第33話 11月

 季節は秋を終え、すっかりと肌寒くなってきた。

 11月に入り、私に残された時間も残り半分くらいだろう。

 歴史は変わっている。いつこの命の灯火が消えてもおかしくない。


 私は、今の私の人生をしっかり生きるんだ。


 大桜祭もあれから何事もなく終わり、私も2日目からメイドではなく裏方として無事役割を終えた。


 部長達がしきりに謝ってくれたが、私は気にしないでとしか言えなかった。


 それよりも、あれから颯ちゃんと雪那ちゃんは喧嘩してしまった。


 話しを聞けば、お店に来てくれたのは雪那ちゃんとその友達が劇を鑑賞している合間に来てくれて、連絡せずにそのまま私を家まで送ってくれていた。


 私のせいだ


「大丈夫?春ちゃん。」


「うん。私は大丈夫。それよりごめんね。雪那ちゃんと回ってる途中だったのに…」


 あの後しばらくして雪那ちゃんへ電話をすると、既に雪那ちゃんは事情を把握していた。


「ううん。颯真くんが悪いんだよ。連絡もしないで。それより私こそごめんね。近くにいてあげれなくて」


「うん。大丈夫だよ。ちょっと驚いただけだから。大桜祭楽しんでね」


 颯ちゃんに迷惑をかけないよう、雪那ちゃんには説明したはずだった。


 ただ雪那ちゃんからすれば、私の事とは全く別の話しで、彼女に連絡しなかった事や諸々が原因だったようだ。


「おかえり颯ちゃん」


「おっ。おうただいま。」


 23時部屋から外を見ていると颯ちゃんが帰ってくるのが見えた。

 白い息を吐きながら重い足取りでこちらに向かっている。学校の後すぐにバイトに向かいこの時間まで交通整理のアルバイトをしていたはず。


 私はすぐに部屋から玄関へと向かう。


 今、颯ちゃんは仲直りのため、コンビニ以外にバイトを掛け持ちしている。

 雪那ちゃんが欲しいと以前言っていたバッグとアクセサリーを誕生日とクリスマスにそれぞれにサプライズであげるため頑張っているようだ。


「大丈夫?無理してない?」


「なんだそんな事気にして出てきたのか?寒いから早く部屋戻れよ。大丈夫だから」


「うん。でも雪那ちゃんと喧嘩したの……」


「ちげえよ。俺が気遣いが足りなかったんだ。ほら早く部屋戻れって」


 それからも疲れ果てて帰ってくる颯ちゃんに何度か会った。


 毎日バイトをいれ、疲れて帰る。

 その繰り返し。


 それが更にすれ違いを生んだ。


「なんだよ。それは雪那のために!」


 颯ちゃんの働いているコンビニ。

 普段店員がタバコを吸っている店と店の間の路地から二人の声が聞こえてきた。


「なんでわかってくれないのっ!」


「だから何でなんだよ。俺は雪那に許して貰いたいから!」


「違う違う違う!そう言う事じゃないの!」


「やめろってこんなところで、落ち着けって」


「もう颯真くんの気持ちがわかんないよ!」


 ガタっと足音が近付き、私は急いでコンビニへ入る。


 私隠れてばかりだ……


「いらっしゃいませー」


 私はそのまま知らない店員さんの前を横切り、いつも颯ちゃんが飲んでいる炭酸水を冷蔵庫から取り出す。

 そもそもここへ来たのも颯ちゃんの様子を見に来ただけ。炭酸水なんてただの理由付け。


 でも二人のやりとりを聞いてしまった今、無性にスッキリとした飲み物を求めていた。


「うっ。喉痛い……」


 颯ちゃんが戻る前に買い物を済ませ、近くの公園のベンチで炭酸水を開け、一気に飲む。

 まるで飲み慣れていない炭酸の刺激で咽せそうになるのを必死で我慢し、体の力を抜いた。


「はぁ。雪那ちゃん……。」


 もちろん前の二人は、この時期にこんなに本格的な喧嘩をした事実はない。

 むしろ大桜祭が終わり一層中が深まっていた。


 颯ちゃんも雪那ちゃんも、私のせいではないと言うけど。


 違う……


 これは間違いなく私の行動が関わっている事。


 変わる歴史の中で、少しずつ私、雪那ちゃん、颯ちゃん、克哉くんとの関係性に、前とは違うズレが出てきていた。


「そう言えば、颯ちゃんと克哉くんもあれから学校で話してるの見てないな……」


 大桜祭の準備を仲良くやっていたはずの二人。

 でも大桜祭以降二人に距離が出来たように感じる。

 なにがあったのかな……


 あんなにいつも一緒だったのに。


 前までは4人か颯ちゃんと雪那ちゃん。私と克哉くんでいる事が多かった。


 でも今はお互いバラバラ。私と克哉くんがたまに会うくらいになってしまった。


「ん。やっぱり炭酸は苦手かも。明日、克哉くんに聞いてみようかな」


 私はなんとか飲みきり、公園の自販機横のゴミ箱にペットボトルを捨てた。








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