第15話 高嶺家

 高速のインターを下り、野尻湖の西側からぐるりと北側に向かう。


 インターを下りればいつもの景色とは一変したのどかな風景が広がっていた。

 18号線を北上し、野尻湖のキャンプ場や釣り、そしてアクティビティの看板を見送りながらカーナビのアナウンスに従い、野尻湖湖畔に向かう。


 そして野尻湖を望む道路沿いのカーナビの示す位置を見ると、木造のお洒落なペンションが見えた。


 そこは道路向かいに野尻湖、そしてペンション奥に妙高山を望む立地で、宿泊客用の駐車場にはすでに何台か車が停まっていた。


「到着〜。克哉くんお疲れ様!ねぇねぇ颯真くん春ちゃん。これが私の実家だよ!」


 敷地内へと入ると、雪那ちゃんが興奮した様子でペンションを指差した。


「おーすげー。超お洒落じゃん!」


「すごいね」


 みんなが興奮する中、克哉くんが車を止めレバーをパーキング(P)にいれ、大きく息を吐きながらハンドルにもたれかかった。


「ふへ〜。やっと着いたか。やっぱ結構かかったな。皆んなもおつかれ〜」


 時間は15時をまわっている。

 結局ここまで5時間以上かかってしまった。

 

 それは疲れるよね。


「お疲れ様。克哉くん。本当にありがとね」


「おう。まぁ疲れたけど、春佳ちゃんが隣ならまだまだ俺は、何時間でも運転できちゃうよ〜」


「じゃあまた1番引かないとね」


「あっお母さん!」


 そんな冗談をいいながらシートベルトを外していると、ペンションから可愛らしい女性が出てきた。


 雪那ちゃんのお母さんだ。


「皆さん。この度はこんな遠くまで来ていただいて有難うございます。雪那の母です。高嶺さんだとみんな振り向いちゃうから香織って呼んでくださいね。」


 車から出た私たちに優しいく微笑みふわりと頭を下げる雪那ちゃんのお母さん。


 年齢は雪那ちゃんのお母さんなのに、どう見ても30代。

 雪那ちゃんと同じくらいの身長。髪型はボブカットで、くりっとした二重に目元の泣きボクロ。


 何よりもすっごく可愛い。本当に一児の母親なのかと疑いたくなるその若々しさについ見惚れてしまった。


 お母さん。ごめんね。

 雪那ちゃんのお母さん。香織さんは、私の地味なお母さんとは比べ物にならないほど輝いています。


「「「こんにちは!よろしくお願いします」」」


「ただいまー。お母さん」


「雪ちゃんおかえり。皆さんもどうぞ2週間よろしくね。お父さんも楽しみにしてたのよ。雪ちゃんが大学で出来た友達連れてくるって聞いて。さぁどうぞ。中に入って」


 香織さんに案内され、ペンションの中へと入ると。そこは木目の美しい吹き抜けの広い空間だった。


 野尻湖周辺の自然を感じられるようにと、吹き抜けと大きな窓で開放感と木の美しさにこだわったという玄関ホール。


 その空間を前に、3人の足は完全に止まり、魅入ってしまっていた。ここだけでも、私がお客さんならもう一度このペンションを選ぶと思う。


「おっ。嬉しいね。そんな顔が見れると、こだわった甲斐があったよ」


「あっパ…お父さん!」


 うん。雪那ちゃん実家ではパパなんだね。じゃあ香織さんはママって呼ばれてるのかな?


「ハハハ。おかえり雪那。皆さんようこそ『la neigeラ ネージュ』へ。当ペンションのオーナー兼シェフ。そして雪那のパパ 高嶺 了です。オーナーでもシェフでも了さんでも好きに呼んでくれて構わないよ」


 雪那ちゃんのお父さんはとてもお茶目な人だった。

 そして、比較的背の低い雪那ちゃんと香織さんと並ぶとその背の高さが際立っていた。

 颯ちゃんより高いから180cm以上はありそうだ。

 

 その印象は、物腰の柔らかな宿のオーナーというより、活発で爽やかなイメージ。昔から活躍しているアイドルみたいな人で、雪那ちゃんのお父さんとお母さんはまさしく美男美女夫婦だった。


「もう!お父さん!パパって言ってるの言わない約束!」


 うん。雪那ちゃん。自分で言ってたよ……。


「そうか?それはすまん。みんな内緒にしてくれるかな?そうだ雪那。まだみんなを紹介してくれないのかい?」


「ん。もう……。わかったわよ。えっとこちらは桜華大学経済学部で入学当初から仲良くしてる友達で、2週間うちを手伝ってくれる。七瀬 春佳ちゃん。松風 颯真くん。真崎 克哉くん。です」


 あれ?颯ちゃんと私たちを“友達“として一緒に紹介するの?

 私達の事、了さんと香織さんはどこまで知ってるんだろう。


「2週間。よろしくお願いします。松風 颯真です」


 余計なことをあれこれ考えているうちに颯ちゃんが挨拶をする。


「よろしくお願いします。真崎 克哉です」


 雪那ちゃんの紹介に続き、2人が順に挨拶を済ませていく。

 私の中で緊張感が高まる。こういう時に自分のコミュニケーション能力の低さを感じる。


「よろしくお願いします。七瀬 春佳です」


 なれない自己紹介に心臓の鼓動が早く脈打つ。ちゃんと言えたかな……。


「颯真くんに、克哉くんに春佳ちゃん。雪那がお世話になってます。そしてこちらこそ2週間よろしくお願いね。食事とデザートが自慢のペンションだから、食事は期待しててね」


「はいっめっちゃ楽しみにしてます!」


 こういうときの克哉くんのコミュニケーション能力の高さが羨ましい。


 でも気づくのが遅かったけど、克哉くんの耳からいつものピアスが外されている。

 

 見た目は軽そうに見えるけど、こういう気遣いがきちんとできる人。


 前の私もこの気遣いにいっぱい助けられていたっけ。


 目の前の素敵な家族に、既に私の心は踊っていた。





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