第25話 慌ただしくなる日々
夏休みも明けた9月の下旬
まだまだ暑さが残り、蝉が最後の命を燃やし尽くすように鳴き声を響かせる中。
構内は、また慌ただしく動き出していた。
桜華大学学祭
『
大学最大のイベントの季節が近づく。
サークルや有志によって、構内所狭しと模擬店やイベント会場が設置され、様々なイベントが連日開催される。
すべてのサークルにとっての活動資金獲得の為、そして日々の活動の成果を発表する為。まさにサークルの存続がかかった非常に重要な一大イベントとなっていた。
「うわー。めっちゃ忙しそうじゃんみんな」
構内中が準備で忙しく動いている中、私は克哉くんとサークルの集合時間まで、特に目的があるわけでもなく文化祭の準備風景を覗きながら、廊下を歩いている。
颯ちゃんと雪那ちゃんは、早々にバイトに向かい。
私達2人が、学校に残っていた。
「ん?克哉くんは、なんか出し物しないの?色々顔出してるって颯ちゃんから聞いてるけど……」
私と違って克哉くんは、交友関係が広い。
それはもうビックリするくらいに友達が多い。
こんな私と違って、すぐに周りと仲良くなってしまう克哉くんが羨ましい。
なんで克哉くんは、私と一緒にいてくれるんだろう……。
そんな疑問が頭をよぎる。
「俺?ん~たしかに色々手伝ってって言われてるけど、そこまでまだ忙しくはないな。なんだかんだで実際手伝うの、サッカーのだけだし。まっ臨時で手伝いくらいはするかな」
やっぱり克哉くんは、凄いよ。みんなが克哉くんを頼りにしてる。
「そっか」
「そういう事。今日は春ちゃんと帰るまで一緒って決めてるしね。俺バイトだし。帰宅部はこういう時、強制されないから楽なもんだホント。春ちゃんはこれからサークルの方に行くんでしょ?」
「まーざきくーん。なにしてんー?」
「おっ木崎と天川じゃん。俺仕事ないから見学よ。2人は?」
ジャージ姿のスリムで綺麗な二人組が手を振りながら克哉くんに話しかけた。
「私たちはダンスサークルだからもう練習だよー。めっちゃ頑張ってるから本番見に来てねー。七瀬さんもー」
「おうっ。絶対行くわ」
「うん。頑張ってね」
ほんとどうして私といてくれるんだろう。
こうやって歩いているだけでも、何人も克哉くんに声を掛けていく。
高校生活の3年間も、勿論私は人気者なんかではなかった。スクールカーストで言えば最底辺だ。小説ならクラスメイトJくらいの出番の無さだ。
そんな中カースト上位の颯ちゃんや、克哉くんと常に一緒にいる影の薄い陰キャな私は、女子生徒からどんな目で見られていたかぐらい、私でも容易に想像できる。
たぶん上手く2人がコントロールしてくれていたんだろう。そんなことも気づかないくらい、何も考えずに前の私は無駄な日々を送っていた。
もちろん学祭の思い出なんてない。前の私はほとんど裏方にまわり、机の上で数字を眺めていた。
それくらいしか、やることがなかったから……。
「うん。集合時間までまだ時間はあるけどね。先輩達が今日の買い出しに行ってくれてるから……」
そんな前の私を変えるため、私は積極的に手伝いを申し出た。今まで通りじゃ何も変えられないから。
「じゃあそれまで見てまわろっか。なんかの参考になるかもだし」
「うん」
「で?春ちゃんってそういえば何すんの?文芸サークルって……読書会…とか?」
「ううん。 文芸サークルは手芸サークルと調理サークルと合同で執事・メイド喫茶って言ってたよ。私は調理サークルの人と調理担当かな。今日何かお願いされるかもだけど」
「なんで文芸サークルが?」
たしかに私もなんで私達が入っているのかわからなかった。先輩曰く
「なんかそれっぽい?って言ってたよ。よくわからないけど……」
という事らしい。メイドって本を読むイメージなのかな?執事ってどんなイメージなの?
「それっぽい?…あぁそういう事」
克哉くんが何かに納得した様子で何度か頷く。
「ん?何?何かわかったの?」
「ううん。何でも。まあこれ考えたやつの思考はよく理解したってだけ。まあ仕事が料理で終わんないような気がしてきたけど……頑張ってね」
妙に納得した克哉くんに応援され、少し勇気がでた。
「んーよくわからないけど。頑張るね」
「おう。学祭楽しみになってきた。そろそろ時間だな。じゃあ手伝い頑張って」
「うん。克哉くんもね」
こうして日々は、慌ただしくなっていく。
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