第20話 幼馴染
「星きれー」
テントを建て、カヌーでの散策を楽しんだあと、バーベキューを楽しむと、皆お腹をさすりながら、炎に照らされ久しぶりのゆっくりとした時間を過ごす。
パチパチと少し湿気を含んだ薪の炎から、火花が舞い空中で消える。
夜空に舞い上がる火の粉を見上げ、都会の空を見慣れた3人が声を揃えた。
「そうでしょ。すごい空が広いよね。私なんて逆に向こうに行って、空の狭さに驚いたしね。あやうくホームシックになるくらい……」
「うん。すごいね。凄く綺麗」
「やばいなこれ。これぞまさしく空の宝石箱やー」
「あははは。なんだよそれ。あっ流れ星!」
「うぉっ。彼女出来ますように彼女出来ますように彼女出来ますように!はい三回!」
颯ちゃんと克哉くんが見つけた流れ星に、4人で目を閉じ手を合わせながら願い事をする。
「もう。なにそれ!それに願い事は口に出したらかなわないって言わない?」
直接過ぎる克哉くんの願いに、雪那ちゃんが駄目だしをいれる。
「えっマジで⁈ってかいいじゃんか。2人は。彼氏とか彼女くださいって言わないですむんだから。なぁ颯真」
「ったく。そんなあからさま過ぎるから女友達は多くても彼女ができないんだよお前は」
「ぐっ…いいよ。すっげー流れ星多いしいっぱい願い事してやる!」
忙しかったさっきまでが信じられないくらいに、ゆっくりと楽しい時間が過ぎる。
私の願い事は、口に出したら本当に叶わず終わるだろう。
その願いは誰にも言えない。
だって、この関係が崩れてしまうから。
でも願わずにはいられないよ颯ちゃん。
私は決めたから。
前の私と同じにならないって。
こんなに皆んなと笑いながら、私はこの願いを変えられない。
ごめんね雪那ちゃん。
楽しい。苦しい。嬉しい。辛い。色々な感情でぐちゃぐちゃだよ。
焚火に照らされて熱くなった私の顔は笑ってる?それとも苦しんでる?
颯ちゃん。私……
「そうだユッキーマシュマロマシュマロ!」
克哉くんの声ですっと心が戻された。
「あっそうだ。そろそろマシュマロ焼こうよ」
うん。いまは楽しもう。
「うわでっか」
雪那ちゃんがクーラーボックスから取り出したのは、普段あまり見ないアメリカンサイズの大きなマシュマロ。それを長い鉄の棒に刺している。
「でしょでしょ。やっぱりキャンプといったらこれだよね。超BIGマシュマロ!はい春ちゃん」
「ありがと雪那ちゃん。ほんと大きいね」
雪那ちゃんは、本当に明るくて可愛い。そんな雪那ちゃんを私は大好き……。
だから颯ちゃんを無理矢理どうしようとは思っていない。ただ後悔したくない。
だから私は、一歩ずつ進んでいく。
なにもしなかったって、後悔して死にたくないんだ。ごめんね。わがままだよね私。
4人で熱い熱い甘い甘いと大騒ぎしながらマシュマロを頬張り、食べ終えると消灯時間を迎える。
周囲の焚火や灯りが消えていく中、颯ちゃんと克哉くんが焚火を消すと、頬の熱さがすっとひいた。
消灯時間が過ぎたキャンプ場の明かりが一斉に消え、本当の夜空が現れる。
「ねえ。消灯時間過ぎたけどちょっと湖の方に行かない?みんなに見せたいとっておきがあるんだ」
もちろんこの誘いを反対する者はいない。
ヘッドライトの明かりを頼りに、雪那ちゃんを先頭に斜面をおり湖面に向かう。そして大きな岩を避けながら湖面に立つと、そこはちょうど湖の対岸が隠れ、地平線のように湖が広がるように見える場所だった。
満点の星空が、散りばめられた宝石のように湖に反射し、向こう側で空と湖がつながる。
その光景に先ほど以上の衝撃が胸に広がった。
「おぉー。すげぇまじでやべぇ」
「あぁ」
「綺麗」
星空と湖を見つめる4人。
先ほどの夜空での大騒ぎした感動と違い。
声がでないのだ。
その光景はただただ美しかった。
そんな中、雪那ちゃんが指を颯ちゃんの指に絡める。
一瞬ズキリと胸が痛むも、この景色を颯ちゃんと見れたこの今の人生に感謝しようと、私は再び星空に視線を戻した。
皆がテントに戻りしばらくして、私は一人雪那ちゃんを起こさないようにそっとテントから外にでると、置いてあるチェアに静かに腰掛け夜空を見上げる。
都会と違い、人工的な音がなくなったキャンプ場には、風に揺れる草花な木々、虫の音、自然の音がこれでもかというほど溢れている。
ただ不思議なことにうるさいとは感じない。
ふとした瞬間に浮かんでくる余計な雑念は、この虫たちの声に集中している間は浮かんでこなかった。
夜空を見上げながらチェアに深く座り直すと、ギッと人工的な音があたりに響いた。
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