第37話 颯真と雪那③
颯真
雪那の誕生日に間に合わせるため、学祭が終わってからの約1か月、大学に行く前や終わってからとにかくバイトを入れ、プレゼントの資金作りに励んでいた。
今まで貯めていたお金ではなく、どうしても雪那のプレゼントは自分で働いたお金で買いたかった。
それが結果、雪那との溝を広めることになるとも知らずに。
ただただこの行為が、雪那との関係修復になると信じて。
11月も終わりに近付き、ほぼプレゼントを買うお金もあと少しで貯まるといったころ、バイト先のコンビニに、バイト帰りの雪那が来店した。
「颯真くん。今、時間ある?」
「あー…ちょっと待って。石川さん」
俺は棚の整理をしていた先輩に声を掛ける。
「おう。休憩入ってないだろ?ついでに行って来いよ。この時間客少ねえし」
「ありがとうございます。どっかいくか?」
「ううん。外で大丈夫」
いつもと違い、少し暗い表情の雪那に、なぜだか不安がよぎる。
休憩室にあるジャンパーを掴み、すぐに着ながら外へと出ると、雪那が喫煙スペースにもなっているコンビニ脇の路地に手招きしていた。
「どうしたんだ?こんな時間に」
「ねえ。最近颯真くんちょっと変だよ。何でバイトばっかりしてるの?!」
雪那が急に大きな声を上げ、距離を詰める。
「なんだよいきなり。だからそれは何度も言ってる通り、俺と雪那の為なんだって」
初めての彼女にサプライズでプレゼントを。それさえ成功すれば、必ず雪那も喜んでくれて、俺達の関係はまた元に戻れる。
だから今は“何故”は言えない。
これまで黙って頑張ってきたのが無駄になってしまうから。
「最近忙しくてほとんどメールも返してくれないし、夜だって眠ちゃって既読にもならない。そんなに疲れるんならバイトなんて辞めちゃえばいいじゃない!」
「なんだよ。それは雪那のために!」
雪那と仲直りをするために……
「なんでわかってくれないのっ!」
「だから何でなんだよ。俺は雪那に許して貰いたいから!」
そう言う俺にますます雪那はヒートアップする。
「違う違う違う!そう言う事じゃないの!」
そして胸元をバシバシと叩き始めた。
「やめろってこんな所で、落ち着けって」
俺は雪那の肩を掴み出来るだけ優しい口調で落ち着かせる。
「もう颯真くんの気持ちわかんないよ!」
そんな俺を振りほどき、雪那は路地から出て行ってしまった。
どうしたって言うんだよ。
駅へと向かう雪那の背中を追う。
駅の階段下でやっと止まった雪那の肩に手を置き、確認した雪那の表情は悲しい顔で目頭に涙を浮かべていた。
そしてやっと自分が冷静ではなかった事に気付いた。
「ごめん。俺、色々考えてこれが一番だって思っちゃったんだ。でも雪那のそんな顔見たら違うって分かった。あと2日。あと2日で終わるから。それまで待ってってくれないか?」
こんな俺でも雪那の今の顔をみれば、俺の考えが間違っていたことに気付く。でもここまでやってきたんだ。だからせめて最後まで
ごめん雪那。
「うん。私こそ急にごめん。あと2日なんだね。じゃあ待ってるね」
「ああ。あとちゃんとメールも返すし、夜も確認するから。ほんとごめんな」
「ううん。大丈夫。無理…しないでね。颯真くん。大好きだよ」
「俺もだ」
好きだと言いながら見せる悲しい表情に、何と言うべきか分からず、それだけ返すのにやっとだった。
「じゃあね。休憩時間終わっちゃうでしょ?」
「あっああ。じゃあ気を付けてな。またメールするから」
「うん」
そう言って、手を振り階段を上って行く雪那の背中を見送り、コンビニへと戻った。
あと2日あと2日頑張って、雪那にちゃんと謝ろう。
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