第3話 変えられない日々
チャイムの音。
講義が終わり、受講していた生徒達が一斉に立ち上がる。
「終わったー。いやっマジできつい。何で大学に入ったら90分なんだよ!俺50分でも限界だったてのにー。夢のキャンパスライフはどこいったー」
講師が出ていくと同時に克哉くんが項垂れながら、伏せた状態で叫んだ。
入学式から約2週間。
大学生活もようやく慣れてきた。
周りを見れば、すでにいくつかのグループができ、皆それぞれのグループで日々を過ごしている。
「結構うちの大学ガチだからな。まあ3年になったらだいぶ必修が減る……って言っても、きちーなホント」
「克哉くんも、颯真くんも必死で眠気と戦ってて、見て面白いよ」
「雪那ちゃんに見られてた!」
そう。
私達もこの大学でグループが出来た。
私と、颯ちゃん。そして克哉くんのいつもの3人組に雪那ちゃん。
あの入学式で撮影を頼んだ女の子。
そして、いずれ颯ちゃんの恋人になる女の子が加わった。
前と同じように……。 何も変わらずに。
***
「あっすみません。写真撮ってもらえますか?」
入学式で克哉くんが声を掛けた時、この運命は確定したんだろう。
オリエンテーションの日。
同じ講堂に一人でいた雪那ちゃんに、颯ちゃんと克哉くんが気付き声を掛けた。
長野県から上京してきた彼女は、もちろん知り合いもなく、自然と私達のグループに加わった。
前の私は、この色白でアイドルのように可愛い女の子に憧れを持った。
そして、すぐに仲良くなった。
***
「ん?どうしたの春ちゃん」
これまでの事を思い出していた私に、雪那ちゃんから声を掛けられる。
私は春ちゃんと呼ばれるけど前も今も、相変わらずコミュニケーション力の皆無な私は、気恥ずかしくて、雪ちゃんとは言えない……。
「ううん。何でもないよ雪那ちゃん。あっ私今日病院行かないと。だから先に帰るね」
「そっかー。今日だったね。頑張ってね」
「うん。まぁコンタクト作るだけだけど……」
膝を抱えて涙したあの日、私は変わる決意をした。
まずは、ほとんどしていなかったメイクの仕方を雑誌で勉強した。動画だって何度も繰り返し見た。
そして編んでいたおさげを解き、ポニーテイルのように纏めていた。前に颯ちゃんが好きだと言っていた髪型だ。
私が私の人生を後悔しないために、私は今出来る事をやる事に決めた。
その第一歩だ。
「おっ。とうとう春佳ちゃんもコンタクトデビューかー。また可愛いくなっちゃうと颯真も心配だな」
「なっ。なに言ってんだよ。んな事ねぇよ。ったく。病院。一緒に行くか?」
克哉くんがいつものように颯ちゃんをからかう。
本当に可愛いくなれてるのかな。
「うん」
きっと前の私なら大丈夫って応えてた。
そして残り1年を出来るだけ颯ちゃんと過ごせるように、私は少し積極的になった。
ここから先は、私の知らない“過去“。
だから2度目の私の本当の意味での“未来“。
私が変われば、この先の未来も変わるのかな?
変わって欲しいな。
だから一緒に行く。初めて変わった姿を一番に見て欲しいから。
***
「克哉ー。バイトどうする?」
4月の後半とは思えない唸るような暑さの中で、食堂のヒンヤリとしたエアコンの下、克哉と2人、ペットボトルの炭酸飲料を傾ける。
強烈な炭酸が喉を刺激し気分がスカッとする。
「あー。サークルかバイトだろ?どうすっかなー。颯真はー?」
テーブルに突っ伏して、そのひんやりとした感触を味わいながら克哉が気怠そうに返してきた。ここ最近はここに来るといつもこんなやりとりだ。
うちの大学は、サークルか社会経験としてのバイトを推奨している。特に俺たちの学部である経済学部はバイトを推奨しているのだ。
校内外ではサークルの勧誘が盛んに行われ、俺達はその煩わしさから逃げるように、食堂に避難してきていた。
「質問に質問で返すなよ……」
まったく。こいつはいつも。
まあ嫌なら嫌とはっきりというのが克哉だ。
同じバイトにするつもりなんだな。
「いいじゃん。で?どうせバイト一択のくせに」
「まあな。コンビニでも応募しようかな」
「うわ。ど定番……」
コンビニのなにが悪いのか。克哉が若干引き気味に応える。深夜なんて1500円なんだぞ。
「じゃあ克哉はどうすんだよ」
「んー。颯真と同じでいいや」
「なんだよそれ。やっぱりお前、もともとそのつもりだったろ」
「あたり〜」
ぴらぴらと手の平だけをこちらに向け、手を振る。
克哉との付き合いも4年目。
高一で同じクラスになって、それからずっと一緒のクラス。すでに腐れ縁ってやつだ。
ほんとこいつは変わらないな。
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