第16話 感情の波

「じゃあ。雪ちゃん。みんなをお部屋に案内してね」


「うん」


 雪那ちゃんのご両親。了さんと香織さんに挨拶を済まると2人はまた仕事に戻っていった。


「じゃっ行こっか。今日から泊まる我が家にご案内しま〜す」


「おっ。じゃあ一回、車の荷物回収しなきゃだな。行こーぜ颯真」


「おう。春佳と雪那は先に行ってていいぞ。荷物は俺らが運ぶから」


「えっ。あっ。うん。ありがと。重いから気をつけてね」


 ペンションで上がった気持ちのまま車に戻っていく颯ちゃん達を笑顔で見送ると、雪那ちゃんに手を引かれ隣の家に向かう。


 ペンションの隣に建てられた一軒家。

 それが雪那ちゃんの居住用の家だった。5LDKの2階建ての1室、雪那ちゃんの部屋ともう2部屋に分れて、これから2週間泊まる予定となっている。


「ただいまー。さっ入って入って」


「お邪魔しまーす」


 ペンションと違って一般的な戸建て。それでも雪国らしく積雪があっても開閉できるようになっている玄関の引き戸を開け、雪那ちゃんに案内されるまま入ると、我が家とは比べものにならないほど広い玄関にお洒落な小物が置いてあり、なんだか雪那ちゃんちだなと納得してしまう自分がいた。


「わぁ。広いね!」


「んふふ。ホント向こうのマンションとは大違いだよ。あーやっと帰ってきた感じがするー。春ちゃん入って入って」


「うん。おじゃまします」


 女の子の友達の家に初めて泊まる。

 自分でも信じられないくらいワクワクしてる。


「おじゃまし……おー。ひれー。玄関広っ!」


「ほら克哉早く入ってくれ。お邪魔します。ってホントに広っ!」


 うんうん。そうだよね。そう思うよね。


 ドスドスっと玄関に荷物を下ろし、玄関に2人が腰をおろす。お宅訪問みたいな感じでキョロキョロと視線を移し、無駄にテンションの高い2人にを見ながら私もついキョロキョロしてしまう。


 築3年という真新しさの残る高嶺家は5LDK+屋根裏部屋という間取り。

 1階にLDKと水回り、トイレにお風呂。そして了さん達の主寝室。

 2階に4部屋と小さな洗面スペースとトイレがあり、廊下の天井の階段を下ろせば屋根裏部屋と繋がっているようだ。

 3人家族の家とは思えないくらい広かった。


「もともとおじいちゃんとおばあちゃんも住む予定だったんだけどねー。完成前に亡くなっちゃったんだよ。だから無駄に広いんだよね」


 部屋を案内しながら、雪那ちゃんが明るく話す。

 その表情に深刻さは感じられないところを見れば、家族内では笑い話にできる話題なのかな。


 2階に上がり『ゆ・き・な』とネームプレートがかけられた部屋の隣のドアを開け、10畳くらいの広めの部屋につく。

 本来1階を祖父母、2階のこの部屋が了と香織さんの主寝室の予定だったようで、広めの部屋に今はちょっとした段ボール詰の荷物と、布団が置いてあった。


「ここが颯真くんと克哉くんの部屋ね。ごめんね少し荷物置いてあるけど……」


「おー。全然気にしない!いいじゃんいいじゃん。俺の部屋より広いし」


「隣が私の部屋でここが2人の部屋。それでその隣が春ちゃんの部屋。2週間もあるけど颯真くんと克哉くんの部屋が分けれなくてごめんね」


「いや。俺達は大丈夫だ。なっ?克哉」


「全然問題なし」


「ありがと。じゃあ疲れたと思うから休んで。今日は簡単に仕事見てもらう感じだから17:30にペンションに行く感じでいいかな」


「うん。大丈夫だよ」


「あと2時間弱だな。じゃあ俺は寝るわ!おやすみ!」


 集合時間を伝えられると、よほど疲れていたのだろう。克哉くんは、部屋に入りそのまま畳んであった布団の一つに身を投げ出し、パフっという効果音が聞こえてきそうなくらい無防備に布団に倒れ込んだ。


「じゃあ時間まで解散!」


 克哉くんが早々に部屋へ入ると、残った颯ちゃんと私に向け雪那ちゃんが一時解散を宣言し、各々の部屋へと向かう。


 荷物を部屋に運び入れドアを締めると、体の力が急にフッと抜け座り込んでしまった。

 扉を締め、自分一人になったことで緊張感から解放され力が抜けたのだろう。


 朝早く起きてここまで5時間以上。運転していた克哉くんとは違い、ただ座って愉しんでいただけだったけど、どこかで雪那ちゃんの両親に会うこと、颯ちゃんと雪那ちゃんのことを気にしていた。


 4人でいっぱい喋って、笑って。だけどちょっとした瞬間に2人の姿が目に入って一瞬だけ素に戻って。

 感情が大忙しだったな。


 ふと前の記憶を思い出す。

 この時間は、ちょうど図書館から帰ってきた時間だった。

 朝起きてゆっくり朝食を摂って、図書館へ行き。

 1人ただただ何も考えずに、小説を読みふける。


 同じ私の人生なのに、こんなにも違うのかと自然と笑わずにはいられなかった。


「私もちょっと休もうかな」


 用意された6畳程の部屋には、布団と一人掛けの小さなソファーチェアとテーブルが置かれていた。

 力が抜けドアの前に座り込んでいた体をなんとか起こし、バッグからペンションのマニュアを取り出し、ソファーに掛ける。


 そのまま1枚、2枚とマニュアルのページをめくっていると強い睡魔に襲われ目蓋が重くなり、そのまま私は意識を手放した。

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