第4話 4人での日常 颯真side
「おーす」
克哉が通りすがりに挨拶を交わす。
「おっ元気?この前サンキューな。今度もよろしく!」
「おっけーおっけー」
克哉とは一緒にいる事は多かったが、俺と違いどのグループの連中ともそれなりに付き合いはあり、学校内の情報をどこからともなく仕入れてくる奴だった。
少し軽し見た目チャラいが、この社交性の高さは正直尊敬する。
「それよか。颯真」
廊下の窓際に寄り掛かっていた克哉が真面目な表情になり姿勢を正す。
急に真面目な表情になる克哉になにかあるのかと、ドキッとする。
「なっなんだよ急に」
こいつがこの表情をする時は、間違いなくロクなことを考えていない。
「春ちゃん。何か大学に入ってから急にイメージ変わったよな……。文芸少女が、いまやりっぱな文芸美少女だ」
「……。何を真剣な顔をしてるかと思えば……」
全く何を言ってるんだか。
「だははは。いやマジでさ。入学式がこれで、今がこれ。変わり過ぎだろ。何かあったのか?」
携帯を目の前に突き出される。
写っているのは入学式の看板前で撮った写真と、前に雪那をいれて、4人で撮った写真だ。それを指先でスワイプしながら何度も交互に見せてくる。
たしかにそこには三つ編みの眼鏡少女と髪をおろしコンタクトにした。イメージのまったく違う少女が交互に切り替わっている。他の2人…まあ雪那は入学式の写真にいないわけだが、そこまで劇的に変わっていない自分と克哉と並ぶと変わりすぎている。
何かあったか?
克哉にそう聞かれても分からない。
春佳は入学式後の家族でのホームパーティーを途中で帰ってから変わった。
次の日からだ、小学校時代から変わらない髪の編み込みを解き、普段はしていないメイクを薄くだがし始めた。
その理由を考える……。
「いや。正直わからん」
たしかにあの日の春佳は変だった。急に泣き出したり、食事の途中で落ち込んでるような表情をしたり……
「ふーん。あれだな。恋だな。きっと俺に振り向いて欲しいんだな。待ってておくれ!春ちゃん!」
窓の外に向かい大きな声で叫ぶ克哉
やめてくれ…ホントに
「あー。はいはい。まあ春佳も大学生だからな、周りに合わせてメイクくらいするだろ。遅いくらいだよ」
「そうですか。はー。あんな幼なじみがいる颯真さんが羨ましいですな」
まったく。事ある度に幼なじみである事をいじってくる。
「はいはい。春佳は幼なじみ。以上!」
「はいはいそうですか。あっそういえばその春ちゃんなんだが、予想通り文芸サークルに入るっぽいぞ」
相変わらず俺の知らない情報を、一早く掴んでくる奴だ。
春佳から連絡ないから、まだ本決まりじゃないだろうに。
「……」
「何だよ。たまたま文芸サークルの前をウロウロしてる春ちゃんを見ただけだって。外見変わってもあの性格はかわんねぇな」
ああ。容易に想像出来るな。
大方見学しようにも、入る勇気がないんだろう。
その姿を想像するだけで少し安心して、笑えた。
「まあな。春佳は春佳だよ」
「うわ。何その余裕。んじゃそろそろ行くか?」
「ん。OK」
***
「そ〜う〜ま〜くん。か〜つくん。」
大学の正門に克哉と向かっていると、背後から声を掛けられる。
振り返ると、雪那が手を振りながら走って来ていた。
「おっ雪那ちゃん」
「お疲れ〜」
「ホントだよ。私もうバイトしてんのに、なんでサークルの説明会にでなきゃいけないのよ!あっ克くんもアルバイト決めたの?」
長野から一人上京している雪那は、入学と同時に近くのレストランで、ウェイトレスのバイトを始めている。今日は別の学部に出来た友人に付き合って、サークルの説明会に参加していた。
「あーこれ。まだ本決まりじゃないけど一応ね」
アルバイト先を報告する用紙をぴらぴらとしながら、克哉が雪那に応える。
「まあ颯真と同じ、駅前のコンビニなんだけどな。近いし」
「そうなんだ。じゃあ私も2人がバイト始めたら買いに行くね。お店近いし、あれ?春ちゃんは?」
「春佳なら今日は遅くなるから、別行動だな」
「そっかー。春ちゃんはサークル入るんだよね。いいなー。私も大学生活満喫したいよー」
「まあ雪那ちゃんのように一人暮らしも憧れるけどな。俺らは地元だから実家暮らしだし。バイトも学生生活の一部って事でさ」
「だな。克哉と春佳と今度店いくよ」
「うん。私の制服姿は凄いよー。克くん。エッチな目でみるのは禁止です」
スタイルの良い雪那が胸を両手で隠し、克哉の視線から逃げるように体を傾ける。
「うわ。なんで俺だけ」
「あははは。そうだな。克哉は視線に気をつけろよ。女の子はそういう視線に敏感らしいぞ」
「そうそう。気を付けるんだよ」
「わかった!じゃあ今のうちにガン見しとくわ!」
そう言って克哉は胸を凝視する。
「こらっスケベ!」
そんな克哉の視線から身を守るように、雪那が俺の後ろに身を隠した。
高校時代は常に一緒にいた2人と、雪那も輪に加わった日常が過ぎていく。
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