳の笑顔は、どこかいつもと違う笑顔だった。


「頑張ってね」


「おう」


 そう言って自転車にまたがり、コンビニへと向かった。


 今日駅に18時で大丈夫?


 OK

 15分前には行けるからいつでも大丈夫。


 雪那からのメッセージにすぐに返事を返すとすぐにまたメッセージが入る。


 楽しみしてるね!


 俺も。


 雪那にメッセージを返して、携帯をポケットに突っ込むと、一度大きな息を吐き出し落ち着く。


 今日一日、やけに落ち着かない。


 夜番の店員に引き継ぎを行い、スーツを着て髪をセットする。


「なんだよ颯真。スーツなんてデートか?」


 全国ツアーを無事に終えバイトに戻った中山さんが、喫煙を終えて休憩室に戻ってきた。


「はいっす。今日彼女の誕生日なんですよ」


「まじかっ。じゃあ楽しんでこいよ!」


「はいっ。先輩も夜番頑張ってください」


「おう。行ってこい。行ってこい」


 ぴらぴらと手を振る先輩に軽く頭を下げ、外へと出ると今日な気温の変化に体がブルっと震えた。


 手に持っていたコートを着て駅へと向かう。

 待ち合わせは横浜駅に18時。


 17時30分には無事着けそうだ。

 電車を降りて改札の外へと出ると、待ち合わせ場所の

 女の子の像へと向かう。


 ここから見る限りまだ雪那は来ていない。


 いつもの待ち合わせ以上に緊張している自分をなんとか落ち着かせ、像に着く。


「颯真くんみつけ!」


 その瞬間反対側の壁際から近付き手を振る雪那を見つける。


 いつもと違う雰囲気の雪那に一瞬で目を奪われる。


「……ごめん!待たせたか?あとえっと凄い綺麗だ…」


「うふ。嬉しい!美容室行った甲斐あったよ。颯真くんもかっこいいよ」


「おお。ありがと。寒くなかったか?」


「私も今着いたところだから全然待ってないから大丈夫だよ。行こっか」


 そう言って手を出す雪那の柔らかくて小さな手を握る。


 その横顔も大学に行く時とは違い、大人びていてまるで印象が違って見える。


 そしてその時間を楽しむようにゆっくりと目的のレストランへと向かう。


 そこはタワービルにあるフレンチレストラン


 夜景が有名で横浜の港エリアが一望できるレストランとしてネットやテレビでも紹介されていた。


「18時30分に予約している松笠です」


「いらっしゃいませ。松笠様2名様こちらご案内させて頂きます。」


 そう言われ、案内されたのは希望通りの横浜のみなとみらいが一望できる個室の席だった。


「凄い…綺麗」


 陽が落ち、すっかり暗くなったその窓からは、みなとみらいの夜景が乾燥した冬空にキラキラと宝石のように反射し煌めいていた。


 席に座るもしばらく窓の外に釘付けになる雪那は、凄い凄いと繰り返している。


 乾杯用のノンアルコールのシャンパンが用意される。


「雪那。誕生日おめでとう」


「ありがとう颯真くん」


「「乾杯」」


「凄いねここ。お洒落だし。夜景も凄い綺麗!」


「ああ。野尻湖でキャンプしたとき、消灯後に夜景のスポットを教えてくれたじゃん。あれすっげえ感動してさ。だからどうしても雪那の誕生日に、横浜の夜景をプレゼントしたかったんだよ」


「あそこそんなに喜んでくれたんだ!私のとっておきの場所だったの。ふふ。嬉し」


 澱みなく、自然と会話が弾む。

 ここ最近のギクシャクとした関係も、無理をした疲れも全て忘れてしまう。そんな時間が流れる。


 そしてコースが進み、その美しさと比例した味に感動を共有し、何度もその感動を味わい。

 デザートとなったとき。


 部屋の明かりが消え、ドアの開放と共にバースデーケーキが運びこまれ、店員がハッピーバースデーの歌を歌う。


「えっえっ。嘘…」


 そしてそのまま、雪那は、目の前に用意されたケーキの蝋燭を吹き消した。


「誕生日おめでとう。これプレゼント。ごめんなこれを用意するために逆に寂しい思いをさせて」


「うん。ありがとう颯真くん」


「大好きだよ雪那」


「うん!」


 よかった。全て上手くいった。

 雪那の泣きながらプレゼントを抱く姿を見ながら、一人安堵した。













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